第10.5話 柚羽side

 「えっ」


 そう声を漏らして、言葉を失った。

 たった今目が合った男の子は、球場で仲良くしてるスワローズファン。

 年下だけど落ち着いていて、たまに年下だということを忘れることもある。そんな子。

 今日は来てるのかなって、何となく気になって、するとたまたま目が合っちゃう。そんな子。

 最近は話すようにもなって、神宮に行く一つの楽しみにもなっていた。

 その彼と今、会うはずがない場所で、すれ違った。たまたま目が合っちゃった。

 ううん。そこは別にどうでもいい。

 会ったことはただの偶然で、こういうこともあるんだと思う。でも……。


 「柚羽?何かあった??」

 「ううん、なんでもない!」


 友人の言葉に、一生懸命笑顔で応えた。

 彼の隣にいた女の子。

 私はあの子を知っている━━。

 それも、偶然見えてしまったことで……。


 その子は、彼のスマホの中の女の子。

 そして、彼のスマホから消えた女の子。

 今、彼の隣にいる女の子。


 なんで……。わからない。

 何もかもわからない。

 なんでこんなことを気にしてるのか、自分の気持ちさえ、わからない。

 いや、本当に彼だったのかな?

 もはやそれすらもわからない。


 けれど、もう一度振り返って確かめることは出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る