第14話 憤怒の竜と覚醒

アマノエルが不安な気持ちを抱いている中、ミカエルに連れてこられた場所は...地下深くにある監獄である。勿論陽の光が届くことはない真っ暗な場所だ。松明で照らされているが薄暗い。地下深くの監獄というのは、大罪を犯した天使や捕獲された悪魔が牢屋に入れられている。捕獲した悪魔は研究や実験に使われ、使えなくなれば殺処分される...そういう場所である。

そしてアマノエルとミカエルは更に階段を下へ下へと下って行く。アマノエルは暗闇のせいか、地下深くに続く階段を歩いていると段々気分が悪くなってきている気がした。妙な空気が漂っており、うめき声や狂ったような叫び声が聞こえる。やはり気分が悪いのは気の所為ではない。暗闇、妙な空気、狂気な声...聞いているだけで気持ち悪くなる。一般的な天使がこんな所に閉じ込められるものなら数日で気が狂うだろう。

そんな中階段を歩いていると、ミカエルが立ち止まった。


「アマノエル、ここだ。着いたぞ」


そこは、ひらけた場所というのは分かるが、明かりが一切なく暗闇しかない場所である。だが、奥から何かがいる気配がする


「ぐるるるるる...ぐるる...」


咄嗟にアマノエルは構える。そうするとミカエルが大丈夫だといいアマノエルの手を抑えた。そしてミカエルは何かを呟くと、辺り一面が炎の明かりに包まれた。

先程からずっと暗闇を歩いていたため、その眩しさにしばらく目を開けることが出来ない。ようやく明るさに慣れ、ゆっくりと目を開く。すると、目の前にいるものにアマノエルは驚愕する。物語で見た事がある。人間の世界でも空想上の生物として描かれている...見た目はトカゲを巨大化させたような姿でコウモリのような翼に鋭い爪と牙。皮膚は鱗で覆われている...


「...ドラゴン?!」

「そうだ、正確に言えばこいつはドラゴンの見た目をした悪魔だ。下級の悪魔の中でもこういう竜や獣の見た目のやつも少なくはない。だがそういう奴は知能がない。ただの欲望のままに暴れ天使や同族を食う...。だがこいつは」


ミカエルの話の途中でそのドラゴンが二人の会話でパチッと目を覚ました。


「ぐおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!俺様の眠りを妨げるやつは誰だ!あぁ...?

貴様ミカエル!よくもこんな何もねえ牢獄に閉じ込めてくれたな!殺す!殺す!!殺してやるーーーーーーーーーーーーーーー!」


そのドラゴンはミカエルを鋭い目付きで睨みながら咆哮する。ただの雄叫びでものすごい風圧が襲ってくる。ミカエルは涼しい顔で立っているが、アマノエルは力を抜くと吹き飛ばされそうだ。ミカエルがふふっと笑って怒り狂うドラクエに向かって言う


