蛍そのニ

 暫くしてまた、彼女と沢へ行きました。近頃は、以前まで淡い黄や緑をしていた草木が、空の青を吸って鮮やかに発色し始めておりました。日が出ている裡は初夏のような日差しが私を刺してくるのですが、夜はその体を労るかのように柔らかな涼しさが包み、春らしさがまだ残っているようでした。

 

 空は良く晴れ、綺麗な藍色が広がっており、月と星々が夜道を照らし、虫や蛙達が賑やかにしていました。以前より少し伸びた草なんかを掻き分けながら進んでいきますと、二人で入ってきたこの沢にも沢山の星々が煌めいておりました。

 

 蛍は沢中を飛びまわり、葉や枝に留まります。そして再び何かを探すかのように飛んで行くのです。


「まぁ、綺麗ね。」


 そう言った彼女の横顔は、淡い光に照らされ何とも言えない神々しい儚げな美しさを放っておりました。


「ああ、綺麗だ。」


 手に取れるほどの無数の星々は、沢に沿って小さな天の川を作っておりました。私達は時々迷って来たそれを見つめながら星夜を過ごしたのでした。


 もの思へば沢の蛍もわが身より あくがれいづる魂かとぞみる

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木漏れ日 吉村 俊雄 @yosimura10016

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