第6話 ミカエルの悩みと最悪の再会

「―――以上が、休日での出来事です。」


ミカエルの自室にて、アマノエルはミカエルに前日の悪魔での戦闘の報告をしていた。サンダルフォンも同じである。

アマノエルが報告を終えると、ミカエルはため息をついた。そしてミカエルは二人にご苦労とだけいうと二人を自室から出させた。独りになったこの自室は静まりかえった。ミカエルは独り言をこぼした。


「突然悪魔の出現、それに裏切り者...ルシファー...お前なら何かわかるのか?...何故姿を消した」


ルシファー...天使の頂点に君臨し、多くの物事を見通す力がある。神々しく力もあり天使全員の憧れであった天使長のルシファーは...今はもう居ない。突然姿を消したのだ。その原因は誰にもわからない。そう、双子の兄弟であるミカエルにすら...

ミカエルはまた独り言をこぼす。


「一体どこにいる...戻ってきてくれ。天界にはお前が必要だ...」


こんな弱々しい姿のミカエルは誰にも見せられないだろう。七大天使でありながらとてつもない力、魔力を持つミカエルだが、ルシファーのような秀才さはなく全てを見通す力もない。長年の経験からわかることはあるが限度がある。裏切り者は?何のために?ルシファーは一体どこへ?そんな事はわからない。ミカエルは暫く沈黙し、意を決したかのように立ち上がり、自室を後にしようとした。しかし何かに気づいたようだ。慌てて外に出て自分が出せる最速のスピードで飛んでいった。


一方、アマノエルと仲の良いあーちゃん宅。あーちゃんは黄色の肌、目の下に、天使には珍しいホクロがある。二枚の白い羽が生えているが少し小さい気がする。あーちゃん...本名はアーリィ。彼女は一人暮らしのようだ。アーリィは全身鏡を見ながら、服を着替えようとしている...が全身鏡をの見たあと着替えようとしていた服を地面に落としてしまった。鏡にはアーリィの驚きの表情がうつっている。数秒固まった後、鏡により近く近づいた。


「なんで...?何よこれ!」


家一人なのにもかかわらず、驚きのあまり大きな声で疑問を口にする。それは何故か、アーリィの右目の白目の部分がいつの間にか黒く染っている。瞳も黄色く、瞳孔も野獣の様に細い。悪魔のような目になってしまった。擦っても擦ってもそれは治らない。諦めたアーリィは仕方なく髪の毛で隠すことにした。

原因は少しだけ心当たりがある...


「アマノエルへの憎悪...」


しかし天使が憎悪により悪魔になるということは知らない、知らされていない。しかしこれだけはわかる。このまま憎悪を強めれば悪魔化が進行する...と。

バレるわけにはいかない。それは、悪魔は天使の敵だからだ。バレてしまえば殺されてしまうかもしれない。


「?!」


アーリィはあることに気づく。天使の創造主、神から与えられた天使の役割...それは悪魔の抹殺。それと天界、魔界、下界との均衡。だが、悪魔は元天使...?もしそうだとしたら我々がやっていることはただの同胞殺しではないのか、と。

そういうことを考えていると、後ろから凄まじい威圧感を感じた。振り向くとそこには、邪悪なモヤが発生している。モヤは次第に形になっていき、人の形だということがわかるのに時間はかからなかった。

現れたのは...悪魔...?いや堕天使だ。その堕天使はアーリィを見下ろしながら言った。


「御機嫌よう、早速だが堕天使になりかけている君にお願いをしに参上した。私の名はルシファー」


彼は確かにそう言った、ルシファーと。聞き間違いではないはずだ。行方不明になったはずの天使長だったルシファー...見た目は天使長だった頃の美貌、風格...神々しさは失われていた。六枚の漆黒の羽、そして鋭い爪や牙、頭には角が生えかけている。肌の色も薄黒くなっている。姿が変わってしまったが

アーリィはルシファーであるはずがないとは思わなかった。それは、少なからず懐かしさがあるからだ。それに、察しのいいアーリィならば行方不明になった理由くらいわかる。そう、ルシファーも理由はどうあれ堕ちたのであろう。アーリィはお願いとは何かを聞いた。するとルシファーは


