躑躅
あれから、ニ週間ほど経ちました。近所のツツジが立派に咲いておると言うので、少し見に行ってみることにしました。途中、村の女性たちが話しているのを見かけまして、そこには彼女も混じっておりました。声をかけようかと迷いましたが、私の勇気はそこで止まってしまいました。しかし彼女は、こちらに気付いたようで微笑み、会釈をしてきました。
そこのツツジは今まさに満開な様でありました。きれいな桃色をしており中には赤や紅色が混じっていて、それはそれは華やかでありました。良いものを見たと私は上機嫌になり、来た道をかすかな期待を浮かべて戻っていきました。
先程の場所に彼女は一人で居りました。私は、ひどく青臭いことを考えておったと恥ずかしくなってしまいました。
「どこに行ってらしたんですか。」
「野中さんのツツジを見てきたんだ。とてもよかったよ。あれは見事だったね。剪定をしっかりとしているんだろう。君も今度見に行ってみるといい。」
私は何ともなかったようにそう答えました。
「実は、この前行ってきましたわ。あなたが花を教えてくださってからいろんなところに行ってきましたの。楽しみが増えて嬉しかったわ、ありがとう。」
彼女はにっこりと笑う。
まいったな。私はまた胸がうるさくなってくるのを感じました。
それから私たちはいつもの山奥へと足を進めました。
「この沢はね、もうそろそろ蛍が出るんだよ。」
ふと思い出して言いました。この沢は、蛍が多く出るのです。下の川にも出るのですが、こちらの方がいくらか多く、蛍狩りをするなら此処だと、私のお気に入りの場所でありました。」
「美しいでしょうね。」
「とてもね。どうだ、もう三日四日すればちらほら出てくるはずだから見に行かないか。」
どうしたことか、私は彼女を誘ってしまいました。
「いいわね、是非行きたいわ。」
私たちは、集合場所や時刻と色々話し合いました。
それが彼女と初めての約束でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます