第33話 強欲な悪魔と最期の祈り

心を踊らせながら学校に入学したアマノエルだったが、自分勝手な人間たちを目にし、心底絶望した。


神は、天使の次に人間を創り、可愛がっていた。

女神アンルーテも、人間を見守り、愛しさを感じていた。


..アマノエルは、疑問に思った。どうして神は忠実で力を持つ我々よりも強欲で汚く、下賎で矮小で罪深い人間を気に入っているのかと。


1度そう思うと、どんどん沼にハマっていく感覚がした。


「...ダメだ、これは良くない感情だ」


はっと正気にもどったかのように、自分に言い聞かせるようにそう言った。


「1度天界に戻ろう...頭を冷やさないと」


そういって、学校のことは気にもせず、嫌なものから逃げるようにして天界に戻った。


だが、天界に戻った瞬間、槍を持った一般天使が5人ほど向かってきた。「え?え?」と困惑している間に、アマノエルは囲まれてしまった。アマノエルは両手を挙げながら質問する。


「あの、どうしたんですか?」


すると、一般天使の中の一人が答える。


「アマノエル、お前に人間に攻撃した容疑がかけられている!同行してもらおう」

「...はい」


アマノエルは抵抗することもなく、その天使達についていった。その途中、アマノエル達に向かって物凄い衝撃波が真上からとんできた。それは、アマノエルを囲んでいた天使を一瞬にして吹き飛ばした。


「うわあああ!」


アマノエルは何とか耐え、咄嗟に真上を見上げる。しかし何の姿もなく、急に浮遊感を感じた。


「わっ何?!」


何者かに体を持ち上げられ、さらわれているのがわかった。すぐに抵抗しようと思ったが、凄まじいスピードで飛ばれ、空気抵抗で思うように抵抗出来ない。

その自分をさらっている張本人を何とか見ると、ぐるりと一周している角の生えた悪魔であった。


「...っ悪魔?!」


抵抗できず、そのまま人気の無い山奥へと連れていかれた。その悪魔が地面に着くと、何もされずアマノエルは解放された。

武器を持っていないので、いつでも魔法を撃てるように手を相手に向けた。

すると、聞き覚えのある声で声をかけられた。それは、目の前の悪魔だった。


「俺だ...アモンだ...」

「えっ」


何を言っているか理解できなかった。この悪魔が、アモンだと。アモンはアマノエルの幼馴染、強欲で単純で、優しい同じ天使のアモン。こんな悪魔なわけが無い。

アマノエルは、悪魔の戯言だろうと耳をかそうとしなかった。


「ふざけないで。アモンは天使よ。惑わそうとするならもっとまともな嘘をつくか、姿かたちを真似て来なさい」

「本当だ...大会でお前とタッグを組んだのも、浄化の力を引き出すために戦ったり、ルシファーと戦った、俺だ。...ルシファーの1件依頼、何も出来ない、何も守れない自分が嫌で嫌で、俺は力を求めるあまり、気がついたらこうなっていた...。」


「う、嘘...でも、その姿は...」

「あぁ、悪魔だ。天使は、堕ちると悪魔になるようだな...」


「てことは...悪魔は...私達が殺していたのは...」

「元天使、ってことになるな」


「そ...そんな...アモンが...うっ」


アマノエルはその真実に目眩がし、地面に弱々しく崩れ、吐き気がし、手で口を抑える。


「受け止めきれないのはわかる。俺も信じたくはない。でも、アマノエル。落ち着いて聞いてくれ」

「な、なに...」


「俺はお前を助けにきた。俺がこの姿になってしまったころ、天界で何やら騒ぎが起きててな。お前が人間に手を挙げたと」

「それは...」


「その様子を見ると事実か。何があったかはしらねえが...俺に任せろ」

「アモン...?何をする気?」


「俺がお前の罪を被る」

「だ、だめだよ!そんなことをしたら...」


止めようとするアマノエルに対して、アモンはへっと陽気に笑ってみせた


「大丈夫だ。どうせこんな見た目だし、お前をさらった時点で敵だろ。悲しいけど、お前じゃなきゃ俺だって分からない。事情を説明して信じて貰えたとして、悪魔が天使だっただなんて知れば天界は大パニックになる...」

「で、でも...駄目だよ、アモンが...」


「はは、お前は本当に優しいな。ありがとよ」

「どうして...」


「ん?」

「どうしてそう笑ってられるのよ!悪魔になっちゃったんだよ?仲間だったみんなが刃を向けてくるかもしれないんだよ?!死ぬかもしれないんだよ?!どうして!」


「...俺は、死ぬ気はねぇ。まだまだ欲しいもの沢山あるからな。力も、金も、名声も、名誉も、そして、お前も護りたい」

「なら!」


その瞬間、アマノエルの叫びに呼応するかのように、アモンも声を荒らげる


「もうおせぇんだよ!こうなっちまったら、どうしようもないんだよ!あぁそうだどうしようもないどうにもならない、何も出来ない何も成功しない何も守れない!力が足りない足りない満たされない、全部欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!」

