第12話 魔界の王と世界の真理

魔界...空は永遠に暗く、地面は腐蝕しており、所々毒の池がある。地面から毒ガスが吹きでいる。下級天使ならば、居るだけで死んでしまう程である。


ヴァルナードという悪魔についていくことになったからミカエル。この魔界の王サタンがミカエルを呼んでいるらしい。

ミカエルはヴァルナードの後ろをついて行っていると、下級悪魔共がワラワラと集まりだした。


「何で天使なんかがここにいるんだ〜?」

「けけけ、一人だぜ!俺たち全員で襲えば殺せるんじゃないか〜?」

「おい、あの天使ぶっ殺して手柄は全員で山分けしようぜ!」


などとヒソヒソと話している。耳障りだ...やはり悪魔は低俗だ。だが、この目の前の悪魔...ヴァルナードは気品を感じる。言葉遣いも丁寧で、ジェスチャーや歩き方など、動きも落ち着いている。背中を見ると羽がない。顕現させていないのだろう。羽を隠せるということはおそらく上級以上の悪魔だろう。

するとヴァルナードが急にピタリと足を止めて言った


「どうされました?私の後ろ姿に魅入られてしまいましたか?」


気配だけで相手の動作を読み取った...?やはり只者ではない。

下級悪魔達が次々に集まっている。パッと見ても五百体はくだらないだろう。ヒソヒソと喋っており、見るからに殺意をミカエルに向けている。ミカエルは向かってくるのなら容赦なく殲滅しようと思っていると、ヴァルナードが息を大きく吸い始めた。

ミカエルは何をする気だ...と身構えていると、

ヴァルナードが大きな声で


「静粛に!!!」


その声は魔界全体に響き、声だけで波動を放っている。空中にいた下級悪魔を...声だけで吹き飛ばした。

耳が痛い。アークエンジェルレベルでも気絶しているかもしれない。ミカエルは耳を抑える。

ヴァルナードの声は山彦のように何回も反響している。魔界にも住む家があるが、その家の窓が次々と割れていった。

吹き飛ばされた下級悪魔達は気絶し、バタバタと次々に地面に落ちていく。

その様子を見てヴァルナードがミカエルに振り返って話しかける


「さ、これで静かになりました。行きましょう。」


済ました顔でまた歩き始めた。

暫く歩いていると、景色が変わる。地面と空は赤く、雲が紫色。雲は全て雷雲で、常に雷がなっている。

地面には何かの骨が転がっており、カラスが群がっている。

目の前に大きな城が見えてきた。造るのに何年かかるだろうか。天界のどの建物と比べても比にならないだろう。

目の前にそびえ立つ門を通り、入口に入っていく。中は蝋燭で照らされており、所々が薄暗い。

床は赤いカーペットが敷かれている。天井にはコウモリ、飾りの頭蓋骨の上にカラスがとまっている。

城の中なのに冷たい空気が肌を触る。

入口を入ってすぐ目の前には上へ続く階段がある。そこをヴァルナードとミカエルは登っていく。

何回層なのだろうか。一番上まで暫く階段を登って行く。やがて最上階までつく。すると部屋...とも言えない広大なひらけた場所である。ヴァルナードが階段付近で止まった。


「こちらでございます。この先に、魔王様がおいでです。どうぞごゆっくり」


そういうとヴァルナードお辞儀をし、下に戻っていった。

この先にサタンが...ミカエルは息を飲み、進んでいく。ここからでもわかる。物凄い威圧感を感じる...だが少し感じたことのある気配だ。その正体を確認すべく少し早歩きで向かう。少しだけ見えてきた...玉座のような椅子に座っている人物がいる。あれがサタンか。

薄暗いため近くに行かねば見えない。やっと全体が見えてきた。魔王サタンの姿を見たミカエルは驚愕する。玉座に座っていたのは...


「やぁ、ミカエル。遠路遥々ご苦労様。どうだい魔界の景色は?天界とはまた違って面白いだろう」


その正体は、ルシファー...ミカエルは声が出ない。ルシファーを求めて魔界に来たが、魔王サタンと呼ばれるものがまさかルシファーだとは...。

驚きのあまり声が出せないミカエルを無視してルシファーが「そうだ」、と何かを思いついたようだ。するとルシファーは指をパチンと鳴らすと、ミカエルの後ろに高級そうな椅子と前にテーブル、テーブルの上に紅茶が一瞬にして現れた。そしてルシファーが話をしようといいながら足を組み、椅子の手すりに肘をつき、手で顔を支えた。そして最初にルシファーがミカエルに質問した


