第34話 魔王復活と嫉妬の堕天使
「ふふふ〜でーきちゃったできちゃった♪堕天使ルシファー...復活〜コイツ、ローレちゃんの下僕にしちゃお〜っと!」
自分のことをローレちゃんというその人物は、毒々しい髪の色をし、片目は眼帯、手が完全に隠れるほどぶかぶかな服を着た、4枚羽の悪魔が、培養液が入ったカプセルを眺めながらそう言った。
そのカプセルの中に、ルシファーと同じ顔の人物が入っている。
「さ、出てきちゃってよ〜かつての魔王様♪ま、今からローレちゃんの下僕になるんだけど♪ぷぷぷ」
ルシファーに似ているそれが目を開けると、カプセルのガラスが破裂し、培養液が流れ出した。
それは起き上がり、ローレという悪魔の前へ歩いてくる。
「おぉぉー!成功だー!成功だよーー!ねえねえ、今どんな気分?素敵?素晴らしいー?」
興奮してピョンピョン跳ねるローレを、ルシファーは冷ややかな目で見下していた。
興奮が落ち着き、ローレはニヤケながらルシファーに問いかける
「君、力のほどは?」
そう聞くと、ルシファーはバサッと漆黒の羽を広げた。しかし、天界に進行して来たほどの羽の枚数は無く、たった2枚である。
「...」
ルシファーが相変わらず黙っていると、ローレがルシファーを見上げながら言った
「ローレちゃんが君を蘇らせたんだよー!感謝してよね〜!ということでぇ、今日からローレちゃんの下僕ねー!力を戻してあげるから、こ...ぐふ」
話の途中で、グチャっというむごい音が聞こえた。ローレは、ルシファーの腕で風穴を空けられていた。
そのまま目をかっぴらいたまま、絶命した。
ルシファーはそれをゴミを見るかのように見下し、鼻で笑った。
「ふん、くだらん。貴様のような雑魚が私を下僕呼ばわりとは反吐が出る。貴様など1枚の羽があれば十分だ。」
ルシファーは、ローレの死体を足で押さえつけながら、草をちぎるかのように簡単に4枚の羽をちぎり、食らいついた。
「ふん。不味いな。やはりこの程度ではなんの足しにもならん。力をつけるため、下界で人間どもの負の感情でも吸収するとするか」
そう言ってどこかに去るルシファーの背中から、新たに黒い2枚の羽が生えてきた。
ルシファーは独り歩きながら、ブツブツとただ怒りの言葉をこぼしていた
「...我々は何のために創られた?都合の悪いものは堕とし、良いものは駒として使う。我々は道具ではない。悪戯に種族を増やし気に入らなければ消す。ふざけるな...私は神を絶対に許さない。同胞達よ、待っていろ。必ず私が...」
...アモンが消えて依頼、アマノエルはアモンも捜索を続けていた。何週間も探し続けた。
「アモン...どこにいるの。一体、どこに...」
いくら探しても見つからない。誰も立ち入らないであろう場所も探したが、アモンの姿は影も形もなかった。アマノエルはそれでも必死に探した。
段々アマノエルの表情は焦りへと変わっていった。
「消えたということは...きっとどこかにいるはず...」
しかし、アマノエルにはやるべきことがある。人間界で友達を作らなければならない。人間から逃げているようでは、一向にできやしない。せっかくミカエルから信頼してもらい、こういう機会を与えてくれたのに、期待を裏切るわけにはいかない。
アマノエルは捜索はあとにし、下界へと戻ることにした。
「行きたくない」そう思った。散々な目にあったばかりだからだ。
そして下界に着き、翌日...支度を済ませている途中、独りだからか、嫌なことを考えてしまっていた。
噂で聞いていた。創造主である神は、今の人間を気に入っていると。そしてかつての女神も、人を愛し人を見守っていた。そして1つの疑問が頭に浮かんで、しまった
「どうして神は忠実で力を持つ我々よりも強欲で汚く、下賎で矮小で罪深い人間を気に入っているのかと」
アマノエルは急にはっと正気に戻り、わざとらしく首を横にブンブン振った。そして、アモンが言っていた言葉を思い出す。
「アマノエル、気をつけろ。悪感情を持っては駄目だ、抜け出せなく、なるぞ...」
