第24話 目覚めと魔王降臨

特別コースを乗り越えたアモンは、ボロボロの状態で倒れたため、メタトロンの屋敷にて療養されていた。アマノエルは側で目を覚ますのを待っているのであった。メタトロンの代わりを務めるサンダルフォンは忙しいが、時間がある時に様子を見に来てくれていた。

そして二週間が経った頃、アモンは漸く目を覚ます。読書をしながら待っていたアマノエルは目覚めたアモンに気が付くと、本を勢いよく閉じる。


「アモン!気がついたのね!」

「あぁ...アマノエルか。俺...生きてたんだ」

「二週間も眠ったままだから心配したよ!試練お疲れ様」

「そうか二週間も...ずっと待っててくれたのか?ありがとな。」

「どういたしまして。部屋から出た瞬間倒れるんだもん...一体どんな試練だったの?」

「それは...ちょっと話したくないわ...ごめんな」

「ううん。それほど過酷だったのね」

「...そうだな」


何故か試練の内容を話したがらないアモン。話したくないのなら無理に聞かないアマノエルは、アモンに念の為もう少し休むように言い聞かせた。アモンは目覚めたが、療養中の間は定期的に様子を見たり、話し相手になったりしていた。アモンが暇を嫌う事を知っていたのもあるからだ。しかし今のアモンは疲れからかとても静かである。ちなみに、膨れ上がっていた筋肉は二週間の間で治まっていた。


そしてそれから更に一週間後の休日、アマノエルは久しぶりにアーリィと会い、話をしていた。高い丘に一本の木が生えており、その木の幹に座って弁当を食べている。そよ風が涼しく、草木がなびいている。そんな遠足気分を味わいながらも休日を満喫している。


「...でね、メタトロン様の試練を受けたんだけど、そこであーちゃんと戦うことになって」

「え、あーしが?...そういえばこの前アマノエルと戦う夢見たような気がするなぁ...」

「そうなの?なんか不思議だね。ん〜!あーちゃんが作ったパン美味しい!」

「それはどーも。で、アマノエル。好きな人いないの?」


唐突なアーリィの質問に驚き、食べていたパンが詰まりそうになる。水で流しこんだが危うくつまるところだった。


「急すぎない?なんの脈絡もないじゃん」

「細かい事はいーんだよ。それでどうなの?」

「んー、好きな人ってどういうことなんだろうね」

「なに?哲学?ウケる」

「そういうことじゃないんだけど、昔からそういうのわからなくて...」

「特別優しくしたい人、とかいない?」

「みんなに優しくしたい、かな」

「相変わらずアマノエルは優しいね〜。じゃあ、あのアモンって人は?看病したりするくらいなんでしょ?」

「それは...幼馴染が怪我してたら心配するよ」

「ま、いずれ分かる時があるっしょ」

「結局何もわからなかった...」

「そんな落ち込まないでも大丈夫、あんた誰にでも優しいからさ」

「別にモテたいわけじゃ...」

「ねえ、そろそろ散飛でもしない?今日すごいい天気だからさ」

「いいね!そうしましょ!」


そんな会話をしながら親友との休日を楽しむアマノエル達。その後、アマノエル家に帰り、次の日の準備を始める。


アーリィは帰宅し、ソファーに座ると楽しかった一日を振り返っていた。しかし3週間前からずっと、「何かわからないが何か忘れている」ということが引っかかる。何かわからないのにそんな感じが離れないのが気持ち悪い。分からないなら分からないで良いはずなのに。分からないのに何度も思い出そうと考えてしまう。しかし結局何もわからず、諦めてしまうことが多い。そんな日々を繰り返していた。

また悩まされていると、後ろから凄まじい威圧感を感じた。振り向くとそこには、邪悪なモヤが発生している。モヤは次第に形になっていき、人の形だということがわかるのに時間はかからなかった。

現れたのは...悪魔...?ではなく、黒に染った天使...所謂堕天使。

しかし天使からみる堕天使は悪魔という一括りである。そもそも天使が堕天使になるという事実を知っている者は七大天使の中でも少ないだろう。

その堕天使をアーリィは見たことがないはずなのに理解していた。


「ルシ…ファー...様?」

「御機嫌よう。久しぶりだね。おや?おかしいな...君から以前感じていた堕天使の気配が無いようだが?」


「堕天使...?何をいっているのですか?あーしは天使アーリィで...」

「ほぉ興味深いな。天使は堕ちるだけだとばかり思っていたが...堕天使が天使に戻る場合もあるのか。そして、君はその時の記憶がないと見た。」


「だから何を言って」

「何か忘れている、といった感覚はないかね?」

「それは...あります」


「だろうね。君は堕天使だったはずさ。そして私とアマノエルを殺す代わりに私に協力してくれると約束したはずさ」

「アマノエルを...?約束...」


ルシファーはアーリィの頭の前に手をかざす。すると、突然アーリィは頭を抱えながら苦しみ出した。床に転がり、歯をかみしめている。


「あああぁぁぁぁ...あーしは...アマノエルを...いや、アマノエルは...あーしの、親友...」

「思い出すんだ、君の人生を狂わせた諸悪の根源は誰だ」

「アマノエル...そう、すべて...アマノエルの...せい」

「くっくっくっく!そうだ、あいつさえいなければ君は苦しまずにすんだ、そうだろう?」

「頭が痛い...あぁ...全部、思い出した...。父は殺され、母は監獄行き。残った私は母の借金に苦しめられ、生きるだけで精一杯。いくら働いても残る減らない借金。努力して、頑張って、頑張って頑張って得たミカエルの元への配属も、アマノエルが全て奪った。最後の希望だったのに...。あいつが、全部あいつのせいよ。そうよ!あーしが才能も力もなくて環境に恵まれないのも全てアイツのせい!許さない。絶対に許...」


鏡に映る自分の顔が、悪魔の様な形相をしているのに涙を流していることに気がついた。全て思い出したが、憎悪も悪魔の様な目も元通りである。いや、以前よりも心はグチャグチャで酷いだろう。


「何で...あの子は親友で...全部アイツのセイだってわかっているハズなのに...なんで...なんで...あの野郎は全て奪っていう魔性の女。殺すべきだわ」


ルシファーはその瞬間、口を大きく開けて笑った。その笑い声はアーリィ宅中に木霊する。


「そう、アマノエルは私が始末しよう。そういう約束だからね。私は天使を救いたいが多少の犠牲は仕方がない。私に協力してくれるね?それと、私のことはサタンと呼びたまえ。悪魔はみんなそう呼んでいる」

「...はい、サタン様の...仰せのままに」

「くくく...君はしばらくの間堕天使であることは隠し、普通に生活しろ。だがその中で天使の動きを監視し、私に報告して欲しい」

「...わかりました。アマノエ...あの魔性の女を、どうか」

「あぁわかっているとも。ふふ、ではまた会おう」


そういうとルシファーは再びモヤになり、消えていった。アーリィの目は虚ろで、抜け殻のようになっている。羽も黒く染まり、爪も鋭くなりつつある。アマノエルが浄化した憎悪も、ルシファーによって再び呼び戻された...。しかし前よりも強く、複雑なものとなってしまった。

そして、アマノエルもこのことに気づくことはないだろう。


仕事を終えたミカエルは一息つきながら独り言をつぶやいた


「ルシファー...必ず天使に戻してみせる」


ここ最近何かを準備しているミカエル、そしてルシファーの企みとは一体...。

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