物ガタリ
また冬
第1話
これは、僕の物語。
反省の物語なのかもしれない。この日のことをずっと忘れちゃいけない。そう誓ったあの日のこと・・・
「サヨナラ。」
頭の片隅に焼き付いた記憶。
何故、カタカナなのかもわからない。
この言葉を思い出すと、何かがボトリと落ちたような・・・
まるで、「ツバキ」の頭がもげた時のような喪失感が襲って来る。
ーーー
ーピピッ ピピッ・・・ー
規則性の塊のような音が耳をつんざいた。
「あぁ、夢・・・か。」
「どうしたの?またあの夢でも見たの?」
無言で頷くと彼女は寂しげに笑う。
彼女はーー『サユリ』ーーそう、『サユリ』だ。
『ツバキ』じゃない。心の中で何度も反復した。
「なぁ、サユリ。何でお前ウチに居るんだっけ?」
「まーだ寝ぼけてんの?一昨日の夕方から、ずーーーっと一緒にいるじゃん。」
「一昨日から・・・ねぇ・・・」
この時僕は頭の中で他のことを考えていた。やけに『ずっと』という言葉が引っかかっていた。それを口に出したらまずいような気がして、一昨日を口にしたのだった。
「まぁ、実際は昨日からなんだけどね♡」
「う、うん。」
取り敢えず話を合わせ続けてみることにした。
「でさ、今日遊びにいく約束したじゃん。」
「そう、だったっけ?」
「もー、忘れやすいんだからぁー。」
何かがおかしい。
それはこのころから気づいていた。この頃に僕は目を覚ませばよかったんだ。まるでもう1つの世界に来てしまったような感覚。この異変の原因も僕は実は知っているのかもしれない。
「ほらっ、寝てばっかじゃ意味ないよ!!」
「お、おう。」
流されるままに支度をして、
気づいたら電車の中だった。だいぶ意識がはっきりして来ると昨日のことを思い出した・・・ような気がした。
電車に揺られ髪がなびく彼女。ゆっくりと僕に微笑みかける。
「なんかさ、元気ないよね。」
「んー?そうかな・・・?」
どうしても何かがおかしい。この疑問を彼女にぶつけたい・・・
「なあ、『サユリ』ッ・・・!!」
周りの人たちは誰もいないのに、彼女は人差し指を顔の前でたてた。
「次はぁ、降り峠、降り峠ェー」
聞き飽きたアナウンスが響き渡る。彼女が僕の手を引いた。
「行こ!!」
脳内に黄色い声が響き渡る。ドアが開くと人工的な眩しい光が目に差し込む。
まだ、寝ぼけてただけなんだろうか。
そう自分に納得させて、僕は歩みを進めた。
ーーー
「楽しみだね〜。」
結局僕は彼女と共に動物園の列に並んでいた。今まで来たことのない動物園だ。だけど、どこか懐かしさを感じる。
「サユリ、何の動物が見たいの?」
「んー、ペリカンかな?いや、フラミンゴかも!!」
『鳥が好きなら、花鳥園に行けばいいのに』という心のツッコミを飲み込む。彼女に反論しちゃダメなんだという拘束感が僕を締め付ける。だって、いったところでいつもの笑顔で彼女は聞こえないふりをするのだろう。
「そっか、じゃあ行こうか!!」
いつもの自分を装うことにした。装ってる時点でそれは「いつも」じゃない。そんなことは知ってるけど深く考えたらダメな気がする。
「(お前はさ、もう戻れないんだって。)」
どこからともない声が頭の中に沈み込んでくる。
「やめろぉっ!!!!やめてくれ!!!」
後ろを振り返る。
アレ、
ツバキガイナイ
ツバキツバキツバキツバキツバキ・・・
「違う!!アレはサユリだ!!」
ネエ、ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ・・・
僕は思わず目の前にあるものに飛びかかっていた。
ーグチャリー
生温い音と感覚が手先に伝わる
ートクンー
目の前のモノがピクリと震えた。
ートクントクントクン・・・ー
目の前のモノは赤黒い塊となって目の前に現れる。
「サ、ユ、リ・・・」
もう全てが壊れてしまったこの日。
視界がだんだんと暗くなっていく。
僕の物語は、
終わった。
ーーー
ピピッー
無機質な音が部屋中を支配していた。腕の周りを見ると身体中は管で繋がれていた。
「やっと目を覚まされましたか。脈は、安定してますね。」
「何なんですか、ここは?」
「集中治療室ですよ。と、言いましてもあなたはここで4ヶ月植物状態でしたが・・・」
「僕はどうして、ここに・・・」
「良いんですか?言っても?」
「ええ」
覚悟はできていた。僕は彼女を失い錯乱状態になってここに至った。どうせ、そんなことだろうと思っていた。
「早く言ってください!」
「あなたは、彼女を失いました。名前は『ツバキ』。一年半以上も付き合ってたそうですよ。あなたのお母さんに確認するとね。彼女は首を吊って死にました。あなたはボトリと落ちた頭を抱き抱えて泣きじゃくっていたそうです。これは、警察の話ですが・・・」
そう、ここまでは分かるんだ。
「その後、あなたはおかしな言動を見せるようになった。誰もいないところに話しかけひとりでに笑っていた。その時、『サユリ』という言葉を口にしていたんじゃないですか?」
「なぜ、その名を?」
「ずっと言ってましたよ。倒れてからもずっと・・・」
医者は悲しげに微笑んだ。
「あなたにとっては、夢の世界だったのでしょう。しかしあなたは現実世界でその後人を殺した。確かその人の名前は『ツバキ』だったんです。」
心臓がピクリと動いた。
「じゃあ、僕が今見ていた夢は!!」
「何回も言ってるじゃないですか。あなたは植物状態だった。その間に夢なんて見れたら困るでしょ。そういうことなんです。ほら。」
腕を指さされた。
ーカチャリー
ベットに結びつけられた金属は、僕の手に繋がっていた。
物ガタリ また冬 @tsubakisaki
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