第20話 過去の世界と親子対決
メタトロンの試練に挑むサンダルフォン、アモンそしてアマノエル。アモンはメタトロンに気にいられ、特別コースという修行が用意される。残りの二人は各々別々の試練が用意されている。
サンダルフォンは少し広めの部屋に待機させられていたが、その間精神統一をしながら雑念を祓っていた。
しかし、違和感を感じ目を開けてみると、先程の部屋ではなく、見慣れた光景がひろがっていた。
「...?ここは...」
目をつぶっている間に景色が変わっていることに一瞬困惑したが、目をつぶり何かを少し考えた後、目を開くと呟いた
「そうか、これが兄貴の試練か」
そんなことをいっていると、何かが背中にぶつかった。サンダルフォンは後ろを素早く振り向き、それを確かめると、まだ幼い子供だった。
「うっ...お兄ちゃんごめんなさい...」
今にも泣きそうな少年はサンダルフォンに向かって謝った。
サンダルフォンは優しい目で微笑みながらその少年の頭を撫でた
「大丈夫だ。それより君、どうかしたのか?」
「うん...兄貴にまた...殴られて...」
「そうか、大変だったな。なら、強くなって見返してやるんだ」
「そんなの無理だよ!だって僕弱いし...」
「俺も、怖くて強い兄貴がいるんだ。でも、すごく努力すれば...同じくらい強くなれた。だから君も頑張れ」
「...うん、頑張ってみる。」
「よし、じゃあ俺はもういくよ。やるべきことがあるからな」
少年に手を振ると、宛もなく当たりを歩いてみることにした。だが少年がサンダルフォンを呼び止める。
「あの...!どっかあったことありませんか...?名を聞いてもいいですか」
サンダルフォンは歩みを止め、振り返って少年に言う
「俺は...ラス、エル...だ」
思いつきの偽名を言ってみた。しかし何故偽名を使うひつようがあるのだろうか。それを聞いた少年は繰り返すようにラスエルという名前を小さく呟いた後に自分の名を名乗った。
「ぼ、僕はサンダルフォンっていいます。また会ったらよろしくお願いします」
「あぁ、またな」
サンダルフォンは歩みを始める。さて、どこに行こうか。そんなことを思いながら歩いていく。と言いつつも行き場所は決まっていた。
(過去に来たのは分かるが...俺の試練とは一体。兄貴のことだ、それも見つけろってことなのだろう)
歩きながらそんなことを心の中で呟いた。暫く歩いていると、小さめの闘技場が見えてきた。ここは昔、サンダルフォンが鍛錬をしていた場所だ。懐かしいと思いながらも、少しだけあげる足が重くなった。しかしサンダルフォンは進む。これくらいで躊躇ってはいられない。闘技場へと足を運ぶ。
闘技場に入ると、木刀を手に持っている子供と大人が戦っていた。
(兄貴と...お、親父...まあ過去だから、そうだよな)
サンダルフォンは暫くその二人の様子を見る事にした。小さいメタトロンは今ほど髪は長くなく、着物も着ていない。一般的な天使服で羽も二枚。サンダルフォンが親父という男は
顔に数箇所傷があり、長髪のオールバック。着物を着ており、胸元があいているのだが、胸元にも傷が何ヶ所か見られる。
そして四枚の白い羽を生やしている。二人は鍛錬を辞めて、水を飲んで一息したあと会話を始めた。
「お〜メタトロン、腕をあげたじゃねえか!」
「そうだろ親父!でも、まだまだだぜ」
「うむ、上を目指すことが肝心だ。しかし、メタトロンは腕を上げてるってのにサンダルフォンときたら泣き言ばかり...困ったもんだ」
「親父、あんなやつはほっとけばいいんだよ。ついてこれないやつはこなくていい」
「それもそうなんだが、そういう訳にも行かん。あれでも我が一族の一員だ。放置すれば我が一族は笑われかねん」
「全く、出来損ないの弟を持つと大変だぜ」
「とにかく、お前はこれからも鍛錬を怠るな、あいつは私が何とかしよう」
「くっ...いや...でも俺は...」
サンダルフォンはグッと堪えていたが、我慢できず二人の前に姿を現してしまった。サンダルフォンの父はそれに気づき、声をかけた。
「おや?対戦希望者ですかな?でしたらしばし...」
「あの子も...」
「うん?」
「あの子だって、頑張っている...はずです」
「あの子?あぁ、さっきの話を聞いておられたか。貴方はサンダルフォンの知り合いか何かで?」
「いや...そうではないが」
「なら、赤の他人は口出ししないで頂きたい。これは我々の問題だ。」
「関係無くはない!」
「これでは拉致があかないですな。...こういうのはどうかな?私の一族は、どちらが正義かを決める時に剣で語り、勝った方が正義となる。私が間違っているというのなら剣を持て」
サンダルフォンは心の中で
(変わってないな...それもそうか)
と呟きながら、真剣な眼差しで実の父親を睨みながらいった。
「わかった、受けて立とう!」
そういうと、サンダルフォンの父親はメタトロンから木刀をとり、サンダルフォンに放り投げた。それをサンダルフォンは受け取った。
(兄貴、これがお前の試練だというのなら、俺はもう逃げはしない!)
「いくぞ、悪いが本気でいかせてもらう!」
「来い!若いの!」
サンダルフォンは六枚の羽をバサッと一気に広げる。それを見た父親は一瞬驚きの表情を見せたが、ニヤリと笑って言った。
「ふ、その若さで六枚羽たぁやるじゃねえか。相手にとって不足はねぇな!」
激しい猛攻。お互いが一歩も引かず攻撃を仕掛ける。攻撃、受ける、攻撃、受ける...闘技場内に木刀がぶつかり合う音が響き渡る。それを、幼いメタトロンはそれをただただ呆然と眺めていた。
「この太刀筋、この剣技。おめぇ誰に習った!」
木刀を振りながら父親は気づいたようだ。自分と相手の剣技が似ていることに...。
似ている。あまりにも似ている。それもそのはず、サンダルフォンは父親から剣を習っていたのだ。
「さあ!誰だろうな!」
汗を流しながらそう答えた。この二人は二十分ほど、一息つかず戦い続けた。
そして、サンダルフォンは相手の攻撃を無理な体勢で避けたせいか、足を捻って体勢を崩してしまった。
「しまった」
「隙あり!」
だが...サンダルフォンは予測していたかのように木刀で相手の木刀を振り払った。
「なにぃ!?」
父親の木刀は宙を回転しながら回っている。そしてカランって音をたてながら地面に落ちた。
サンダルフォンは父親の喉元に木刀を突きつけて言った。
「俺の...勝ちだ。」
「み、見事...。刀を交えてお前の覚悟が伝わった!して、お前は私に何を望む?」
「あの子の事を真剣に見て欲しい。それだけだ。」
「うむ...負けたからには仕方ない。わかった。あぁ最後に名を聞かせてくれないか」
サンダルフォンは去りながら振り向かずに言う。
「俺はサンダルフォン」
そして、ついでに振り向いて言う。
「そして貴方に剣を教わった」
父親は何を言っているのかと困惑するだけであった。未来から来たとでも言うのか?そんなのありえない。だがサンダルフォンはもう去ってしまった。それを確認するすべは無く、謎に終わったのであった。
サンダルフォンはそれと同時に、ふっと意識が途絶えた。これで試練は終わりなのだろうか?
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