「ここに来た理由は...私を止めにきた、と言ったところかな」


ふふふ、と笑い見透かしたような目でミカエルを見つめる。図星をつかれたミカエルはぐっと噛み締めて言う。


「私は...また戻ってきて欲しいだけだ!私では...ルシファーのように上手くできない」


その様子のミカエルを、ルシファーは久しぶりに見ただろう。ルシファーにしか見せたことのない顔、ルシファーは懐かしさを感じ、少しだけふっと笑って言った。


「それは君の頼みでもできないよ。ご覧の通り私は魔界の王となった。もう私はルシファーではない。それに、この様な姿になった私を、天使達は納得がいかないだろう」


「なら何故...急に姿を消した!そして何故、悪魔なんかに手を染めた!」


それを聞いたルシファーは目をつぶって言った。


「一つ、君の考えを正そう」


そう言い目を開ける。そして話の続きを話し始めた


「私は悪魔に手を染めた訳では無い。染まったのだよ」


ミカエルは椅子から立ち上がり食い気味に質問した


「染まった?どういうことだ!」


ルシファーはため息をついた。少し大きめのため息を。そして冷ややかな目で話し始めた


「やはり、君はまだ知らなかったか。ここから話すことは君には酷だろう。私さえ受け止められなかったことだ...それでも聞く勇気があるかな?」


無論、その覚悟などとっくに決めていた。魔界に一人で乗り込むほどだ。それくらいミカエルの決意は固い。ミカエルは縦に頷くと、ルシファーがそうか...と言った後に真実を話し始めた


「私は天使の創造主...神に会ったのだよ。そこで真理を知った...それは天使の役割についてだ。天使の役割は創造主のために、そして悪魔を倒すこと、そうだろう?だが悪魔とはなんだ?今でも憎いほど覚えている。神は言った、悪魔は不良品の天使だと。

神や仲間の天使に反抗や悪感情を抱くと悪魔に近づく。」


ルシファーは手に力を入れ、歯を噛みしめた。


「不良品だと?我々はおもちゃでは無い!悪感情を抱いたものは自動的に悪魔になり、それ天使に抹殺させる。悪魔は元天使だと知らせずに...。神の話によると天使どころか人間...その他の生物達も物としか思っていないし気に入らなければ簡単に消す...我々は神の鑑賞物にしか過ぎないのだ!我々がなんのために、どんな思いで従ってきたというのだ!」


ルシファーは息を切らしている。また感情的になってしまったと冷静になり、息を整える。

そして落ち着き、冷静な口調で続ける


「だから私は...神に反逆した。だが、気がつけば羽はもがれ、魔界へと堕とされた。私は神から天使を...悪魔を解放する。そのために力をつける。たとえ悪魔になろうともそれは関係ない。悪魔も元は天使なのだからね。」


長々と喋ったあと、ルシファーはミカエルの反応を見ようと顔を伺った。だがミカエルは意外にも落ち着いている様子だ。そしてミカエルは腕を組みながら何かを考えている。暫くするとようやく口を開いた


「ルシファーがそうなった訳はわかった。天使同士が殺してるようなもん...つーこともわかった。なら悪魔を天使に戻す術はねえのか?」


「そうだね、悪魔になってしまったものは悪感情が表に出、暴走する。そうなってしまってはもう取り返しがつかないよ。だが、問題はそこじゃない。自分勝手な神だ。私はそいつを許す訳には行かない」


「根本的な解決にはならねえかもしれねえが...悪魔から天使に戻すことが出来れば、殺し合わずに済むのなら...少しはマシじゃねえか?もしそれが実現できれば...戻ってきてくれねえか?」


「それが実現出来れば、考えてやらんことも無い。だが、神は必ず私の手で殺す、これは決定事項だよ」


「そうか...曲げねえんだな。私はこれから悪魔から天使に戻す方法を探す。少しだけあてがあんだ。」


「ほう。ならば試してみるといい。私は力を蓄えるとするよ。」


「出来れば神にも反逆しねえでほしいが...堕天使になるくらいだ。誰の話も耳を貸さねえんだろ。にしても何でサタンとかなのってんだ?」


「念の為さ。天使の頃の記憶がある悪魔はほとんど居ない。だがもし何かの拍子で思い出された時が困るからね。それに、天使と悪魔の頃の名前が同じ悪魔はいないのだよ...さあ話はこれくらいにしよう。帰りはヴァルナードに案内してもらうといい」


「わかった。一つだけ言っておく、もし天使達に手を出したらお前相手でもただじゃおかねえからな」


「ははは、それは怖い。覚えておくよ。だがそれはこっちも同じこと。私の計画を邪魔をするのであれば君であろうと斬る。私は天使達を守るため神を殺さねばならない。」


「天使を守るのは私も同じだ。それじゃあな」


そう言ってミカエルはルシファーに背を向け、階段のある方へ歩いていく。

ルシファーは心の中で呟いた


(ふふ、強くなったなミカエル。ずっと私についてきてたやつとは思えないな。君に任せてよかった)


ミカエルの背中を見つめながら...。

ミカエルが階段付近に着くとヴァルナードが待機していた。ミカエルが近づくと一礼し、


「お帰りですね。出口までご案内致しましょう。」

そして最初来た道と同じ道で戻る。

ヴァルナードが地獄の門を開け、ミカエルを見届ける。門が閉まり、ミカエルが見えなくなるまで深くお辞儀をしている。


門が閉まるとヴァルナードはお辞儀をやめて、目を細めて呟いた


「ルシファー...」


その目は怒り狂う猛獣の目をしていた...

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