第18話 幼馴染との対決と浄化の力

 あれから数日。傷も瘉え、体調も良くなったアマノエルとアモンは鍛錬する日々に戻っていた。特にアマノエルは、ミカエルから浄化の力を自力で使えるようにと言われた。その時のミカエルは少し急かしているような気がした。そして今は、アマノエルはアモンと戦いながら試行錯誤しているが、中々浄化の力を発揮することができていない。


「ん〜本当に私、浄化の力なん使えるのかなぁ」

「なに弱気になってんだ!ミカエル様も言ってたんだろ。竜の悪魔だっけか?そいつと戦う時に使えてたんだろ。それに、俺だって見たんだからな?すげぇきつそうな腹痛を一瞬にして治してたやつ、普通の回復魔法とちげぇってことくらい俺にでもわかるぜ」

「そうなのかなぁ。」

「いい加減自覚持てよ。それより早く使えるように頑張ろうぜ?俺も手伝うからさ」

「うんわかった。ありがとうアモン」

「聞いた話と俺が見たのを整理するとだ、おそらく今のところお前は、危機的状況で力を発揮するんじゃないか?」

「...あー、そうかも?」

「なら、今から俺が全力でお前を倒す勢いで戦う。だからお前も全力で戦え、いいな」

「わかった、アモンになんか負けないから!」

「その意気だ、いくぞ!」


両手剣で斬り掛かるアモン。逆手で短剣を構えるアモノエル。アモンは頭上まで剣を掲げてアマノエルに向かって振り下ろした。アマノエルはそれを後ろに大きく飛び避けた。

両手剣は虚しく地面に衝突したが、地面に亀裂が走った。その亀裂は後ろに避けたアマノエルに向かって進んでいく。

このままではアマノエルが地に足を着く前に亀裂で落ちてしまう。だが


「くっ、ウイング!」


地面に向けて風の下級魔法を放つと、アマノエルは空中に飛び上がった。そして亀裂のない地面に着地した。それを見計らったアモンはそれに合わせて斬り掛かる。大きな刃がアマノエルに向かってくる。アマノエルはギリギリで顔をよこに逸らし、短剣で受け止める。金属が擦れる音が響き、火花が散る。


「ふ、やるじゃねぇか」

「アモンには負けないって言ったでしょ!」

「へへ、そうかい!」

「...!?」


アモンはアマノエルごと吹き飛ばした。アマノエルは空中に飛ばされたが羽を広げ、体勢を整えた。


「やっぱ力じゃどうしようもないわね。なら魔法で!アイシクル!」


アマノエルの周囲から大量の小さな尖った氷が現れた。


「貫け!」


アマノエルの掛け声に応じるかのように氷柱はアモンに向かって降り注いだ。アモンは両手剣を盾にしながら羽を広げアマノエルの元に飛び上がった。大きな刃を持つ両手剣を盾にしているため、大体はガード出来ているが、氷柱の数が多いため全ては防げずアモンの体に刺さっていく。


「いってぇな...お返しだこのやろう、貫け、アイシクル!」

「えっ?!」


アモンの周囲から、アマノエルより少ないが大量の氷柱が現れアマノエルに向かって飛んでいく。魔法を放っており、なにより油断していたアマノエルは守りきれず氷柱が体に刺さる。


「はぁ...これでおあいこだ」

「痛...アモンが魔法使えるなんて...」

「あぁ本当は使えないさ。 この剣を防がれている時にちょっとばかしお前の魔力を貰ったんだよ」

「いつのまに...」

「でも、直で触るより吸い取れる量がすくねぇんだなこれが。で、まだ続けるか?」

「うん、まだ浄化の力は発動できてないもの」

「わかった、そんじゃあ続きいくぜ!」


「待て」


戦闘を再開しようとしたそのとき、聞き慣れた声が響いた。


「ミカエル様?!」


アモンとミカエルが声を揃えて驚いた。


「話は聞いたぞ、私が相手しよう。」

「ミカエル様が...ですか...?でも」

「いいから構えろ。じゃねえと、火傷するぞ」


ミカエルの目を見ただけで、真剣だということが分かる。

咄嗟に短剣を構えつつ、氷柱での傷を片手で癒す。アモンは離れて見学することにした。


「いくぞ、アマノエル」

「は、はい」


ミカエルは赤い剣を地面に突き刺す。すると地面から火柱が天高く燃え盛った。火柱は闘技場全体を包み込んだ。闘技場全体が炎で覆われているため、この場にいるだけで汗が溢れ出る。喉が渇く。おそらく長期戦になると消耗するだろう。


「これがミカエル様の力...」

「手は抜かねえからな、気を引き締めて来い」


アマノエルは目を閉じ、手を組んで胸にあてる。そして、何かをつぶやく。魔法の詠唱だろう。


「雪の精よ、私に冷ややかなる風を恵み給え...アイスダスト」


アマノエルの周囲2m程に雪粒のようなものが沢山発生した。アイスダストはリヨウ=コンタブー戦でも使用した魔法だが、今回は詠唱をしたことでより効果が強くなっている。これで暑さを少し和らぐことができる。しかしどこまで持つかは分からない。何せ、相手はあのミカエルだ。


「勝てるとは思わない。けど、できるだけミカエル様に力を証明してみます!」


アマノエルはアイスダストを維持したままミカエルに短剣で斬りかかるがミカエルは軽々と受け止める。何度も何度も斬る。ミカエルは短剣を受け止めながらアマノエルに微笑んだ。


「ふ、太刀筋がよくなったな。だが、」


ミカエルは右手で短剣を受け止めながらも左手をアマノエルに向けて魔法を放つ。


「ファイアーブラスト!」

「きゃっ」


右手から放たれる燃え盛る炎の中級魔法。使える天使もすくなくはない。だがミカエルの炎魔法は、魔道総司令長のパラトエルを除いてどの天使よりも強い。

アマノエルは一瞬にして炎に埋め尽くされた。


「アマノエル、これくらいじゃ終わらんねぇだろ?」


「...アイス・ウインド」


豪華に覆われていたアマノエルだが、下級魔法のアイスとウインドの合体魔法によりなんとか脱出できた。


「はぁ...はぁ、もち、ろんです」


だがアイスダストは消え、体の所々が火傷を負っている。アイスダストでは防ぎきれなかったのであろう。そんなアマノエルをミカエルは呆れたように言った


「いや、ボロボロじゃねぇか。お前はその程度か...もっとできるやつだと思っていたんだがな。見損なったぞ」

「わ、私はまだ...まだやれます!」

「お前はその程度だ。違うってんなら見せてみろ、お前の力を」


(自分は、ミカエル様の期待に応えるために頑張って来た。それどころか失望させてしまった。そんなのでいいのか。自分に隠された力があるなら、お願い、今ここで目覚めてよ!そして、失った信頼を取り戻したい!)


突如、アマノエルの身体が光を放ちだす。すると、みるみる体中にあった火傷が癒えていく。


「これは、浄化の力か...」

「はっ...これは...」

「これが浄化の力だろう。火傷も癒せるとはな、驚いた」

「これが浄化の力...自分の力じゃないみたい」

「あぁ、アマノエル、さっきの失望発言は嘘だ」

「えぇっ」

「お前は諦めが悪いからな」


ミカエルはアマノエルの肩を叩きながら笑いって言った。アマノエルは酷いですよと言わんばかりの顔をしている。だが、なんとなく分かった気がした。何かを強く願うとき、力は発揮する...のかなとアマノエルは自信なさげに思ったのであった。

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