第29話 悪魔の軍勢と魔剣ダーインスレイヴ

ルシファーとヴァルバードの侵攻を止めたミカエル達。その後、怪我の絶えないアモンは病院へ、アマノエルは付き添いとして着いていき、ミカエルは体を休めるため、休憩所に居た。その時だった、ミカエルの元に一人の天使が報告に来たのであった。


「何、サンダルフォンが...?」

「はい、確かに。」

「そうか、報告ご苦労。私が出よう。」


バタンッ...ミカエルが何かの報告を受け、どこかに向かおうとしたその時、ドアが蹴破られたような音とともに、大きな声が部屋に響いてきた。


「ちょっと待てぇ!」


本当にドアを蹴破ってきたのはメタトロン。ミカエルはいい加減ノックも無しにドアを蹴って開けるのはやめて欲しいと言わんばかりの呆れ顔をしている。報告に来た天使は最初、悪魔が攻めてきたのだと勘違いし、みっともなく腰を地べたにつけた。


「メタトロン?!戻っていたのか。」

「さっきの話、聞かせてもらった!お前の代わりに俺様が出てやる。怪我しているやつはベッドで寝てな!」

「いやしかし...分かった。頼んだぞメタトロン」

「おう礼はいらねぇよ。ついでに悪魔共を蹴散らしてくるか。」


メタトロンの機嫌がいつもよりいいような気がした。


時は遡り、ルシファーの侵攻した同時期に、サンダルフォンはミカエルの言われた通りに天界と魔界の境目の場所で隊を率いて待機していた。


「何事もなければいいが...だがミカエル様の予感はよく当たる...。」


そう思ったその時、奥にそびえ立つ魔界の門が、ゴゴゴゴゴっという重い音をたてながらゆっくりと開いていった。ミカエルの予感があたったのだ。魔界から小さなコウモリのような悪魔や、魔獣、魔導師のような悪魔などがワラワラと溢れてきた。

サンダルフォンは急いで天使達に出撃命令を下す。


「行くぞお前ら、低俗な悪魔共を蹴散らした暁には俺がお前らに奢ってやる!俺に続け!」

「おおおおおおーーーー!!」


サンダルフォンが剣を天に掲げながら隊員達を鼓舞する。隊員達はそれにより士気を高め、サンダルフォンに続き悪魔に立ち向かう。

悪魔達も応戦する。魔獣や知能の低い悪魔はただひたすらに暴れ回る。


前衛の天使達は武器で倒しながら進み、後衛の天使達は魔法や遠距離武器で援護する。

天使は悪魔を圧倒しているかのように思えたその時、後衛の天使達の背後から、大鎌を持ちボロ布を纏った悪魔が地面から音もなく現れた。


「う、うわあああああああ」


後衛の天使の多くは、悪魔の出現に気づかず大鎌に切り裂かれ、悲鳴をあげる。しかし突然の出来事に混乱し、錯乱状態になるのかと思いきやそうでもなかった。

大鎌で切り裂かれ、倒れたと思っていたが致命傷にはならなかった。その天使達は起き上がり、逆に油断していた悪魔を魔法で蹂躙し、サポートにまわった。

あらかじめ軽めの鎧をローブの下に仕込んでおいたのである。それだけでなく、戦いが始まってすぐ防御魔法を全体にかけていたのである。


暫く攻防をしていると、空中から禍々しい闇が集まってきた。それはやがて形になり、悪魔が出現した。見た目は真っ黒な鎧を纏った、全身が真っ黒な骸骨。右手には剣を持っているが、剣は異様な形をしている。柄の部分には一つの目玉があり、触手のようなものが数本生えてウネウネと動いている。


「さぁワタシの可愛い部下達よ!天使達を抹殺するのデスよ!」


サンダルフォンはその存在を認識すると、一度戦いを止め、骸骨の悪魔の方を見る。


「アイツが指揮官か...?何だと...あの剣は...。」


見たことがある。忘れもしない。あの剣は、サンダルフォンの父を殺人鬼に変貌させた魔剣ダーインスレイヴである。あの時、呪われた父親を天使が討伐した後、魔剣がどうなったのかと思っていたが、今こうして目の前にある。親の敵とも言える魔剣が今あそこに。


「俺の過去の因縁はまだ完全には断ち切れてなかったんだな。だが今度こそ...。」


剣を握る右手に力が入る。メタトロンの試験...サンダルフォンの過去のトラウマを乗り越えたサンダルフォンは、もう逃げはしない。それどころか父親の敵を倒すため、これ以上同じ被害似合う天使が出ないため、自分が立ち向かおうとしている。


