第2話 配属と謙虚な天使

入隊式の挨拶を終えたサンダルフォンが溜息をつきながら歩いている。先程までの威圧感はなく背を曲げながら廊下を渡っている...前から来る七大天使に気づきもせずに。


「あ?サンダルフォンじゃねえか。そういや入隊式の挨拶を命じられてたな。お疲れ」


労いの言葉をかけたのは火を司る七大天使ミカエル。その言葉にサンダルフォンは元気なく返事をする。


「あぁ、ミカエルさんですか...ありがとうございます。」

「あのないつも言ってるだろ私には敬語は必要ねえよ。お前は私と同じ七大天使みてぇなもんだ。」

「そんなわけにはいきませんよ!俺はメタトロンの代用品にすぎませんから」

「そう卑屈になるなって。私はお前を評価しているんだぞ?」

「そうですか...嬉しい限りです」

「そんで、なんで落ち込んでるんだ?」


それは、とサンダルフォンが口にしようとした時ミカエルが続けて質問をする。


「つーかお前なんで四枚羽なんだ?隠す必要でもあるのか?」


先程の質問新たな質問に合わせてサンダルフォンは答える


「入隊式の挨拶ですよ...どういう風に言えばいいか未だに分からなくて...俺こんな感じじゃないですか。七大天使代理でありながら七大天使のような威圧感もないし...だから強そうな言い方で挨拶の言葉を言ったんですよ...でもだからといって六枚羽だと怖がられるじゃないですか...だからその...」


弱々しい言葉を発している彼にミカエルは呆れたように溜息をつき、彼の背中を二度叩いて言った


「もっと簡単な方法あるだろ。お前この天使界で歌われる界歌を作った本人だろうが。みんなお前の曲を気に入って当たり前のように歌っている。しかもお前は俺と同じ悪魔討伐隊の前衛部隊、そしてあのメタトロンの兄弟にして代理。それだけで十分だろ。何言っても響くと思うぜ」

「それは...そうなんですかね...」

「お前の欠点は自信のなさだな。」

「分かってはいるんですけどね...ていうかミカエルさんはどうしてここに?」

「あぁそうだ、入隊式を終えたやつらがうちの部に来るんだった。それじゃあ私はもう行く。じゃあな頑張れよ」


サンダルフォンは元気づけてくれたミカエルの背中を見送り水辺でリラックスしようとこの場を離れるのであった。

一方アマノエルとアモンは配属された部隊へと足を運んだあとだった。緊張しているアマノエルを落ち着かせようと、アモンが声をかける。


「なあアマノエル。ミカエル様って近くで見るとどんな雰囲気なんだろうな」

「力があって怖いイメージしかないよね。だからすごく緊張してるんだよ...怒られないかな」

「まあそうだよな。でも噂なんだけどさ、そんなイメージあるけど案外優しいらしいぞ」

「えー本当に?そうだといいなあ」

「それにお前ならやって行けるって。俺が保証する」

「アモンに保証されてもなんかなぁ」

「なんかってなんだよ!俺がお前はできるやつだって褒めてるんだぞ?」

「はいはいありがとう。そろそろ...」


「集まったな!命知らず者共め!」


後に続く言葉を言おうとした瞬間、室内全体に響き渡る声が聞こえてきた。この場にいたほとんどが思わず体をビクッと震わせただろう。声の主は七大天使のミカエルである。


「ようこそ我が部隊へ。私は七大天使のミカエル。基本的に悪魔討伐の際に前衛で戦う者が多いとお前らも知っているだろう。悪魔共は弱くはない。つまり命を落とす者も多いということだ。私はもう死人を見たくない。

そのためには日頃の鍛錬を怠るな。私も最大限お前らのサポートをしよう。悪魔討伐の日までは戦いの勉強と鍛錬。これを毎日やっていく、いいな。色々と考えることもあるだろう。今日は家に帰って休む事だな。だが明日から早速鍛錬にとりかかってもらう。それじゃあ質問があるやつだけあとでここにこい、以上だ解散!」


解散の言葉で大体の新入隊員は退室していった。しかしアマノエルは未だに帰ろうとしていない。疑問に思ったアモンはアマノエルによびかける。


「アマノエル〜帰らないのか?」

「あー...うん、ちょっと聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」

「うん...よし、ちょっと聞いてくる」

「あ、おい」


何かを決心した様子のアマノエルにアモンはとめようとするが、アマノエルは聞く耳を持たない。ミカエルの元にたつと思い切って思いを伝えてみた。


「あ、あの!ミカエル様...質問よろしいですか...?」

「あぁどうした」

「あの、えっと...どうして私ここの部隊に配属されたんですか...」

「不満か?」

「あ、いえそうではないんです...ですが私戦うのに向いていないっていうか...なんというか...自信なくて」

「そうか、まあいずれわかるだろ。気にするな」

「え?でも」

「後ろにいるお前なら何となくわかるんじゃないか?」


と、追いかけてきたアモンにミカエルは話しかける


「はい...なんとなく、ですけど」

「自分で気づくことも大切だ。だがモヤモヤしすぎて雑念があるなら鍛錬にも集中できないだろ。そしたらこいつに聞けばいい。他に質問がなければ私はもう帰る」


ミカエルは自覚がなく意味がわかっていないアマノエルを置いてその場を離れようとしている。しかし引き止める形で無計画にアマノエルはうつむいたまま勢いよく呼び止める。


「あ...あの!」


ミカエルは当然振り向き、どうしたのかと問いかける。が、呼び止めたのはいいものの何を言えばいいかあたふたしている。ようやく言葉を選んだ。


「さっきのはよくわからないですけど...明日から精一杯頑張ります!」


ミカエルはふっと微笑み、アマノエルの元へと戻ってくる。そしてアマノエルの小さな頭に手を乗せ、


「期待しているぞ」


とだけ言い残し今度こそその場を去っていった。顔には出していないものの、アマノエルは心底喜んだことだろう。当然アモンには知る由もなく、自分達も帰ろうと呼びかけるのであった。翌日からは鍛錬の日々が待っている。明るい天使の少女アマノエルの物語はこれから始まっていく。

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