第3話 初鍛錬と怒りのミカエル
入隊式を終えたアマノエルはその日の夜複雑な気持ちだった。明日から初鍛錬という緊張、うまくやっていけるのかどうかという不安、ミカエルの言っていたことはどういうことかという疑問...そんな気持ちもあり夜は少し寝付けなかった。不安を解消すべく友達と少し話そうと魔導器を取り出している。
魔導器とは色々なものがあるが、今取り出そうとしているのは遠くに離れていても声を飛ばして連絡ができる物である。
アマノエルはアモンではなく、天使学校で仲の良かった友達に連絡をした。というのは、この時間にはもうアモンが寝てるだろうと思ったからだ。
受信すると、数秒程で相手とコンタクトがとれた。それを確認するとアマノエルは友達に声をかけた
「あーちゃんごめんねこんな時間に。今大丈夫?」
アマノエルがあーちゃんと呼ぶ通話相手は明るく大丈夫大丈夫〜、と返事をした。そのあーちゃんという人物とは長年の付き合いからか、アマノエルは通話相手が夜型の人間だということは把握しているため本当に大丈夫なのだと確信し、話始める
「ちょっと眠れなくてさ。部隊によって違うけどほら、明日から鍛錬とか任務が始まるわけじゃん?うまくやっていけるかわからないし...」
すると、通話相手...あーちゃんは少し考えたあと、彼女を励ますように優しく声をかけた
「んーそんなに気負わなくてもいいんじゃない?不安なのもみんな一緒だと思うよ?上の人も同じくさ。それにアマちゃんならやっていけるって〜今までもそうだったでしょ?」
アマノエルは励ましの言葉を聞いて、相手には見えないものの、下げていた顔を上げて言った
「そうだよね...うん、天使学校でも色々あったけどなんだかんだ乗り越えれたもんね!何でかわからないけど憧れていたミカエル様の元に入隊できたし!本当は別の所に配属される予定だったんだけどね」
その言葉を言い終えると、相手側の声が聞こえなくなった。魔導器の不具合か?と思いつつ相手の名前を何回かほど呼びかける。すると夜の静かな雑音にすら掻き消えるような声で「お前だったのか」、と聞こえた気がした。
アマノエルはもう一度あーちゃんと呼びかけてみると今度は反応があった。先程までの明るい声でごめんごめんと笑いながら言ったあと
「あーもう遅いから寝ようかな。明日も早いしさ、アマちゃんも寝なよ!夜更かしは乙女の天敵だぞ〜」
そうだね、と笑いながら返事したあと通話をやめ、床に就くことにした。さっきのは何だったんだろう?雑音?幻聴?そんなことを思ったりもしたが、あーちゃんに励まされたおかげであまり気にならなかった。
明日からがんばろう、と心に決め瞼を閉じるのであった
翌朝、昨夜と違い食欲があった。不安が少し和らいだからだろう。彼女はあまり料理をしないのだが、早起きをして作るくらい気分は良くなっていた。しかり彼女はお世辞にも料理が上手いとは言い難い。アマノエル母は娘が料理をしている事に一瞬驚いた後にすぐ嫌な予感しかし無かった。しかし娘が頑張ってる姿を見てとめるきこもできず、すごいね、えらいね、と頭をグチャグチャしながら撫でるのだ。グチャグチャにしたあとは勿論髪がボサボサになるのでちゃんと優しく撫でながら綺麗に整えた。アマノエルが作った朝ごはんは鳥類の卵でつくった半分焦げたスクランブルエッグ...とはいうがただ形が崩れてそうなっただけである。
母は、あー...と嫌な予感が的中し、呆れた顔をするがしかし娘の不器用さを愛おしく思い少し微笑んだ。
親子で頂きますを元気よくし、食材に感謝して朝をむかえた。味のことは触れないでおこう。
さて、朝ごはんを食べ支度をし集合場所へ急ぐ。時間はきちんと守るほうだ。集合場所は闘技場。天使学校にあるものとは比べ物にならないくらいのデカさを誇る。
集合場所へつくとアモンの姿が見当たらない。彼はアマノエルとは違い時間にルーズである。
集合時間になり、昨日聞いた迫力のある声が、広大な闘技場なのにも関わらず全体に響く声が聞こえた。姿を目視せずとも誰もが察することができるだろう、ミカエルの声である。しかしアモンの姿は見当たらず...アマノエルはまあいいかと気にとめなかった。
今日の訓練は、基礎的な事だ。忙しいミカエルだが初日ということもあり直々に、一人一人の熟練度、訓練方法を見てアドバイスと褒めの言葉をかけている。
勿論怒られる人もいる。そんな気持ちで取り組むやつがいるか、死にたいのかと。しかしそれは仲間を思いやっているからこそであり、実戦で死者を出したくないから故の厳しさである。優しさで怒っているのである...アモン、彼を除いて。
なんと彼は集合時間に結局間に合わず、遅刻してきたのである。闘技場に一歩彼が足を踏み入れた瞬間にミカエルはそれに気づき激怒した。初日に遅刻するやつがいるか、お前みたいな役立たずは使い魔の餌にしてやる、などと死にたくなるような事を言い訳の一つも言わせずに一方的に説教をしていた。ミカエルはアモンが寝坊したからだと分かっているからだ。他の人であれば言い訳の一つや二つ聞いただろう。しかし彼が寝坊だと一目瞭然であった。何故なら寝癖により髪が全て逆立っていたからだ。
アモンはミカエルに初日にして居残り補習を言い渡され、その日一日は落ち込んでいただろう。寝坊しただけなのに...と言わんばかりだ。
補習内容は素振り五千回、腕立て伏せ千回とこの広い闘技場を五十周走るというものであった。
哀れに思う必要は無い、と思っていたアマノエルだが流石に可哀想に思ったからか、水を持ってきてあげたり終わるのを待ってあげたりしていた。補習が終わったあとは全エネルギーを使ったようで、その場で倒れた。
見かねたアマノエルは体力が少し回復する魔法を彼にかけてあげた。
アマノエルも初日の鍛錬で疲れてはいたが、へとへとで倒れるほど疲れた友達を置き去りにして帰るほど良心が痛むことは出来ず、他の人に手伝って貰うように頼み、彼の家まで運んであげた。
家に帰ったあとはミカエルからのアドバイスを思い出し、ノートに記述し忘れないようメモをした。
ミカエルの怖さを改めて知ったアマノエルは寝坊だけはしないと心に誓い、眠りについたのであった。
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