「なに簡単な話だ。私に手を貸してはくれないか。神を殺す。そのために」


神を殺す。それは創造主への反逆である。つまり神を恨んでいるということになる。天使長であったルシファーならば神と対面していたり話を聞いたりしていてもおかしくはない。だがアーリィには何の関係もない。別に神を恨んでるわけでもないからだ。確かに同胞殺しをさせられていたことには腹が立つ。だがアーリィは出世して裕福な暮らしが出来ればどうでもいいのだ。当然アーリィはルシファーのお願いを断る。メリットが無いからだ。するとルシファーはすぐに提案をしてきた


「であればこういうのはどうだろうか。君が憎んでいる天使...アマノエルと言ったか。その天使を抹殺してあげよう。手を焼いていたのだろう?」


提案をうけるとアーリィは縦に頷いた。何故知っているのか...という疑問は捨てた。するとルシファーは微笑しそれは良かったと言った。そして続けてこう言った。


「私は天使を神から解放したい。それ故に神を殺す。

君ならもう察しているだろう、我々がやって来たことはなんだ?ただの同胞殺し同然ではないか!」


静けかな話し方だったであったが少しずつ雰囲気が変わる。ルシファーは怒りの表情をうかべている。


「我々は何のために創られた?都合の悪いものはおとし、良いものは駒として使う。我々は道具ではない。悪戯に種族を増やし気に入らなければ消す。ふざけるな...私は神を絶対に許さない」


そういうと再び表情が戻る。すまない、少し我を忘れてしまったな。とだけ言うと彼女に背を向けた...瞬間、アーリィは家の中が蒸し暑いことに気がついた。サウナのような暑さだ。身体中から汗が吹きでる。暑さが増しているようだ。次第に肌がやけるような暑さになってきた。喉が渇く。一体何だこれは。ルシファーの仕業なのか?お願いしたいと言いながら私を殺すつもりなのか?そんなことを思ったが違うようだ。ルシファーが長居しすぎたか...と呟いたからだ。すると家の壁が急に吹き飛び、家の中に熱風が入り込んできた。アーリィは思わず目をつぶってしまった。何事かと恐る恐る目を開けると、ミカエルの姿がある。ミカエルはルシファーに気づくととても驚いた表情でかつ悲しそうな怒っているかのような声でルシファーに問いかけた


「お前...何故...突然姿を消したかと思えば...悪魔などに手を染めたか!!!」


そういうと家の壁が消し飛んだ。アーリィは見た。一瞬にして壁が炭になったのを。ミカエルは炎を司る天使だとは知っているがこれ程の火力だとは...

その力を目にしてもルシファーは微笑み、再開した兄弟にこう言った。


「久しぶりだね、我が兄弟よ。元気そうで何よりだよ...安心していい、私はこの子にも、天使にも手を出すつもりは無いよ。」


天使長だった頃のように、ルシファーはミカエルに話しかけた。優しい声だ。懐かしい。だが今はそれどころではない。話したいこと、聞きたいことは山程ある。さらに、再開したルシファーは天使の敵...堕天使になっていた。堕天使とは言うが天使からみた堕天使は悪魔同然なのである。天使は堕天使が元天使だということは知らない。

ミカエルは聞きたいことの多くの中から一つだけ絞り出し、ルシファーに問いかけた


「ならお前の目的は何だ!天使に手を出さないのなら何故悪魔共は我々に攻撃してくる!」


ルシファーはそれに対して静かに答える


「それは教えられないよ。だが手を出さないのは本当さ。攻撃してくる悪魔共は勝手に行動しているだけだ。私はしらないよ」


ミカエルはさらに問いを続けた。


「ルシファー...どうして敵の悪魔なんかに手を染めた?私は...」


悲しそうに喋るミカエルが何かを言いかけたが重ねて遮るようにルシファーが喋りかけた。


「また会おう。久しぶりに顔を拝めて嬉しかったよ。ではまた」


「待て!お前は」


ミカエルが言い切るよりも前に、ルシファーは黒いモヤとなり消えていった。ミカエルの悩みは増えるばかりである。その後、ミカエルはアーリィの家を壊してしまったお詫びに少し高そうな家を与えた。

アーリィはそれ以外は普段と変わらず生活をすることとなる。ミカエルには...天使にはまだバレてはいない。

アマノエルがアーリィの家に心配しにやってきたが、顔も見たくなかったため具合が悪いと適当な理由をつけて追い返した。

アマノエルはアーリィがいつもと違う雰囲気のような感じがしたが、具合が悪いからだろうと勝手に納得した。

後日、アマノエルはミカエルにより任務を任されることとなった。

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