サンダルフォンは空中にいる骸骨の悪魔に向かって飛び立つ。だが、カラスやコウモリのような悪魔が行かせんとばかりにサンダルフォンに大勢で向かってくる。


「邪魔を、するな!」


サンダルフォンの右手の剣を一振すると、巨大な竜巻が現れ、下級悪魔を次々に蹂躙していく。天使達は巻き添えを喰らわぬよう、避難しつつ悪魔と戦っている。

気がつくと指揮官を守る悪魔はほとんど姿を消していた。サンダルフォンは骸骨の悪魔に向かって刃を振るう。しかしその時剣を禍々しい剣で受け止める。


「おっとぉ、ワタシをそこら辺のザコとは違いますよぉ!アナタも、この魔剣のエサにしてあげましょう!」

「黙れ、二度と取り憑かないよう貴様もろとも粉々にしてやる!」

「おーーほっほっほっほ面白い天使だこと!おや?アナタ何処かで...。そうか!あの時の、魔剣の効果を試す実験体のせがれデスかぁ!」


父親を実験体呼ばわりされたことに腹をたてたサンダルフォンは、再び竜巻を呼び寄せた。

骸骨の体は竜巻に飲み込まれ、あらゆる方向にネジ曲がろうとし、ミシミシと音をたてた。

しかし、


魔剣の柄の部分にある一つ目が赤く光ったかと思うと、魔剣から瘴気のようなものが吹き出してきた。


「ふんっ」


骸骨の悪魔は魔剣を一振すると、骸骨を飲み込んでいたはずの竜巻は急にサンダルフォンに向かってきた。


「何、どういうことだ...俺の竜巻が...?」


少し動揺を見せたサンダルフォンであったが、すぐに対応をする。自分が出現させた竜巻と、逆回転で、かつ同じ大きさの竜巻を出現させた。

サンダルフォンに向かってきた竜巻と、新たに発生した竜巻がぶつかり合い、二つとも消滅した。


「ほっほっほ。素晴らしい、やりますねぇ!あの実験体のせがれとは思えないデスよ!」

「口を閉じろ、低俗な悪魔め。竜巻を操作するくらいじゃ俺は倒せんぞ」

「えぇそうデスねぇその通りデス。では、アナタを操ってみせましょう!アナタの父親のように、ね」


悪魔は、再び魔剣の柄の目玉を赤く光らせた。その赤い光はサンダルフォンを照らす。先程よりも明るく眩しい光が。サンダルフォンは思わず目をつぶってしまう。

目を開けると、ただただ真っ暗な空間であった。


「ここは...どこだ」


おそらく悪魔の仕業だろう、どうにかして脱出しなければ。そんなことを思っていると、目の前に死んだはずの父親が現れた。


「親父...?!」

「憎いだろ。俺に取り憑き、俺は死に、お前にトラウマを与えたあの剣が。」

「何を言っているんだ。」

「なら、壊せ。全て、無に帰すのだ。お前を馬鹿にしたヤツらを、トラウマの原因を。」

「俺は...」

「壊せ、殺せ、全部。」


壊せ、そう連呼しながら手を伸ばし、ゆっくりとサンダルフォンに近づいていく父親。父親の手がサンダルフォンの方に届こうとしたその時、サンダルフォンは父親を振り払った。


「父は...もういない!お前は、父親ではない。消えろ!」


振り払われた父親はモヤとなって消えていった。

ピシッという何かがビビが割れる音がした。その音はあらゆる方向から聞こえ始めた。暫くその音が空間中に鳴り響くと、パリンという音がしたかと思うとこの真っ黒な空間が割れ、光が漏れる。その眩しさに目を閉じる。


目を開けると、現実に戻っていた。目の前には骸骨の悪魔が怒りの雰囲気を漂わせていた。


「何故ぇ、どうして、天使は弱いハズ!心の闇を解放させればスグにでも...なのに、なんでぇ!」

「知らないな。その魔剣が未完成なんじゃないか?」

「そんなハズは...そんなハズはない!クソぅもう一度...」

「諦めろ、もうそれは俺には効かない。何度やってもな!」

「ならばこの魔剣の刃で、生き血を啜ってやりますよぉ!」


力任せの大振りな攻撃。一撃で仕留めることだけを考えたような。しかしそれは殺傷能力はあるだろうが、あまりにも


「隙だらけだ。」


刃に小さな風を纏った刃で、悪魔を一閃する。

悪魔は斬られただけでなく、当然身体がグチャグチャになり、細かく刻まれ見えなくなった。


「もう俺は弱くない」


消滅した骸骨の悪魔だが、魔剣ダーインスレイヴは残っていた。そして、触手が伸び、足のようになり、魔界の門の方に素早く逃げていった。それをサンダルフォンは見逃さなかった。すかさず魔界の方に追いかける。ここで父親の敵を破壊するために。

指揮官を失った悪魔達は魔界の方に逃げ惑う。魔剣を見失わないよう、風で吹き飛ばしながらも追いかける。


はたしてサンダルフォンが、父の敵を壊すことが出来るのであろうか。











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