「まあ落ち着けよリョウ・コンブダシ。ちょっとお前に用があってきたんだ」

「俺様の名はリョウ・コンダブーだ!二度と間違えるんじゃねぇ!はっそんなゴミ天使連れて何の用だってんだ!」

「お前、そんな所で引きこもってんだから退屈してるだろ。

こいつと力比べしてくれねえか」

「ちょっと、ミカエル様?!」


リョウはアマノエルを数秒間じーっと見つめたあと、ふんっと鼻で笑った


「こんなゴミを相手にか?巫山戯るな!俺様は貴様が憎いんだ、こんなゴミ天使とじゃなく貴様と戦わせろ!そして俺様に食われろ!」

「はぁ...私が出る幕でもないっつってんだ。それに、こいつも中々やるやつだぞ?」


アマノエルの反応をスルーしてミカエルとリョウは話している。耐えきれなくなったアマノエルはリョウとミカエルの間にまって思ったより大きな声で叫んでしまった


「待ってください!!どういうことか説明してくださいよ!」

「あぁすまんな。お前の力を自覚してもらうためにこいつと戦ってもらう。それだけだ。そしたら何かわかるはずだ」

「そ、そんなこと言われましても...急ですし...」

「いつ、どんな場所で悪魔が襲ってくるか分からない。お前は急に悪魔に襲われた時にその言い訳をするか?」

「いえ...しません...」

「だったら戦え。お前の力を知るためでもある」

「わかりました...やります!」

「てなわけだ、リョウ・コンブダシ。こいつに勝ったら出してやる。そしてお前と戦ってやろう。」

「貴様あぁぁぁぁわざと間違えてるだろ!!!!リョウ・コンタブーだ!殺すぞ!いいだろう。さっさとこいつを噛みちぎって貴様もあの世に送ってやる!」


ミカエルは牢獄の鍵を取り出し扉をあける。アマノエルはやるぞと意気込み、額から汗をたらしながら牢獄の中に入ろうとする。するとミカエルがアマノエルをとめる


「アマノエル、こいつ使え。どれくらいの効果があるか実験だ。」

「魔封じの水晶...分かりました」


魔封じの水晶を手にし、アマノエルはリョウのいる牢獄に入る。リョウは咆哮し、アマノエルを睨みつける。アマノエルは最初から短剣を構え、様子をみる。

最初に動いたのはリョウ。息を大きく吸い込み、吐き出す。吐き出したのは燃え盛る炎。その口から出る炎は火炎放射のようにアマノエルに目掛けて放出される。

アマノエルは羽をひらき、飛んで身をかわす。そのままリョウの懐に入り、短剣を刺す...が


「くっ...硬い。刃が通らない」

「そんな爪楊枝みてぇなものチクリともこねえなあ!さあ燃え盛れ!ファイアーブラスト!」

「魔封じの水晶よ!」


アマノエルは咄嗟に間封じの水晶を天にかかげる。すると


「なに、俺様の呪文が発動されないだと!小賢しい!踏み殺してやる!」

(...図体がデカいため動きが遅い。そして炎のブレスに炎の呪文...回り込んで背後から私の氷の魔法をぶつければ…)


リョウはアマノエルを踏み潰そうとしたがスーッと身軽に避けてリョウの背後にまわりこんだ。そしてアマノエルが呪文を唱えようと両手を前に出す...が


「ふんっ」


リョウの刺々しい尻尾を鞭のようにして油断していたアマノエルの腹部に叩きつけた。

アマノエルは飛ばされた後、お腹を抑えながら地面に伏せている。腹部は切り裂かれ、血を流している。


「くっ...油断した...早く体勢を...うっ」

「ははっ俺様の毒の棘が効いたようだなぁ!お前はもうお終いだ、お前は食う価値もない、灰になれ!」


リョウはまた息を大きく吸い込み、動けないアマノエルに向かって炎を吐き出す。


「アマノエル...」


ミカエルは心配そうに眺めている。だが助けには行かない。心配ではあるがアマノエルのことを信用しているからだ。

やがて炎はおさまる。アマノエルは...


「何ぃ!まだ生きているだと!!」

「はぁ...はぁ...アイスダスト...間に合った。でも毒が...」

「ほぉ、俺様の炎を凌ぐ術を使えるとはな。だがな!それで勝った気になるなよ!その体ではさっきみたいに動き回れまい!」

「早く...毒の治療を...ポイ...ケア...。え、治らない...?!」

「俺様の毒は猛毒だ!ゴミ天使如きでは治せまい!もう諦めろ。お前は死ぬ運命それは変わらねえ」

「はぁ...はぁ...うっ...私は」

「あん?」

「私は...まだ死にたくない」

「はっ、命乞いとは情け...」


急にリョウの動きが止まった。何が起こったのだろうか。

何やら頭をおさえながら暴れだした。


「うるせえ!うるせえ!!まただ、何故天使なんかの姿が思い浮かんできやがる!あいつは...あいつは...うおおおぉぉぉ」


天に向かって叫び出す。リョウの動きが止まってよかったがアマノエルは猛毒が回ってきた。視界が霞む...手の感覚も無くなってきた。このまま死ぬのだろうか。ミカエル様は助けに来る様子はない。あれは...そうだ。自分を見殺しにしようとしているのではない。自分を期待してくれているのだ。ならそれに答えないでどうする。ミカエルの隊に入る時もそうだ。元々別の隊に入る予定だったがミカエル様が自分を見込んで入れてくださったのだ。まだやれるはずだ。アモンにアーリィ。そしてミカエル様が言っていた。自分では分からないけど隠された力があると。その力があるなら、今、ここで...発揮させなくては!

アマノエルから、準々決勝前の時のような光が発せられる。

リョウはようやく正気に戻ったようだ。


「くそ...何だったんだ今のは...あ?なんだその光は」

「リョウ・コンダブー、あなたは何か苦しみを背負っていますね。」

「それがどうしたっていうんだ!何でてめぇは俺様の猛毒を受けて動いてられんだよ!」

「あなたの猛毒は私が解毒しました。...あなたからは悲しみが流れてきます。私があなたを苦しみから解放してあげます」

「うるせえ...うるせえ!俺様に知ったような口を聞くんじゃねえ...そんな目で見るな!あいつはもう...!」

「もう大丈夫ですよ。大丈夫。疲れたでしょう。怒りに取り憑かれ、暴れ続ける。もう休んでいいのです」

「うるせえつってんだろ!!さっさと...死ね!」


リョウはアマノエルに向かって鋭い爪で引き裂こうとした。

アマノエルに届こうとした時、この牢獄が光に包まれた。

ミカエルは眩しくて手で顔を覆った。光がおさまるとそこには地面に横になったアマノエルがいる。リョウは、いなくなっていた

ミカエルはアマノエルの元へとかけより、抱え込んだ。


「よくやったアマノエル。しかしあれは一体...。猛毒の解毒、そして消えたリョウ...まさか」


謎は深まるばかりのミカエル。気がつくとアマノエルのお腹の傷は無くなっていた。ミカエルはとりあえず、アマノエルを病院に連れていくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る