第7話 ミカエルの決意と合わない二人

時代はまた戻る。ミカエルは変わり果てたルシファーと再開した後、ある計画の準備をしていた。しかし焦っている様子だ。このミカエルが焦りを表に出すのは珍しいことで、表に出ているということは相当なものだ。ルシファーが居なくなり、ルシファーの最後の願いを何年も果たしてきた。


(...私がいない間、天使達をまとめて欲しい。私の最初で最初の...頼みだ...)


ミカエルはルシファーの最後の願いを思い出していた。突然最初で最後の願いをし、姿を消したルシファーと再開したかと思うと悪魔に身を染めていた。

ミカエルは絶望しただろう。子供の頃からずっと慕ってきた兄弟が天使の頂点に君臨し、天使全体の憧れの存在となったのだ。だが、敵である悪魔共の味方になっていた。これは信じられない出来事である。

ミカエルは唇を噛み締め、手元にある書類を握りしめた。

サンダルフォンが様子のおかしいミカエルを横目で見て後、ミカエルに声をかけた。


「あの、ミカエルさんどうされました?」


声をかけられて正気に戻ったのか、ミカエルはガバッと顔を上げた。そして弱々しい声をあげた


「あぁ...大丈夫だ。すまねえな心配かけたか。そうだ、お前に言っておかなければならないことがある。」

「なんでしょう?」

「近々、魔界に攻め込もうと思っている」


それを聞いた途端、サンダルフォンは驚き立ち上がった。どうして急にと言わんばかりの顔をしている。ミカエルは察したのか話を続けた


「この間、悪魔が天界に侵入してきただろ?このままだといつ襲撃してくるかわからねぇ、だからその前に圧力をかけにいく」


嘘である。完全に嘘ということではないが本心ではない。ルシファーに会いに行くためにであろう。そして頭を冷やさせ、あわよくば天界に戻ってきてもらう。ルシファーは言った、天使に手を出すつもりはない、と。ならば何か理由があるはずだ。実の兄弟にも言えない何かが。ルシファーは天使長の頃から、役割上一人で抱え込んできた。ならば今度は自分が手を貸してやるべきだと...天使として、七大天使として...実の兄弟として。

サンダルフォンは本心では無いこととはしらず納得した。


「なるほど...であれば準備をしなくちゃですね!隊員達にも伝えてきますよ。あの、力不足ですが頑張...」


頑張ります、と言い切る前にミカエルが声を重ねてきた


「いや、私一人で行く」


サンダルフォンは心底驚いた。魔界は危険である。ましてや単独突入などもってのほか。調子に乗った阿呆でもそんなことはしない。何度か魔界に進軍したことはあるが計画を練り、隊員全員で準備し、作戦通り行かなくとも臨機応変に対応する。不準備では命を落とす。

魔界には魔王が存在する。名をサタンという。サタンに目をつけられたら最期、永遠の地獄を与えられるといわれている。悪魔討伐隊の前衛に立つミカエルでも見たことは無い。というかサタンのところまで進軍したことはない。なのに一人でいくなど...

力を認めてはいるがサンダルフォンは流石に止めに入った


「一人じゃ危険ですよ!どうしても行くっていうなら俺も連れていってください!」


「ダメだ、他のやつを危険に晒すわけにはいかねえ。もう決めたことだ。私一人で行く」


ミカエルの決心は固い。こうなってしまっては曲げないだろう。サンダルフォンはミカエルの強い意志を感じそれ以上は止めなかった。しかし心配なのには変わりない。サンダルフォンはどうすることもできず、わかりましたとだけ言い、部屋を出るのであった。

ミカエルはサンダルフォンが部屋から出たあと、隊員達にしばらく留守にすると伝え、魔界に向かう準備をするのであった。


...一方、アマノエルは幼馴染であり同じ部隊に所属となったアモンと会っていた。なんでも次の鍛錬の内容が二対二のペアバトルだそうで、その作戦も打ち合わせをしていた...のだが、中々合わないのだ。

アモンの作戦はこうだ


「そんなのぶっ叩けば勝ちだろ」


一方アマノエルは


「そんな力任せで勝てるわけないでしょ、相手だって何してくるかわからないんだよ?私が魔法でサポートするから、アモンが敵の一人を引き付けてくれない?先に片方落とせれたらもう一人は...」


アマノエルはきちんと作戦を立てる方だがアモンは違う。力で勝っていれば何も考えず勝てると思っている。いわゆる脳筋である。アモンは魔法は苦手で使える魔法も少ない。アマノエルは力はそこまでないが魔法が得意である。ある意味アモンと相性がいいのだが考えが合わなすぎる。

最終的にとった作戦はこうだ「アマノエルがアモンの動きに合わせサポートする。まず片方から倒す」

といったシンプルなものだ。細かく作戦を立てたところでアモンが覚えきれない...というか覚えたところでその通りに動かないであろう。そういう意味ではシンプルな方が良いであろう。


作戦を立てたあと解散した後、アマノエルはアーリィの見舞いに行った。ルシファーが現れた騒動でミカエルの猛火により火傷を負っていたようなのだ。体に良さそうなフルーツを、新しいアーリィ宅に持っていった。アーリィは黒くなった右目を前髪で隠していることにアマノエルはただのイメチェンとしか思っていない。

アマノエルは火傷を負っている親友のアーリィに心配の声をかける


「あーちゃん、ケガの方は大丈夫?早く治るといいけど」


憎き相手がいるのは耐え難いだろう。しかし耐えるしかない。アマノエルにとって自分は親友であり、実際に昔はそうだった。憎んでいるということは本人にバレるわけにはいかない。アーリィは怒りを押し殺し、「ありがとう大丈夫」と冷めた口調で言った。

アマノエルは元気がないかなと心配になったのでフルーツをわたし、また来るねと言いその場を去った

アーリィはアマノエルが完全に家を出たあと、独り言で


「もう来ないで。顔も見たくない」


そう呟いた。前髪をどかし黒く変わり果てた右目をさらし続けて呟いた


「本当はあーしがミカエル様のところに入隊する予定だった...なのに。なのにあいつが...あいつが特別配属にならなければあーしは出世できたはず!...あいつなんかいなくなればいいのに」


親友だったとは思えない言葉を発するアーリィ。

アーリィは父親を小さい頃に亡くしており、母親は牢屋に入れられている。どちらも理由はわからない。残ったのは母親が作った膨大な借金。それに追われるアーリィ。とても貧困な生活をしている。ミカエルのお詫びで生活の環境は整ったが借金はある。これを返さない限り裕福な生活はできない。

アーリィは才能こそ無かったが自分自身の努力でミカエルの元へ配属できる予定まで上りつめた。

だが、後からアマノエルが突然ミカエルの元へ配属となったのだ。それによりアーリィは配属取り消しとなった。アーリィはアマノエルのせいだとは知らなかったが、この前の魔道具での会話で知ったのである。憎き相手が親友だったことには驚いたが、憎悪の方が勝ったのだ。

この時、アーリィのお腹に黒い痣ができたのをアーリィが気づくのは少し後になる。

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