第10話 準々決勝と親友との対峙

準々決勝の膜が開ける。審判のアナウンスと同時に選手は入場する


「まず入場するのはこの二人ぃぃ!少し脳みそが足りないアモン!そして、素晴らしい作戦で勝ち上がってきた、アマノエルぅぅぅ!!」


おおおおお!っと歓声が上がる。準々決勝の対戦相手は選手は勿論、観客にも知られていない。あまり目立たないアマノエルだが、三回戦までの戦いで目をつけた人も少なくはない。

アモンが審判に文句をつけた


「誰が脳が足りてないだ!なんだそれ!もっとカッコイイあんだろ!」


そしてアマノエル達の対戦相手が入場だ。審判が続けてアナウンスする


「力一つで敵をなぎ倒していった、フロイザーぁぁ!そして、姑息な手で敵を苦しめてきた、アーリィぃぃぃ!!」


フロイザー...黒の長髪で二メートルもあろう巨体で男なら憧れそうな筋肉を持つ。武器は片刃の大剣...を片手で持っている。両手剣を片手で持つような屈強な男だ。傷も顔や体に何ヶ所もある。


アマノエル、アーリィ両名が驚いた顔をしている。まさか親友と対決することになるとは。アーリィが一瞬ニヤリと笑ったが、また驚きの顔に戻った


「どうして...正常でいてられる。こいつなら飲んだはず...まさか飲んでいない?」


一人で心の声をボソッと呟いた。隣のフロイザーにも聞こえていないだろう。

アマノエルが手を振ったあと、アーリィにお礼を言った


「あーちゃん、ドリンクありがとうね。後味が不思議な味したけど味も美味しかったし少し落ち着いた気がするよ!」


アーリィは自分があげたドリンクを飲んでいるということがわかった。アーリィは歯をかみ締めながらどうして何ともないのだという疑問と悔しさを押し殺して言った


「それは良かったよ〜。いや〜でもまさかアマちゃんと戦うことになるとはね〜。あーしも本気出すから手加減なしできてよね!」


アマノエルはうん、と笑顔で言ったあと真剣な表情になり戦う準備をした。横目でアモンとアイコンタクトで頑張ろうねと伝えた。アモンもそれを読み取り、頷いた。正直何を言いたかったか分からないが、頑張ろうとかそういうことだろうと勝手に思い納得した。

審判が開始の合図をする。3、2、1、バトル開始

それと同時にゴングがなる。

やはりアモンが開始と同時に走り出す。向かったのはフロイザーの元である。

走りながらアマノエルに話しかける。


「この強そうなのは俺がやるぜ!お前はそっちを頼む」


アマノエルが無言で頷いた後武器を構える。右手に短剣、そして左手に第一回戦でも使っていた両手杖を片手で持っている。


アモンがフロイザーの体に斬り掛かる。フロイザーは微動だにしていない。まさに動かざること山の如し。だがフロイザーには傷一つつかなかった。


「なんだと...」


アモンが思わず口にした。両手剣を片手で持っている時点で力は底知れないのだが、強靭な肉体により防御力も優れている。さすがのアモンも焦る。何度も攻撃を仕掛けるがやはり傷一つつかない。

息を切らしているとフロイザーが動いた。

アモンの顔を片手で掴み、投げ捨てた。アモンは闘技場の端まで吹き飛ばされ、壁に激突した。


「ぐっ...」


ものすごい力で投げられたため、空気抵抗が強く、体勢が思うように変えれなかった。そのため背中から壁にぶつかった。ゴホゴホと咳をしながら地面に倒れ込んだ。今のだけで分かる...圧倒的な力の差があると。


「アモン!」


アマノエルが声をかけて駆けつけようとするが敵...アーリィに背を向けるわけにはいかない。

仕方がない、まずは目の前の敵から倒そうと意気込む。まずアマノエルがアーリィに短剣を振る。が、突然アーリィの姿が消えた。一体どこに...?素早く上に飛んだ...?いや、