「ア、アモン...?」


息を荒らげた後、少しの間沈黙が続いた。

今度は落ち着いた様子でアモンは、アマノエルに呼びかけた。


「もう俺は駄目だ。声が聞こえるんだ。全部奪えばいいって...。アマノエル、気をつけろ。悪感情を持っては駄目だ、抜け出せなく、なるぞ...」

「アモン!しっかりして!なにか方法が...」


「悪魔が天使に戻るなんて聞いたことないしみたこともねぇ...何してんだ?」


アマノエルは座り込んだまま、目をつぶり、祈りのポーズをとった。


(創造主よ、どうか...どうか私の友達を、救って!)


そう祈ると、アマノエルから黄色の光が発せられる。女神の光ほどではないが、暖かく、気分が高まるようだ。


「こいつは...」


アマノエルの力...祈りの奇跡。女神アンルーテが言っていた力だろう。

アモンの体がその光に当たると、鋭い爪は元の天使の爪に戻り、角もみるみる小さくなっていく。

なんと、黒く染った体が天使に戻っているではないか。


そう思ったが、天使に戻る様子はなかった。そうしていると、


「見つけたぞ!天使アマノエル、そして悪魔!」


衛兵天使が8名ほど駆けつけ、武器を構えている。

アモンは咄嗟にアマノエルを人質にするように腕で首をがっしりと組み付いた。アマノエルはされるがままに捕まった。もう少しで、天使に戻りかけていたが、間が悪かった。


「来たな天使共ぉ!おせぇから食っちまうところだったぜえ!」

「あ、悪魔め!そいつを解放しろ!」


「ん〜?どうしたもんかねぇ。なあ、何故コイツが人間に手を出した容疑がかけられと思う?」

「し、しらん。何故そういうことを聞く!」


「それは〜俺様がこいつに化けてやったからだよぉ!あはははははは!つまりコイツはなーーんも悪くねぇんだよ!」


アモンの演技は迫真で、悪魔そのものだった。いや、もはや演技かどうかも定かではない。


「コイツを解放させたかったら魔界への入口に案内しろ!早くしろ!」


「ぐっ...わ、わかった。こっちだ」


そういうと、衛兵は恐る恐る慎重に、アモンを魔界の方へと案内する。

この場は別世界のように緊張感で時の流れが遅く感じただろう。


魔界の門の前に着いたが、門の前に、門を守るかのようにしてたっている天使がいた。

赤い剣を地面に突き刺し、仁王立ちをしている。

それを見たアモンは、足が1歩後ろに下がっただろう。


「堂々と天界に進行とは、肝が据わってるな」

「ミカエル...さ」


アモンはミカエル様、そう呼びそうになった。

アモンはどこから取りだしたのか、大剣を片手で軽々しく持ち、アマノエルを近くに投げ捨てた。

アマノエルは急なことで戸惑い、アモンを見ると、アモンと目が合った。

大丈夫だ、そう言いたげな目だ。


何が大丈夫なものかと思ったが、どうすることも出来ない自分に嫌気がさし、グッと手に力を込めた。

ミカエルはアマノエルを解放したことに驚き、声をかけてきた。


「お前、なんのつもりだ」

「ふんっこいつは邪魔なんでね」


ミカエルは「そうか」とだけ言うと、後ろの衛兵になにかの合図を出しすと、衛兵は急いで立ち去っていった。


「私は7大天使ミカエル、貴様を斬る」

「望むところ!」


かつての上司と部下の衝突が始まる。アマノエルはそれを見ているしか無かった。アモンが死んでしまう。仲間同士なのに、少し前まで一緒に戦って、微笑ましく笑っていたのに...


残酷だ。世界の理を呪いたいくらいだ。


「こんな...こんなの...あんまりだよ...ううっ」


もはや泣くことしかできない。

激しい攻防。アモンは押されている。ミカエルの剣を防いだところで、炎が飛んでくる。


アモンは繰り出される炎を羽で吹き飛ばす。が、後ろに回り込まれ、剣で斬られる。かわそうとするは、ミカエルの剣速が速く、避けきれず斬られてしまう。


「ぐっ」


アモンは地面に転げ落ち、立とうとするが、ミカエルが顔の目の前に剣を突き刺した。


「終わりだ、悪魔よ」


ミカエルの右手から、燃え盛る炎が放たれる。しかし、その炎はチリとなって消えていった。


「なに?」


ミカエルがアモンの方向をみると、アモンが右手を掲げていた。

「アブソープション」アモンが唯一使える魔法。

敵の魔力や力を吸い取り、我がものとできる魔法だ。


ミカエルは地面に倒れているアモンを蹴り飛ばし、懐から水晶を取り出した。


「魔食いの水晶よ、力を喰らえ。どうだ、力を奪われる気持ちは」

「ぐっ...力が...抜ける...」


脱力感が激しい。全身の力が抜けるようである。立ち上がろうとして込めていた力はぬけ、そのまま完全に地面に倒れてしまった。それでもミカエルは力を奪い続け、アモンから力を全て、根こそぎ奪っただろう。アモンの黒い羽や角が消滅したのが見えた。