というアモンの言葉。これは、アモンのいう悪感情なのかもしれない。ボーッと独りでいるとき、ついつい考えてしまう。ダメだ、なにか別のことを考えなければ...そう思っただろう。
「っ?!」
違和感を感じ、右手を見ると、手の甲に薄黒い斑点が浮かび上がっていた。
「そんな...私も...」
堕天使化。アマノエルも黒に染ってきているのがわかった。
「早く、どうにかしないと...」
できることは一つ、人間の評価を改めること。人間はそこまで腐ってない...良い人だっている、そう思えればきっと...と頭の中で考える。
「学校にいこう...」
重い腰をあげ、学校へと向かう。下駄箱には相変わらずゴミが散乱しており、悲しい気持ちになったがぐっと堪え、ゴミを片付けてから教室に向かう
教室につき、あえて佳代、愛、麻衣に挨拶をしてみる。
「みんな、お、おはよう...!」
3人の反応は無い。無視である。
アマノエルは「ははは...」と半笑いして席に座った。
朝礼で1人ずつ名前を呼び、出席確認をするのだが、アマノエルは呼ばれなかった。
おかしいと思い、他の生徒にも声をかけてみるが誰からも反応されない。まるで自分が存在していないのではと錯覚してしまうほどだ。
必死に他の人にも声をかけるがやはり反応がない。
「何...これ、どうなっているの」
慌てて学校を飛び出し、外に出てみる。その途中、風で飛んできた1枚の紙が顔に張りついた。
「わっ」
情けなく声をだし、その紙を確認すると、驚きのあまり声がでなかった。
「空乃天羽...この顔を見つけた人は110番。高校生を殺し逃げした犯人...ですって?!どうしてこんなことに...あの人達がやってっていうの?1回断っただけで...?」
もう分からない。全てが理解できない。何が起きているのかも、どうすればいいのかもわからない。
そうしていると、後ろから声が聞こえる。
「いました!お巡りさん、こっちです!」
「っ?!」
知らない若い人と、ケイサツと呼ばれる人がこっちに向かって駆けつけてきた。アマノエルは反射的に逃げた。ただただ走り、隠れながら逃げた。
街中でアマノエルは探されている。何故こうなったのかは分からない。
息を切らしながら路地裏に逃げる。息を整えるため、深呼吸をした。
すると、1人の老人が路地裏に入ってきて、アマノエルを見て驚いた顔をしている
「おや、あんた..」
アマノエルはすぐに逃げようとしたが、その老人に止められた。
「そんなに慌ててどうしたんだい?」
「えっ?おばあさん...私のこと...」
「誰かから逃げているのかい?私の家近いからちょっとこっちきなさんな」
「...いいんですか?」
「いいのいいの。とりあえずこっちきな」
言われるがままに家に入れられ、匿ってくれることとなった。玄関で座ると老人が優しく声をかけた。
「おまえさん、もしかして殺人犯の」
「違うんです!私はそんなことやっていません!何故か急にこんなことに...」
「そうか、私はおまえさんが嘘は言ってないと思うよ...こんな真っ直ぐな目で、優しそうな子がそんなことするはずないものねぇ...」
「おばあさん...」
「わかった、人が来たらいない、知らないって言うからここにしばらくいな」
「ありがとう...ございます」
老人は外に出て、家の鍵を閉めた。
やっと、優しい人に出会えた。アマノエルはほっとした。優しい人もいるんだと。右手の甲の斑点が少し薄らいだのがわかった。
しばらく静寂が続いたあと、老人の話し声が聞こえた。アマノエルは気になり、耳を済ませた。
「今、油断させておる。今なら捕らえれるじゃろ」
吐きそうになった。やっぱり、いい人なんていない。人は自分勝手、汚い、醜い、酷い...。
アマノエルは窓から出て、羽を広げて飛び去った。もうなんでもいい、人と仲良くなんてできない。
いい顔で接してきても必ず裏がある。人間なんてそんなものだろう。人間は、期待を裏切り続ける。
人間なんてクソ喰らえだ。嫌いだ。嫌い。嫌い嫌い、憎い憎い憎い...ずるい。
そんな声が聞こえた。
「ズルい」
今度は、呟いていた。
力もないくせに、平気で裏切るくせに、どうして神に愛される?何故、何で何で何で何で!