「後ろね!」


体を捻り勢いよく振り向く。案の定アーリィは後ろにおり、攻撃を仕掛けようとしていたため短剣で受け止める。ガチン、と金属同士がぶつかる音が響く。

そしてアマノエルは頬に汗を垂らしながら得意げに笑っていう。


「シャドウステップ...影から影に移る影移動魔法...やるわね」


アーリィもアマノエルに合わせて笑って返した


「それは...どうも!」


言葉に合わせて短剣を押し返し右手をアマノエルに向けて振る。すると針が三本、アマノエルに向かって飛んで行く。

隠し武器...暗器と呼ばれる武器である。日用品や服に隠し、不意をつくもの。

アマノエルは避けずに暗器を短剣で振り落とす。見えていれば振り落とすのは容易である。


アーリィは追撃をする。アマノエルの短剣よりも小さい小型ナイフのようなもので攻撃を繰り出す。

それに対しアマノエルは大きく体をそらし、避ける

アマノエルは反撃していない。避けるのが精一杯なのか?アーリィは追い詰めるために攻撃を続ける

アマノエルは闘技場端に追いやられる。壁に手を付き、左手の杖を地面に刺した。

息を切らしながらアーリィが得意げな顔で話しかける


「追い詰めちゃったぞ〜これで終わりよ!」


瞬間、アマノエルは羽を開き飛び上がる。飛行は別にルール違反ではない。アーリィはちっ、と舌打ちをし再びアマノエルを追いかける。

その後、アマノエルは攻撃を避け、闘技場端までいき、杖を地面に刺し、また避けるを何度か繰り返していた。呆れたアーリィがとうとう口にした


「あのさ〜追いかけこっはもう飽きたんだけど?そうやって体力を奪おうってわけ?」


アマノエルも攻撃を避け続け体力が減っている。

このままでは体力が尽きた方が負けである。そういう賭けはアマノエルがするだろうか。


一方フロイザーに手を焼いているアモンだが、その後も攻撃を仕掛けるがやはりダメージを与えられない。フロイザーはパワーこそ強大だが動きはアモンの方が速い。そのため攻撃は避けることができるがダメージを与えられないのでは意味が無い。

それでもアモンは...フロイザーを睨みながら笑っている。

アモンが大ぶりの攻撃を仕掛ける。観客からしたら隙のでかい攻撃で、しかも傷一つ負わせれ無かった相手に無謀なことをしているようにしか見えない。

アモンの降りかかった刃がフロイザーの体にとどくまえに、フロイザーがアモンの剣ごとフロイザーの片手で巨大な剣でぶん殴った。アモンは咄嗟にガードするがガードした両手剣は砕け散り、そのままアモンを切り裂いた。アモンは地に伏せ、地面が血に染った。

トドメをさそうとフロイザーがアモンに近づく。そして刃をアモンに向け刺そうとする。観客の誰しもが完敗だと思ったその瞬間、アモンがフロイザーの足を掴んだ。


「待てよ...まだ俺は...負けてねえ」


負け惜しみである。誰もがそう思った。ここまで力の差を思い知ってまだ諦めないのはただの馬鹿である。無意味に血を流すだけだ。だが


「?!」


フロイザーは急に脱力感に襲われた。その原因は...アモンだろう。手を離させるため掴まれてない足でアモンの手を踏みつけた


「ぐあっ」


ブチッという音がした。何かが切れたのだろう。それでもアモンは手を離さない。フロイザーは何度も何度も踏みつける。それでもなお離さない。

持続的に段々と力が抜けていく。

アモンは地に伏せたまま笑いだした。


「ははは...あんたの攻撃、もう痛くないぜ」


アモンはフラフラと立ち上がり、拳に力を入れた


「今までの...お返しだ!受け取れ!」


フロイザーのお腹に渾身の一撃を与える。今度はフロイザーが闘技場の端まで吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。アモンはここまでの力があっただろうか?いや、フロイザーの力を弱めただけでなく吸収したのであろう


「アブソープション...俺が唯一使える魔法だぜ思い知ったか!」


得意げに言い放つがアモンは満身創痍である。そのまま倒れ意識を失ってしまった。


そしてアマノエルはというと、アーリィからの飛び道具を避けていた。体を大きく逸らし、避けるのだが...アーリィが自分の影に向けて暗器を投げ込んだ。するとアマノエルの影から暗器が飛び出し、アマノエルの羽に刺さってしまった。


「しまった...」


アマノエルが不覚をとってしまい、声に出した。

すぐに立とうとするのだが...