ミカエルは好機と思い、剣で斬り掛かる


「さらばだ、名も知らぬ悪魔よ!」


「待って!」


咄嗟にアマノエルがアモンの前に立ち塞がる。

ミカエルは振りかざす剣を止め、アマノエルの首の前で止まった。


「どけ!何故コイツを庇う!」

「ミカエル様、待ってください!彼は...アモンです!」


「なんだと?」


周りの喧騒が一気に無くなったのでは無いか錯覚するほど静寂に包まれた。

ミカエルはアモンを見つめながら思い出した。あの魔法、そして面影のある顔を。


驚きつつも平常を保ち、アモンに話しかける。


「本当なのか...?どうして、お前までも...」


アモンも、力なく弱々しく話す。


「力が、欲しかったんです。誰でも守れるくらい強い力が...そしたら、歯止めが効かなくなって...」

「...そうか」


その会話に、アマノエルが今までにない勢いでミカエルに話しかける


「ミカエル様!どうか...どうか見逃してください!他の悪魔とは違うんです!こう...天使に危害を加えることはしていないですし!」

「駄目だ、我々の役目は天使に仇なす悪魔を斬ることだ。使命は全うしなければならない」


「仇なす...でしょう!アモンは...アモンは私を守ってくれた...それじゃあ駄目ですか?!」

「くっ...」


ミカエルは、葛藤している。確かに、天使の使命は悪魔を根絶やしにするという役割ではない。

しかし、いつあの悪魔のようにならないとも限らない。


「ミカエル様...もういいんです。俺を、斬ってください」

「...アモン」


「俺が暴走しないとも限りません。声が聞こえるんです。全て何もかも奪えって。もしかしたら、時間の問題かもしれません」

「...いいんだな?」


「...はい」


それでもアマノエルはどかない。ミカエルが「どけ」という目で睨むと、ぐっと堪えるようにして言った


「少し、少しだけ時間をください。お願いします!」


ミカエルは、はぁ、とため息を着くと、「少しだけだ」といい2人に背を向けた

アマノエルは深々頭を下げ、「ありがとうございます」というと、アモンにかけよった


「最期に...おまじないをさせて」

「おまじない?」


そういうと、アマノエルはアモンに向けて手をかざし、


「慈愛の天使アマノエルの名において貴方に天使の加護を...」


そういうと、アモンの体が軽くなったように感じた。


「アモン...助けることが出来なくてごめんなさい...本当にごめんなさい」

「なんでお前が謝るんだよ...元々俺に力があったら...」


「ううん。私のせいだよ。あんなに近くにいたのに...気づかなくて。」

「おまえの...せいじゃ」


「ごめんね、アモン」

「そんな顔...すんじゃねえよ...最期くらい笑って見送ってくれ...


「うう...そ...そうね...。アモン、元気でね。別のところで会いましょう...今まで、楽しかったよ」

「あぁ...」


また会いたい。アモンとアマノエルはそう思った...そう願った。きっとまたどこかで会えるだろうと。


ミカエルが、もういいかと聞き、アマノエルが躊躇いながらも首を縦に降ると、アモンの前に立った。


「お前は優秀な部下だった...じゃあな」

「お世話に...なりました...」


ミカエルは剣を大きく、点に掲げた


「みんな...元気で...」


アマノエルは目を閉じ、祈っている。アモンは、これが最後なら悪くは無いと思った。小さい事だがアマノエルの罪をかぶり、守れたことを今では誇りに思う。


ミカエルは、アモンに向けた刃を振りかざす。


「...?」


しかし、手応えがなく、剣は虚しく地面を斬った。

どこへ消えたのか、一瞬にして姿を消した


「消えた...」

「えっ?」


祈りを終えたアマノエルが声に出して驚いた。

その後アモンを探したがどこにも見つからず、モヤモヤした気持ちを抱えながらも天界に戻った。

アマノエルは少しだけ安堵の気持ちがあったかもしれない。


アマノエルの容疑は晴れ、日常へと戻ることとなる。


影からそれを見ているアーリィは、歯をかみしめ、血が出るほど右手に力を込めた。


「なんでよ...なんであいつがのうのうと暮らしてるわけ?!処罰は?罪は?ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない...コロス」


その形相は、まさに悪魔であった。















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