第45話
目を覚ました咲が、よろよろと近くのスマホへと手を伸ばした。その画面をつけると、眩しい明かりが咲の目に飛び込んだ。
時計を見て、一時間ほど眠ったのを理解してから、ベッドから体を起こす。
「……そういえば、真由美と島崎さんが来ていましたね」
軽く伸びをし、体の調子を確かめていると、リビングから声が聞こえた。
真由美と治の話し声だ。それに混ざりたい気持ち、僅かな嫉妬心も手伝い、咲はすぐにリビングへと向かった。
「あれ、咲っち? もう大丈夫なの?」
リビングにでたところで、真由美が笑みとともに振り返った。それに合わせ、治の顔も向いた。二人に対して、咲はぺこりと頭を下げた。
「はい、お二人のおかげでだいぶ体が軽くなりましたね」
「みたいだね、顔色も悪くなさそうだし」
「そうですかね?」
咲は近くの鏡に顔を向けた。
そして、驚く。髪に好き勝手に寝ぐせがついていたからだ。
「わ、私こんなに寝ぐせが!?」
「そうだよ? 直してくる? っていっても、今更だけどね!」
「わ、わかっていたのなら言ってください!」
治に今の姿を見られていたと思うと恥ずかしく、すぐさま洗面所へと向かった。
寝ぐせと服装を整えてから、もう一度リビングへと戻り、真由美の隣に腰掛けた。
「……そういえば、ゴミ袋片付いていましたけど、真由美がやってくれたのですか?」
「そうだね。どうせ明日は週一のお掃除日だったし――」
真由美があっけらかんと言った言葉に、治が首を傾げ、咲はすぐさま首を横に振った。
「そ、それは内緒にしておいてください! 私が掃除できないみたいですから!」
「もう、それについては島崎くんにもばっちり説明済みだから!」
「なぬ!?」
「それに、ゴミ出しは島崎くんにも手伝ってもらったしね!」
ろくでもないことを平気で言う真由美を、咲は唸りながら睨みつける。
治をちらと見ると、彼は苦笑していた。
「そ、その……そ、掃除はすこしだけ苦手でして」
「いや、俺も掃除はできないから……まあ、一緒、だな?」
「わ、私は別にできないわけではないですよ? た、多少は心得がありますから!」
掃除ができない女と思われたくなかった咲が、必死にそういう。今さら無駄かもしれないが、咲は見栄を張った。
真由美がにこーっと笑みを浮かべた。
「それなら今度島崎くんの家に掃除に行ってあげて、その心得とやらを見せてあげたらどうかな?」
「そ、それは……っ!」
真由美の攻撃に、咲は唇をぎゅっと噛んだ。部屋にあがることはもちろん恥ずかしいし、何よりそこまで掃除の心得ももっていなかった。
「えー、できないの? 島崎くんも来てくれたら嬉しいよね?」
「お、俺の家に来るだと?」
治がびくっと驚いたような顔で真由美を見た。にこにこ、と真由美は笑顔を絶やさなかった。
「そうだよ。咲っちが島崎くんの家に行ったことはないみたいだから、今のままだとずるいでしょ?」
「ずるい、とかはよく分からないが……さすがに俺の部屋は汚いからな……。自分でどうにか頑張るよ」
「えー、そうなの?」
真由美がからかうような目つきで、治を見ていた。
真由美のターゲットに、治までもロックオンされてしまったようだった。真由美のそんな態度に咲は小さくため息をついた。
「……とにかくです。私は別に掃除ができないわけではありませんからね」
そうぴしゃりと言い放つと、それから真由美は別の問いを口にした。
「そういえば、島崎くんの仕事、小説家だったんだね」
「え……? し、島崎さん、話したのですか?」
驚いた咲が治を見る。
「ああ、聞かれたんでな」
治はきょとんとしていたが、咲は表現しがたい胸のざわつきを覚えていた。咲と治の間にあった、二人きりの秘密だったからだ。
なんとも言えない気分でいた咲の顔を、真由美がじっと覗きこんできた。
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