ズルい、ズルい、ズルいズルい!
おかしい、こんなのはおかしい、こんな種族が、こんな、こんなこんなこんな...
「これは...嫉妬だ...」
憎しみのような顔をしているのに、涙を流していた。自分が自分じゃないようだ。いけないのに、こんな感情よくないとわかっているのに、感情が溢れ出る。
腕が黒く染まっているのを、気にしている余裕などなかった。
誰かに会いたい、そう思った。独りじゃこのまま、壊れてしまうと思ったからだ。
頭を抑えつつ、よろよろと天界に向かった。
天界についてすぐ、顔見知りの天使が目の前に立っていた。
「あ、アーちゃん...どうしてここに?」
アーリィ...アマノエルにとっての親友が今目の前に立っている。
「アマノエル、人間界はどうだった?」
「それは...」
「ふふっその様子だと全然だったみたいね」
「...うん。私、どうすれば...」
「なら、その立場変わってよ」
「え?」
「あーしが...あーしがあんたの立場にいるはずだったのに...!お前が、お前が...」
「あーちゃん...?」
「お前があーしの立場を奪った!必死に努力して、頑張って、頑張って頑張って頑張って、ミカエルのところで働くのはあーしだったはず!なのにお前が入り込んだせいで...」
「あーちゃん落ち着いて?なんの話を...」
「落ち着いてられるか!父は天使に殺され、母は監獄行き、謎の多額の借金でどれだけ苦しんだと思う?だから必死に努力してやっと掴んだ希望を、お前が踏みにじった!」
「父が、天使に殺された...?」
「そうよ。あーしは人と天使のハーフ。人と天使が交わるのは禁止事項なんだよ...父は人間界で任務中の母に一目惚れし、アタックし、娶った...でも、それを知られ、父は処理された」
「そう...」
「だから!お前が憎いの!どうしてくれる?あーしをこんなにしたのはお前だよ?どう責任とってくれるのよ!」
「...」
アマノエルの気持ちは、グチャグチャだった。
「あぁ、やっぱり。やっぱり人間ってダメなんだ。
その人間の血があーちゃんをダメにしたんだ。人間はダメだ、ダメなんだ。人間が憎い。憎い...」
「あぁ?何を言っているの?...はは、そうか。あんたも"染まっちゃった"のね。ははは、あははははははははははははははははははははは!
これであんたもこっち側よ!ざまあないわね!あんたも、終わりね!」
「うるさい」
「は?」
「汚らわしい...人間は滅するべきよ...あぁ、妬ましい... 人間はクソだ。何故天使に劣る人間なんかを気に入るの...?おかしい、そんなの...間違ってる!」
その瞬間、アマノエルの何かが切れた感覚がした。
羽が一瞬にして黒く染まり、意識が遠のき、体の力が抜け、そのまま落ちる。
アーリィの笑い声だけが、この場で響く。
落ちる、落ちる。下界へと落ちていく。
アマノエルは...堕ちた。
ミカエルの元に、1つの報告が入った。
「なに?!アマノエルが...?!何故...」
ミカエルは席から飛ぶように立ち上がり、急いでどこかに向かった。
それは、下界だった。
物語は、プロローグへと続く。
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