「身体が動かない...?!」


アーリィが歩きながらニヤリと笑って言う


「そう、痺れ液を塗っておいたのさ〜。それ、ユニコーンが五時間くらい動けなくなるようなやつだからさ〜、結構強いんだよね〜。これでアマちゃんの負けってことで〜」


アマノエルは顔を下げた。諦めたのだろうが。

だがアマノエルはなにかブツブツと口にしている。声も小さく、顔を下げているためアーリィは気づいてないだろう。


「...凍てつく風...白く染まる大地...何人たりとも動くこと叶わず...凍てつくは敵、永遠の刻に誘おう...」


観客の何人かが体を擦りながら呟いた


「なんか寒くない?」


アーリィがアマノエルの元へ着いた。その時にようやく何か言っていることに気がついた。


「なに、ブツブツ言ってるの?負け惜しみ?でも残念、貴女の負けよ!」


アーリィが暗器を指で三本挟み、刺すように攻撃する。

――その瞬間。アマノエルが顔をあげ呪文を唱えた


「ブリザード・バーン!!」


闘技場がゴゴゴっと言う音を立てて揺れる。

アーリィは何事かと攻撃を辞めて周りを見渡す。

すると、闘技場全体を覆うような大きな魔法陣が生成された。アーリィはアマノエルの不可解な行動を思い出した。


「そうか...あの時の...」


そう、闘技場の端で杖を地面に刺していた行動。どうして使いもしない両手杖を片手で持ち、地面に刺すだけだったのか...その意味がようやくわかった。

そしてどこからともなく冷たい風が肌を撫でる。

やがて強風になり、やがて吹雪になった。闘技場の地面は雪で白く覆われ、猛吹雪により思うように動けない。


...フロイザーはアモンの渾身の一撃を受けたはずだがよろよろになりながら起き上がった。そしてお腹を抑えよろめきながらアモンの元へと向かう。アモンは気を失っている...力をこめ、アモンに拳を大振りする...


アーリィは動けないでいるとジワジワと体温を奪われている。それだけでなく体が少しずつ凍りついているのに気づいた。

闘技場全体を凍てつかせる魔法...仲間もそれどころではないだろう。だがアモンは...雪で埋まりながらも親指を立て、地面に倒れながら震えながらグーサインを出した。アモンは大怪我を負い、さらに猛吹雪の中でも耐え抜いている。常人では既に息絶えているだろう...だがアモンは特殊な素材の服を着ていたのだ。特殊な素材で編み込まれており、氷魔法を軽減する服...。万が一自分ごと巻き込んでもいいようにと仕入れたのだろう。それなりの値段がするはずだが、それほど試合に本気だったのだろう。


アーリィはアマノエルも動けないがこのままでは負けてしまう。そうだ、影移動でアマノエルの目の前に移動し、動けないやつを倒そう...

猛吹雪で姿は見えないが、痺れで動けるはずもない、大体の場所はわかっている。アーリィはシャドウステップでアマノエルの影に移る...これで終わりだ


そう思った直後、アーリィは顔面に強い衝撃を感じた。何が起こった...?脳が揺れる。そのまま体が回転しながら吹き飛び、地面に叩きつけられた。

気を失う前に少しだけ見えた。殴ったのはフロイザー...アーリィは気を失った。

アマノエルはフロイザーの前に移動していたのだ。視界を奪うことで影移りをするとにらんだのだろう。フロイザーの攻撃に位置を調節し、アーリィが来るタイミングに合わせた。上手くいったようだ。


フロイザーはアモンの一撃とアマノエルの魔法で体力が奪われており、最後の力を振り絞ったのかそのまま力尽き、倒れてしまった。

歓声が上がる。始まりよりも何倍もの声で...。

観客は一気に盛り上がった。


アマノエルは気を失ったアーリィに近づき、しゃがみこんで言った。


「ごめんねあーちゃん。痛かったよね...。悪魔って姑息な手を使ってくるでしょ?毒とか状態異常にしてきたり...だからそれに対策できる魔法、少しだけかじってるんだよ。ふふ、私の勝ちね」


正直、フロイザーをアモンが倒してくれなかったら危なかった。力の差がありながらも立ち向かい、傷つきながらも勝利したアモンにはあとでお礼を言っておこう。

アマノエルは袖で額の汗を拭き取り、一息ついた。

カンカンカンっとゴングがなり、試合は終了となった。

なんとか準々決勝を勝ち抜いたアマノエルとアモン。だがアモンの傷が予想以上に大きかったため、準決勝は惜しくも棄権するのであった。

ただ、初めてで三位とは中々大きい。少なくとも同期内での評判は良くなるだろう。


アモンとアマノエルはミカエルに報告するべく、ミカエルの元へと向かうのだがどうやら留守のようだ。

そういえば長い間姿を見かけていない気がする...忙しいのだろうと思い、手紙を書くことにしたのであった。

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