第46話
「あれ、咲っちもしかして……」
「な、なんですか?」
「嫉妬しているの? 自分だけが知っていたと思ったから?」
「ち、違います!」
ふん、と顔をそっぽに向ける。
真由美の指摘は当たっていた。咲は治の唯一の理解者であるつもりだったからだ。
その部分を真由美に占領されてしまった、という感覚があった。
指摘され、当てられたことが恥ずかしく、むずがゆい。
どうしてそのような感情を抱いたのか、そこまでを指摘されたくなく、咲はだんまりを決め込んだ。
「まあ、それについてはいいんだけどね。さっきまで島崎くんと話していたんだけど、今日どうしようかって」
「今日、どうするとは?」
話がかわり、咲は首を傾げると、真由美が微笑を浮かべる。
「いや、私はぜひとも島崎くんに泊って行ってもらったらどうかな、と思ってたんだけど」
「私の家に島崎さんを!? どうしてそんな話に!?」
「ほら、何かあったとき島崎くんが助けてくれるでしょ?」
「べ、別にそれは島崎さんじゃなくてもいいじゃないですか! 第一、早いです!」
「え、早い?」
真由美が言葉を拾い上げる。思わず口をついて出てしまった言葉に、咲は急いで首を横に振った。
「異性を家に泊めるなど、高校生では早いんです!」
「えー、別に早くないと思うけど?」
にやり顔で首を傾げる真由美に、咲は駄々っ子のように首を横に振り続けた。
治は苦笑し、窓の外へと視線を向けた。それにつられてみると、窓からは夕陽が差し込んでいた。
「そういうわけだから、森島。……俺はそろそろ帰るよ。あとは任せた」
結局、治には朝から夕方まで、一日家にいてもらった。
真由美は腕を組み、それから笑う。
「うーん、残念だけど仕方ないっか。それじゃあね」
「ああ……飛野も、休日に押し掛けるように来て悪かった」
ぺこりと頭を下げた治に、咲はすぐさま否定した。
「いえ……そんなことはありませんよ。とても助かりました。ありがとうございます」
「……それならよかった。それじゃあな」
「はい、また今度」
「ああ、また風邪が治ったらな」
治を玄関まで見送った。ぱたん、と扉が閉まり、僅かな寂しさに襲われる。
それでも咲は別れに納得したところで、真由美に見られていることに気付いた。
「……なんですか?」
「ううん、なんでもないよ? 凄い寂しそうだなーとか思ってないよ?」
「……別に。そんなことはありませんからね。まだ、騒がしい人が一人残っていますから」
ぶすっとそういってから、咲はちらと真由美を見た。
「なんだか、親しくなったようですね」
「あれ、嫉妬?」
「嫉妬ではありませんよ」
咲は真由美を一瞥してから、共にリビングへと戻った。
しかし、一向に真由美は「あること」を言わない。
咲と眠る前に話していた「あること」。それが気になっていた咲がちらちらと見ていたが、我慢できず、問いかけた。
「……それで、ど、どうでしたか?」
「どうって何が?」
「だ、だから……その、島崎さんは私のことを、どう考えているのかと……思いまして」
「あー、気になるんだ?」
「き、気にはなりますよ? ただ、別に異性としてではなくてですね。良好な友人関係を築き上げられているのかという部分でですね……っ」
「うーん、内緒」
「な、なんですと!?」
「だって、私も島崎くんの友達になったからね。色々と咲っちへと思うことはあるみたいだけど、それを暴露しちゃったらアレじゃん? まずいじゃん?」
「ま、まずいような内容なんですか……?」
「うーん、内緒っ」
「……くぅぅ、真由美に期待していた私が馬鹿でした!」
「あはは、期待していたんだ? でもまあ、今の調子で頑張ればいいんじゃないかな?」
「……そ、それで関係悪化したらどうするんですかぁ!」
咲は目尻に涙をためながら、必死に言い続けた。
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