第11話 単独突入と三人衆

魔界に一人で乗り込み、ルシファーに会いにいくと決めたミカエル。今、天界と魔界の境目である場所に来ている。悪魔と天使が戦争する場合、ここで行われることもある。

一人で乗り込むなど大丈夫だろうか...そんな心配は捨てている。今のミカエルにはルシファーの説得しか頭にないのだ。天界をまとめるにはミカエルでは力不足だ。やはりルシファーでなくてはいけない。それに、実の兄弟とまた一緒に天界をより良いものにするため...。心の支えの意味でもミカエルにはルシファーが必要なのだ。必ず説得してみせる。

その思いを込めて一歩一歩進んでいく。地獄の門にたどり着こうとしている時...


「ちょっと待ちなさい〜」


ミカエルを呼び止める声がする。ミカエルはピタッと歩むのをやめた。すると、ミカエルの目の前に黒いモヤが三つ現れた。やがて形となり、声の正体が現れる。それも三人。それを見たミカエルが呟いた


「何だお前らは」


すると悪魔達は一人ずつ自己紹介を始めた。

まずは一人目...黒く大きな羽、それに悪魔の尻尾に露出の多い服に濃い化粧をしているが...筋肉質な体に髭も生えている。


「うふ、いいわ貴女を倒す前に名乗ってあげるわ!あたしはリリス・バルベラーよ!魔界に無断で侵入する不届き者を成敗しに来たわ〜残念なのは貴女が男じゃないってことね...男の子だったら食べちゃいたかったのに〜」


見るからにサキュバスのような姿をしているが男も存在するのか?

リリスと名乗る悪魔が残りの二人も名乗るように言う。するとじゃあ次は私、とツインテールで細身の体、細長い爪と紫の角が生えている女の悪魔が手を挙げた。どっちかというとこっちの方がサキュバスっぽい。両手には巨大な骨付き肉を持っており、肉を大きく頬張りながら喋った。


「あはひはほほのはほの...」


喋りにくかったのか一旦ゴクッと飲み込み、話し続けた


「私は〜タエカニス・バルカルセだよ〜貴女美味しそうね。食べてもいい?」


お腹減った〜といいつつまた肉を頬張りだした。

三人目は...寝ている。リリスが叩き起しながら敵に自己紹介しなさいというと、はっと目を覚まし、眠そうに仕方なく名乗った。


「僕...スイナード・ナズドラチェンコ。眠い...ねえ帰って寝ていい?」


リリスが言いわけないでしょ!早く起きなさいといいながらスイナードの背中をばしばしと叩いた。

それに対してタエカニスが止めに入った。


「ガルシア君、スイナード君に優しくしてあげなよ〜」

「ちょっと!その名前で呼ばないで頂戴よ!」

「えー、でも本名はガルシアでしょ?」

「いいの!これが今のあたしの本名なの!もう」


その会話の間、スイナードは寝てしまった。ミカエルがいい加減茶番を待ってられなかったため、不機嫌な様子で悪魔達に話しかけた


「茶番はもういいか。悪いが急いでんだ、雑魚はうせろ」


ミカエルの体からものすごい熱が発している。身体中から湯気が吹き出し、気がつけばこの空間全体が熱されているようだ。

リリスが汗を垂らしながらいった。


「あら、お怒りのようだわ。みんな、やるわよ〜!」


タエカニスは肉を頬張りながら頷き、骨を後ろに投げ捨てた。スイナードは嫌々ながら立ち上がり、言った


「仕方ないね、強そうだから僕も加勢するよ。僕はまだ寝ていたいからね」


ミカエルがジリジリと歩きながら悪魔達に向かっていく。手を広げると、手のひらから炎が現れ、細長い形になる。するとその炎は一瞬で剣へと変化した。

ミカエルの剣... 両刃の剣で刃は赤く、謎の刻印が掘られている。

まずリリスがミカエルに向かって投げキスをした。するとピンク色のハートが口からフワフワとミカエルの元へと飛んで行った。だが速度は遅い。避けようと思えば容易に避けることが出来るだろう。

次にスイナードが動く。地面に右手をつき、何かを呟いた。すると、ミカエルの周辺が黒い霧に覆われる。スイナードが今だよ、と合図をするとタエカニスが頷く。

タエカニスが右手を掲げると、右手が伸縮可能な触手のようなものに変化した。先端には大きな口とベロがあり、まるで化け物のようになった。

そしてタエカニスはミカエルに飛びかかる。

それに合わせ、リリスが声を張って言う。


「愛よ、弾けなさい!」


そう言うと先程放ったピンク色のハートが膨らみ、ミカエルの近くで爆発した。そしてタエカニスが化け物の右手でかじりついた。黒い霧でみえないが手応えがあった。間違いない。このまま食らいつき骨ごと飲み込もう...

だが、ミカエルが剣を一振すると、黒い霧は一瞬で掻き消え、左手に食いついているタエカニスを剣で貫いた。ミカエルはタエカニスを抜くため、剣を振り払って地面に捨てた。

スイナードはリリスに向けて震えた声で言った


「やばいよ...僕の技...吐き気と倦怠感、頭痛、動悸と目眩で襲う技全然きいてないみたい」


「私のハート・ラヴ・ボムも無傷とはね...おまけにタエちゃんのもね...でもやるしかないわね!」


リリス、スイナードがやけくそになってミカエルに隠していた武器を取り出し襲いかかる。ミカエルに攻撃が届こうとしたその時、ミカエルの足元から縦に燃え盛る炎が湧き上がり、リリス、スイナードを飲み込んだ。そのままミカエルは歩き出し、炎がおさまった頃には...灰しか残っていなかった...


地獄の門に手を付き、何かを呟くとゴゴっと門が動き出し、扉が開いた。その先には、悪魔が一人、待ち構えていた。

その悪魔は、片眼鏡に白髪混じりの髪、人間界の住民が着るスーツのようなものを身に着けている。

その悪魔はミカエルに気づくと、綺麗なお辞儀をして言った。


「これはこれはミカエル様、私めはヴァルナード・クロトナイザと申します。以後お見知り置きを。我が主、サタン様がお待ちしております。どうぞ、ご案内致しましょう。」


サタン...そう悪魔が口にした。魔界の王なんかが何の用だろうか...だが悪魔の王であればルシファーのこともわかるかもしれない。罠かもしれないが、ミカエルはヴァルナードと名乗る悪魔についていくことにしたのであった。

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