第23話 瀕死のアモンと祈り
メタトロンに気にいられたアモンは、サンダルフォンも恐れる特別コースという試練を与えられていた。アモンより先に試練を無事クリアしたアマノエルとサンダルフォンはアモンが試練を受けている部屋の前で待っているが、一向に出てくる気配がない。だが試練中に命を落とした、ということは無さそうだ。それは、部屋の中から凄まじい苦しみの悲鳴が聞こえるからだ。アマノエルの試練でアーリィが苦しんでいたよりも...。優しいアマノエルは幼馴染の悲鳴を聞いてられるわけもなく、しかし助けることもできず祈るしかできない自分が不甲斐なく思う。アマノエルはただただ祈った。それしか出来ないのであれば、せめて、最低限のことをしよう。そう思い、祈る。アモンの試練のクリアを...命の無事を。寝ずに祈り続けるアマノエルに、サンダルフォンが声をかける。
「お前、あまり寝ていないだろう。少しは休め。俺が見ておこう。」
「お心遣い感謝します。ですが大丈夫...です。」
「だがお前が倒れるなら本末転倒だろ」
「私は...祈るしか出来ないから...。アモンにやってあげれるのはそれだけですから...」
「祈るくらいならあいつを信じてあげろ。そして、帰ってきたらお前が癒してあげるんだ」
「信じる...そうですね...肝心なことを忘れていました。あのサンダルフォンさん、ありがとうございます!」
「礼には及ばないさ。お前が寝ている間にあいつが帰ってきたら起こそう。しっかり休め」
「わかりました、おやすみなさい」
アマノエルはその場で無防備に雑魚寝を始めた。顔をよく見ると、寝不足からかアマノエルの目元には大きなクマができている。部屋の中からは未だに悲鳴が漏れている。サンダルフォンは部屋の扉を見つつ、呟く。
「頑張れよ、早く戻ってこいつを安心させてやれ」
翌日、アマノエルは目を覚ます。床で寝ていたせいで身体中が痛い。起き上がり、背伸びをしようとしたところでアモンのことを思い出しハッと部屋の方を振り返った。部屋は静かだ。まさか、と不安に思っていると、サンダルフォンが声をかけてきた。
「ん、起きたかアマノエル」
「おはようございます。あの、アモンは...」
「まだだ。ここ数時間部屋の中が妙に静かなのだ」
「アモンの身に何かあったら...私」
「信じよう、あいつを」
「はい...」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
...突然、屋敷全体に響き渡る、何かが爆発したような音が部屋から聞こえてきた。アマノエルは飛び跳ねる程驚き、部屋の方を見つめる。何が起きたのか、アモンの身に何か起きたのか心配になる。すると、部屋の襖がゆっくり開き、とてつもない煙がモクモクと流れ込んでくる。サンダルフォンは裾で口と鼻を覆い、アマノエルはケホケホとむせていた。
煙がおさまるころ、中から人影が現れた...アモンだ。服はボロボロ、身体中の至る所が炭で汚れたように黒くなっていた。よく見るとそれは肌が焦げていることがわかる。体は何故か筋肉が膨れ上がっていた。
部屋から出たアモンはすぐに気を失うようにバタンっと倒れた。アマノエルはすぐさま駆け寄り、回復魔法をかける。サンダルフォンは兄のメタトロンに報告すると言い、走っていった。回復魔法をかけおえたアマノエルはメタトロンが来るのを待った。暫くするとメタトロンがサンダルフォンと共に駆けつけた。アモンを見下ろしたメタトロンは右口角を上げてニヤついた。
「ほぉ、やるじゃねえか!俺の特別コースを耐えきるたぁな!」
パンパンっと手を叩くと、どこからとも無く黒ずくめの天使が現れ、膝をついた。
「は、なんなりと」
「このボロ雑巾を病室に連れて行け」
「御意」
命令を聞くと、煙のように消えていった。気がつくとアモンもいなくなっていた。心配なアマノエルは病室の場所を聞き、走り出す。サンダルフォンは一緒に行くことはしなかった。行くべきではないと何となくそう思ったからだ。どうしようかと考えているサンダルフォンに、メタトロンが喋りかけてきた。
「サンダルフォン、俺様は少しミカエルの野郎の所に行ってくる。もしなんかあったら代わりを任せたぞ」
「あぁ、任された」
「じゃあな」
メタトロンは屋敷を出ると、六枚の羽を広げ、飛び出す。瞬く間にミカエルの居る場所へとたどり着く。メタトロンはノックもせずに扉を勢いよく開けた。
「入るぞミカエル」
「お前...何度も言っているがノックくらいしてくれ」
「それはすまねぇな!ミカエル、少し聞きてぇことがある。お前の部下のアマノエルっつーやつ、あいつ何もんだ?不思議な力を持っているようだが」
「あぁ私も最近知ってな。浄化の力を持っているようだ。まだ自在に操ることはできないようだが」
「ほぉ?そいつはおもしれぇな!そんでな、あいつの試練で面白いことがあってな...」
メタトロンはミカエルに、アマノエルが受けた試練での出来事を話す。アーリィという、アマノエルと親しかった天使が突然訪れ、アマノエルと戦ったこと...。アーリィが堕天使だったこと...そして、アマノエルの力によって天使に戻したこと。正気に戻ったことを話した。
それを聞いたミカエルは、腕を組み、独り言を呟きながら何かを考え始めた。
「やはり私の見込んだとおり...そうすればルシファーも...」
「おい、何ブツブツ言ってんだ?」
「あぁすまない。わざわざ伝えに来てくれてありがとうこれで確信がもてた」
「ま、てめぇが何を考えてるかは知らねぇが、戦力が必要なら手を貸すぜ」
「助かる。もしその時がきたら頼むとするよ」
「おうよ。あーそうだ、アモンっつーやつは俺様のところで療養してるぜ。俺様はまた用事があっから、サンダルフォンに任せてある。後で報告があるだろうよ」
「何から何まですまないな」
「いいってことよ。んじゃあ、行くとするわ」
「また、魔界か?」
「おう、動かねぇと腕が鈍るもんでな」
「はは、相変わらずだな」
「てめぇは少し変わったな」
「...?そうか?」
「あぁ、なんつーか少しだけだが兄貴に似てきたんじゃねえか」
「そう...か?」
「わらねぇならいいわ。じゃあな」
「あぁ...気を付けろよ」
会話を終えると、またメタトロンは飛び立っていったのであった。ミカエルも何か思いついたように、何かの準備を始めた。
一方アマノエルは、ベッドで寝ているアモンの横の椅子に座り、アモンの回復を待っていた。アモンは寝ている間も苦しそうにうなされている。
「アモン...頑張ったね。本当に無事でよかった」
アマノエルはアモンの手を、両手で握る。そして祈るように目をつぶる。
「慈愛の天使、アマノエルの名において、貴方に加護を...」
アマノエルの手元から微力の光が灯る。光がおさまると、うなされていたアモンは静かになり、スースー寝息をたてていた。
アマノエルは浄化の力を使ったことは気づいておらず、落ち着いたアモンを見て少し安心するのであった。アモンが目覚めるまで、隣で寝ることにした...地下牢獄から戻り、アモンが隣で寝ていたように...。今度はアマノエルが近くで待っているのであった。
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