第26話 怪しい薬と開幕

魔界の玉座にて力を蓄え続けていたルシファーは、十二枚の羽を取り戻したのであった。


「時は来た。ヴァルナード、神の塔へ攻め込むとしよう」

「は、その前にこれをお飲み下さいませ」


ヴァルナードはワイングラスにつがれた毒々しい色の液体をルシファーに差し出した。黒色の湯気が出ており、見るからに体に良くないだろう。


「ほぅ、これは?」

「ワタクシが研究者に作らせまして...魔力増強剤、身体能力増強剤各種、様々な耐性剤を混ぜ合わせた物でございます。副作用で激しい頭痛や吐き気を伴いますが、サタン様であれば耐えることができるはずです。」

「そいつはいい、ありがたく飲ませてもらうよ」


ルシファーはヴァルナードから不気味な液体を受け取り、一気に飲み干した。その瞬間、空になったグラスを落とした。地面に落ちたグラスは砕けてしまった。


「うっ...?!」


液体を飲んだルシファーに激しい頭痛と吐き気が襲ってきた。それと同時に、全身に力がみなぎるのを感じた。


「ぬおおぉぉぉ...おおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


暫くの間副作用に苦しめられていたが、気がつくと治まっていた。治まっていたというよりは、ルシファーが自力で治したのだろう。力を得たルシファーだが、見た目にも変化が見られた。頭部の右上には赤色の角が生え、腕に黒い模様が浮き出ている。力を代償に、悪魔化が進んだようだ。


「ふんっ。副作用など私の場合あってないようなものだ。いくぞ、ヴァルナード。憎き神の終焉の刻だ」

「はっ。このヴァルナード、サタン様の盾となりましょう」


ルシファーは漆黒の十二枚の羽を、ヴァルナードは六枚の羽を広げ、天界へと羽ばたき向かう。

ヴァルナードは心の中で笑っていた。待ち望んだ復讐の時が来る、と。ルシファーが神を殺すため力を得るのを待っていたのと同じ、ヴァルナードもまたルシファーを殺すため絶望した顔を見るための時を待っていたのだ。


ルシファーとヴァルナードは魔界の門には向かわず、魔界の上空を上へ上へと飛んでいる。しかし天界から魔界に行く方法は、天界と魔界の境目の空間から行くしか知られていないはずだ。逆もまたしかりである。

魔界の遥か上空に行くと、歪んだ空間がいくつも現れた。よく見ると歪んだ空間の先に天界の景色が見える気がする。

ルシファーとヴァルナードはそのいくつもある歪んだ空間の一つに躊躇することもなく飛び込んだ。


その空間は神の塔の麓へと繋がっていた。ルシファーとヴァルナードが現れた瞬間、足元から灼熱の炎が吹き出て来て、一瞬にしてルシファーとヴァルナードを飲み込んだ。


「やはり天界の門からではない方法で現れたか...サタン!」


炎の正体はミカエルが放ったものであった。ミカエル、アマノエル、アモンの三名は神の塔でずっと待機していたため、不意を着くことができた。

しかし、炎に飲み込まれたままルシファーはそのまま喋り始めた。


「ふっ私の不意をつくとはやるではないかミカエル。だがこの程度では火傷一つ付けることはできんぞ」


そして、羽を羽ばたくと一瞬にして炎が掻き消えた。ルシファーの姿をみた三名の天使は、驚いた。アマノエルとアモンは悪魔の王の圧倒的な威圧感に、ミカエルは悪魔化が進んだ姿を見て驚いた。


「お前...暫く見ねぇうちに少し見た目が変わったな」

「見た目だけではないぞ?一応聞いとくがここで待ち伏せしているという事は私達を止めに来た、という事で間違いないね」

「当然だ、神の塔の頂点には行かせはしねぇ」

「前に言ったはずだが、邪魔をするのなら誰であろうと斬る。例えお前でもな」

「それはこっちも同じだ。創造主は天使達にとって居なくてはならない存在だ。それを失うわけにはいかない」

「ふふふ、どうしても戦わずにはいられないようだ。それで、この私相手にたった三人相手とは...笑わせてくれる」

「いいや、お前の相手は私とこいつの二人だ...アマノエル、準備はいいな」

「は...はい!」


「くくく...ははははは!そんな雑魚に何が出来るというのだ!いいだろう面白い!ヴァルナード、残りのもう一天使はお前に任せるよ」

「はっサタン様の仰せのままに」

「さぁミカエル!私を止めてみるがいい!」


ルシファー対ミカエルとアマノエル、そしてヴァルナードとアモンで戦うことになった。ルシファーは止まることはない。ミカエルも七大天使として、双子の妹としてルシファーを止めなければならない。


(幼いころ、私が間違った時いつも止めてくれた。今度は私がお前を止める番だ...)


そうミカエルは心の中で呟いた。

ルシファーは場所を移動し、ミカエルを誘導した。

ヴァルナードを巻き添えにしないためであろう。

ミカエルとアマノエルはルシファーについて行き、戦うことになるだろう。


ルシファーが勝てなければ神を殺すことはできない。そしてミカエルはルシファーを止めなければ神の元へ行かれてしまう。譲れない戦いが今幕を開けようとしている。


「行くぞサタン!」

「きたまえ、ミカエルと小鳥共よ!」













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