第19話 七大天使メタトロンと弟の憂鬱

浄化の力の発動方法をなんとなく分かったアマノエル。それから数週間後、ミカエルから呼び出しがかかった。呼ばれた場所に行くと、アモン、そしてサンダルフォンも呼び出されていたようだ。アマノエルはサンダルフォンにお久しぶりですと挨拶しミカエルに要件を聞いた。


「お前達にはメタトロンの元で修行してもらう」

「え、えぇぇぇ?!」


一番に驚いたのはサンダルフォンだった。七大天使代理ともあろう天使が、中級天使の前で情けなく驚いた。頭の上にはてなを浮かべてサンダルフォンの方を見るアモンとアマノエル。サンダルフォンは正気に戻ると、ゴホンとわざとらしく咳払いしてミカエルに問う


「よりによってなんで兄貴の元なんですか!ミカエルさんの方が...」

「私は教えるのには向いてない。それに、私はこれからすることがある。あと、お前は兄から逃げてばかりでいいのか?」

「それは...」

「先輩として、こいつらに色々と教えてやってくれ。頼んだぞ」

「はい...」


ミカエルは肩を落とすサンダルフォンの肩をポンと叩き、

「お前なら大丈夫だ」というと、六枚の羽を大きく広げ、空高く飛んでいってしまった。アマノエルは見かねてサンダルフォンに声をかけた。


「あの、サンダルフォンさんなら大丈夫ですよ!」

「後輩に慰められるとはな、情けないよ...ははは」


更に落ち込むサンダルフォン。アモンは空気も読まずに二人に声をかけた


「そんな事より早くいこーぜ」

「ちょっとアモン!空気よんでよね!サンダルフォンさんが...」

「いや、いいんだ。ミカエル様も言っていたように逃げてばかりじゃダメだ。覚悟を決めなくては」

「ってか、メタトロン様ってそんなに怖いんすか?」

「...行けばわかる」


そして、サンダルフォンはアモンとアマノエルを連れてメタトロンのいる所へと案内する。メタトロンは天界を不在にすること多いため、その姿を目にする天使は多い訳では無い。そして、サンダルフォンはメタトロンの代わりとして七大天使の役割を果たすのだ。それ以外ではミカエルの元で悪魔討伐隊の前衛に所属する。

暫くすると、大きな屋敷のようなものが見えてきた。下界の京都と言う地域でよく見られるような木造の建物だ。

屋敷を入り、長い廊下をひたすら進んでいくと、大きな扉がある部屋まで着いた。おそらくここにメタトロンがいるのだろう。サンダルフォンは覚悟を決めるように固唾を呑んでから大きな扉に向かってノックして言った。


「兄貴、俺だサンダルフォンだ。ミカエル様に頼まれた天使達を連れてきた。入るぞ」


緊張した様子のサンダルフォンを見るとこっちまで緊張してしまいそうだ。アモンとアマノエルは、サンダルフォンの後ろをついて部屋に入ると、一番奥に男の姿が見える。

長髪の銀髪で、肌は褐色。サンダルフォンと心無しか似ている目付きをしている。天界では珍しい服装をしており、着物というものだろう。その男はサンダルフォン、そしてアモンとアマノエルが入るのを確認すると、部屋中に響く声で言った。


「おう来たか雑兵共!あのミカエルに頼まれたからにはてめぇらをボロ雑巾になるまで鍛えてやる!感謝しろよ雑魚共!勿論、お前もだサン坊」

「よ、よろしくお願いします...!」

「あん?なんだてめぇ女か。だが、そんなのここでは関係ない。覚悟しておけよ!」

「はい...!頑張ります」


アモンは見るだけで分かる強さに感心していた。これくらい強くなりたい、力が欲しい、と強く心の中で誓った。そしてその意志をメタトロンにぶつける


「俺、アモンって言います!強くなるためには何でもします!」

「ほぉ、少しは根性がありそうなやつじゃねえか、気に入った!お前には特別コースを用意してやる!あとで吠え面かくんじゃねぇぞ!」


特別コースという単語を聞いてサンダルフォンは慌ててメタトロンに物申した。


「兄貴!流石にそれは...」

「なんだサン坊、兄の俺様に文句でもあるのか?」

「い、いや...」

「おーーし!じゃあ早速各々鍛えてやろうじゃねえか!骨の髄まで叩き込んでやる!」


アマノエルは...正直不安でしか無かった。無理でもやれと言いそうな無茶苦茶な男に。だがアモンはやる気である。

力も名声も欲しいと思っているアモンだ。力が手に入るならきつい事だってやり遂げてきた。アマノエルはコツコツ努力するタイプだ。ミカエルの鍛錬方法の方が性に合うだろう。


これからは一人一人、別の修行が用意されている。サンダルフォンが止めるほどの特別コースとはなんなのか。三人が用意されている修行は予想していたものよりもハードなものとなるが、まだ三人は知らない。

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