第31話 アモンの異変と人間界へ

「アモン...怪我してばかりね。心配だよ」


ポツリと、アマノエルが悲しげな表情で呟いた。

ルシファーが天界に攻めてきた時のアモンの怪我が癒えた後、アモンはすぐにメタトロンの訓練場へと向かっていた。アモンはメタトロンに軽々しく頭を下げ、特訓してもらうように頼みこんだのだ。


「俺は、もっと強くなりたい!だから、頼みます!俺を...俺を鍛えてください!」


「...はぁ、ダメだね」

「えっどうしてですか!」


「ダメっつったらダメだ。てめぇ、何を焦ってんだ?まあ、大体予想はつくがな」

「俺は...あれだけ修行したのに、何もできなかった。俺には力が足りない...今のままじゃ誰も護れない...そう思ったんです」


「ふんっんなことだろうと思ったぜ。なら、余計にお断りだ。」

「どっどうして...」


「てめぇに聞け。俺様は忙しいんだ。いちいち1から説明している暇はねぇんだ。分かったら出直してこい」

「...はい」


仕方なく、とぼとぼとメタトロンの屋敷から出ていくアモン。それを呆れた顔で見ているメタトロン。

メタトロンはアモンが出ていったのを見て1人で呟いた。


「アイツ、どうもくせぇな」


アモンは諦めなかった。家に帰らず、休まずに山を降りたり登ったりを繰り返し、剣の素振りを何万回もやった。とっく体が悲鳴をあげているだろう。しかしそんなことはアモンには関係なかった。


「力が欲しい」


ただそれだけ。その感情だけが彼を行動させている。それに取りつかれたかのようにアモンは、己を鍛えている。息が上がる。汗が吹き出る。水分補給をしている暇などない。

強くなるため、休んでなんかいられない。


「俺は...もっと、強く...」


ついに体が限界を迎え、地面に倒れ込んでしまった。誰もいない山奥にただ独り。

ひんやりとした地面を感じながら、意識が遠のいていく。


「俺は...このまま...倒れるわけには...」


独りでそう呟いたあと、完全に意識が無くなってしまった。


...アモンは夢を見ていた。

恐ろしい姿をした悪魔が、天使を守ろうとしている、現実ではありえない夢を。

その独りの天使を守るためには、自分がどうなっても構わない。自分の身が滅ぼうとも、守る...と。

悪魔は、そう言っている。

その悪魔は大勢の天使に囲まれ、そのまま討伐されてしまう。


...アモンが目を覚ますと、意識を失う前の場所とまったく同じ場所で倒れていた。


「...夢か」


かすれた声でそう呟いた。そして、鈍感なアモンでも自分の体の異変に気づいた。


「爪が...伸びて、赤く...あぁ、これはもう時間の問題だな...俺も、あのヴァルナードとかいう悪魔みたいに...なるのかなぁ...そうだ、アマノエルに...。いや、浄化の力は女神様の...だったな。じゃあ、俺はこのまま...」


「いや、」


「そんなの関係ないじゃないか。俺は、守るだけ、守りたいだけ。姿が変わっても関係ない。そうだ、だから力だ。力さえ手にはいれば、俺は、オレは、アイツを...」


歯が牙のように鋭くなったのが分かった。しかし、もうアモンは気にしない。再び、山奥で独り鍛錬を続けるのであった。


「待っていろ、オレはカナラズ...お前をマモル!」



...アマノエルは、ミカエルに呼び出され、ミカエルの部屋へと向かっていた。


「ミカエル様から呼び出しって、またなんかあったのかな?そしてアモンはどこいったのかな。完治したとは言っても病み上がりなのに...」


アマノエルはドアをノックすると、すぐに「入れ」とミカエルの声は聞こえた。

一瞬だけふぅっと息を吐き、「入ります」と言ってミカエルが居る部屋へと入る


「アマノエル、参りました」

「あぁご苦労さまだ。お前に話したいことがあってだな」

「話したいこと...ですか?」


アマノエルは、なにか重大なことを発表されるのかと少しだけドキドキしていた。それが良い事なのか悪いことなのか、分からないからだ。

ゴクッと唾を飲み込んだ。


その様子を気にすることもなく、ミカエルは話を進める。


「お前、人間界に行ってこい」


突然のことにアマノエルは思考が停止した。

はっと我に返り、ミカエルが言った言葉を繰り返す


「に、人間界へ...ですか?」

「あぁそうだ。人間界は大天使以上でないと足を運べないが、お前は特別に許可を貰ってきた。お前には是非、大天使になってもらいたい...いや、お前が望むのであればそれ以上だ」


「私が...大天使...」

「そう難しいことではないさ。お前はみなに優しく、真面目な天使だ。それに、あの女神様...アンルーテの生まれ変わりだそうだからな。きっと女神にだって...」


「で、ですが...なれますかね、女神に」

「あぁ、お前が望むのであれば、きっと」


「...わかりました、私、頑張ってみます!少しだけ、女神様の記憶が残っているんです...人間を見守り、人間を愛している...そういう記憶が、感情が少しだけ」


「そうか...。それをお前も実感できるといいな、頑張れよ」

「はい!ですが、人間界に行って何をすれば...」


「そうだな、まずは人間の姿に化け、人間と友達になってこい。なぁに、人間も天使と何ら変わりない。肩の力を抜いて、自然体に接すれば難しいことではない」

「はい、わかりました!ではいつから行けば良いでしょうか」


「今からだ」

「えっ、今からですか?!」


「あぁ」

「いくらんでも急...」


急すぎる、そう言いそうになったが、ミカエルが少し睨んだため、怖くて続きを言えず口をつむんでしまった。


「なんか言ったか?」

「いえ...行ってきます!」


「あぁ、行ってらっしゃい」


そういうと、アマノエルは下界へと続く道へと歩んでいく前に、人間界へと行く準備をたんたんと進めるのであった。

羽は人間には見えないため、服装や髪色を変える必要があった。見様見真似で、魔法で作った学校の制服を着用し、髪色は魔法で黒色に見えるように施した。

バッグには人間界の教科書と、読書用の本もついでに綺麗にいれた。

これで準備完了、下界へと続く道を意気揚々と歩んでいく。


「本当に急だけど、人間界...とても楽しみ...」


人間については天使学校で少しだけ習っていたため、少しだけ知っている。

人間は天使と見た目が似ているが、羽や頭に浮かぶ輪っかがない。魔法も使えず、力も天使ほどない。

しかし天使のように喋り、触れ、コミュニケーションをとることで絆を深める。

地球という星に住み、寿命は短い。幼いころは学校時通い、教養を高める。


それくらいの知識はある。これからアマノエルは、1人の学生として、人間界へいくことになるのだ。
















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