第13話 手紙と無自覚

魔界から帰還したミカエルは手紙が一通届いていたことに気づき、封を開ける。それはアマノエルからであり、アマノエルが手紙を寄越すなど珍しいなと思い、読み始める。


「ミカエル様へ、お疲れ様です。先日のペア対人戦は三位でした。準々決勝で勝ったんですけど、アモンの傷が酷かったので棄権しました。三位の賞品として光り輝く玉を貰ったんですけど...使い方も分からないし、でも何かすごい力を秘めてそうなので日頃のお礼にミカエル様にお送ります。不要でしたら売るなりして貰って結構です!忙しいみたいなのでたまには休んでくださいね。アマノエルより」


ミカエルは頑張ったな、と微笑みその手紙によってアマノエルに用があることを思い出した。今から行こうとゴトンと音がした。音の方向に目をやると、銀色に輝く玉が転がっていた。これがおそらくアマノエルの言っていた賞品だろう。そう思い、ミカエルは床に転がった玉を拾い上げた。


「これは...」


魔封じの水晶...相手の魔力を封じることができる代物だ。魔法が使えないものでもこれを掲げれば封じることが出来る。

魔法使いがこれをやられると厄介である。魔法以外の戦う術のない魔法使いは一般人と変わりない。


「少し細工をすれば使えるかもしれねえな...あまり行きたくねぇがあいつに頼むとするか」


ミカエルは何かを思いついたようだ。だが先にアマノエルに用があるのでそっちに行くことにした。

今日は鍛錬をする日なのでミカエルは闘技場に向かったがアマノエルの姿は見当たらない。そうか、先日の対人戦でアモンが酷い怪我をおったと書いてあったな、とミカエルは頭の中で考えた。あいてそうな大天使を呼び、アマノエルの場所を聞くとやはりアモンの看病をしているようだ。というわけでミカエルはアモンの病室へと向かった。


ここはアモンが入院している病院。天界の中でも一番大きな病院である。怪我、毒、呪い、感染症や脳の手術など全て管轄内の総合病院。病室は患者が安心出来るよう個室となっている。アモンの病室に、アマノエルがお見舞いに来ていた。

真っ白なベッドで退屈そうに寝っ転がっているアモンにアマノエルが元気づけた


「ペア対人戦お疲れ様、アモン。三位だよ!凄いことだよ。アモンとじゃなきゃ勝てなかったと思う。だから、ありがとね」


ニコッとアモンに笑いかけた。しかしアモンはそこまで嬉しそうではない。黙っているアモンにアマノエルが具合が悪いのかと心配する言葉をかけてた。


「怪我はもうすぐ完治するから大丈夫だ。そうじゃなくて、三位だぞ...一位がいいに決まってるだろ!俺は悔しいんだ」


アモンはベッドの掛け布団を握りしめた。だが悔しいのはアマノエルだって一緒である。準決勝戦も怪我で棄権ということもありより一層悔しい気持ちである。


「気持ちはすごく分かるよ。でも、初めてにしてはいい成績出せたのは事実だし、次こそは...次こそは絶対に優勝しよ!この悔しさをバネにさ、一緒に頑張りましょ」


アマノエルがそう言うと、アモンはグッと噛み締め、落ち着かせて言う


「そう...だな。次は絶対に優勝しよう!そして俺は...」


アモンが何か言いかけた時、病室のドアからノックする音が聞こえる。


「私だ、ミカエルだ。入るぞ」


ミカエルはあちらの返答も聞かずに病室のドアを開けた。

アモンとアマノエルは目を開き、口を大きく開けて声を合わせて驚いた


「ミ、ミカエル様?!」


アマノエルは驚きのあまり座っていた椅子から落ちそうになった。それを誤魔化すように立った。そしてミカエルに椅子を譲ったが、ミカエルは大丈夫だと手で伝えると、アマノエルはそのまま座った。


「アマノエル、お前の手紙読ませてもらった。三位だってな、凄いじゃないか。二人ともよく頑張ったな。これからも日々の鍛錬に励むんだぞ。」


ミカエルは二人に優しく声掛けた。が、その後すぐに真剣な顔をしてアマノエルに向かって言った。


「アマノエル、実はお前に話がある。アモンも聞いてもらってかまわねえ。まず、このお前が準々決勝の賞品でもらった玉...こいつは魔封じの玉っていうんだが、使う当てがある。だからありがたく貰うことにするよ。ありがとな。そしてアマノエル、お前最近自分では知らない力を発揮したことねえか」

「自分では知らない力...?」


それを聞いたアマノエルはなんの事だろうと頭の上にハテナを浮かべた。そうしているとアモンが話に入ってくるように手を挙げてミカエルに言った。


「あのー...こいつは気づいてないんですけど一つありました。準々決勝の会場に向おうとする直後、こいつが突然の腹痛に襲われたんです。でも、こう...光がバーって出て治ったんです。腹痛の原因も分からないんですけど、その光もなんだったのか...。」


ミカエルは顎に手を置き、頷きながら何かを考えている。

アマノエルがアモンの話に付け足すように横から言った。


「試合の前にあーちゃん...アーリィっていう友達の天使から貰った緊張を和らげるドリンクが体に合わなかったのかなって思います...」


「アーリィ...ってあいつか」


少し前、ミカエルとルシファーが再開した時に一緒にいた天使。そしてアーリィの家を燃やしてしまったお詫びに新しい家を与えたということを思い出した。ミカエルはあの光景を思い出す。何故ルシファーはアーリィと一緒にいたのか...ルシファーは天使に危害を加えるつもりは無いと言っていた。長年の付き合いから、例え堕天使になろうと嘘ではないということは何となくわかる。であれば二人で何をしていたのか疑問である。そしてアーリィから貰ったというドリンクによる猛烈な腹痛。


「まさかな」


ミカエルが二人に聞こえないように呟いた。どうしたのだろうとアマノエルが顔を覗いていると、それに気づいたミカエルはゴホンと咳払いをして話の続きを話し始めた。


「私はアマノエルにお願いをしに来た」

「お願い...ですか?」

「そうだ。私に力を貸してくれねえか。お前の力を使ってやって欲しいことがある。」

「力になれるのは嬉しいですけど、まだ自分でも何も分かってなくて...」

「そうだな...ならまずは自分の力について知ってもらう。今から大丈夫か?」

「はい...わかりました」


困惑しているアマノエル。アマノエルの力とは一体。そして、アマノエルはどこに連れていかれるのであろうか。

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