第8.5話 開幕戦

 2018年4月3日

 広島東洋カープを神宮に迎えた、今シーズンの本拠地開幕戦。

 歴史的大敗を経て、首脳陣の刷新をして臨むシーズン。小川淳司監督の復活や、宮本慎也ヘッドコーチの就任。昨年の首位広島から石井、河田両コーチの引き抜きなど、主に選手以外の部分での話題が多かったスワローズだが、ファンにとって1番のニュースはやはりこれだろう。

 青木宣親の帰還。

 山田の前にミスタースワローズの象徴である、背番号「1」を背負ったスーパースター。メジャーリーグを経て、ついに古巣へと復帰した。

 スタジアムDJ・パトリック・ユウのコールの後センターの守備位置についた青木を、ライトスタンドのファンは万雷の拍手で迎え入れた。

 『1回の表、カープの攻撃は、1番、ショート、田中』

 ウグイス嬢のアナウンスで田中広輔が打席に入り、審判の手が上がる。

 多くのファンの夢を乗せ、2018年のシーズンが幕を開けた。


 いつもの如く、3回裏の攻撃終了を待って席を立った。

 ちょうど逆転をした後で気分良く歩いていると、いつもの辺りで、彼女と目が合った。

 オープン戦の時ハーフアップにしていた髪は少し短くなっていて、後ろで一つにまとめている。耳の上あたりには白い髪飾りをつけていて、清楚で凛としたイメージを受ける。

 「オープン戦ぶりですね、柚羽さん」

 「ですね!お久しぶりです!!」

 「髪切ったんですね」

 「あっ、ありがとうございます〜!よく気付きましたね!」

 髪を触り、やや頬を赤らめる柚羽さん。

 控えめな笑みには、少しだけ照れが伺える。

 「前髪をちょっとだけとかじゃなければなんとか」

 「あー、まあまあ切りましたからね。ありがとうございます。嬉しいです!」

 そう言って目尻を下げた彼女に、いえいえとジェスチャーだけで伝える。

 女の子の変化に気付けるようになったのは、汐里のおかげだと思っている。

 汐里とはヘアスタイルやファッションの話をすることが多く、なんとなく自分も勉強のために周りの女の子の細かい部分に目を配るようになった。

 その結果、髪型はもちろん、ネイルなどにも注意するようになって小さな変化に敏感になった気がする。まあ気がするだけだけど。

 「では、また」

 そろそろ唐揚げを買いに行こうと柚羽さんに会釈をし、スマホを取り出して通知を確認する。

 風景イラストのロック画面にはいくつかのポップアップが表示されていた。

 特に今返すべきメッセージなどはなかったのですぐにスリープにしようとした、その時。

 「あっ……」

 後ろで柚羽さんが小さく声を上げた。

 何事かと振り向くと、ハッとして視線を上げて手を左右に振って何でもないという仕草をした。

 俺はもう一度会釈をし、その場を後にする。


 去り際に見た柚羽さんの表情は、なんとなくだけど、口角が上がっていて晴れやかなようにも見えた。

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