第42話



「服は自分で脱げそう?」

「……たぶん、大丈夫です」

「それじゃあ、脱いでね。とりあえず汗くらいは拭きとらないと悪化しちゃうからね」

「……わかっています」


 するするとパジャマを脱いでいく。パジャマは汗でべったりと張り付いていた。この汗には風邪だけではなく、羞恥や焦りによるものも混ざっていた。


「わー、すっごい汗かいているね? 大丈夫?」

「それは真由美が散々からかってくるのが原因です」

「いやいや、別に。私は普通に話しているだけだからね? ていうか、そんなボタン外しまくって島崎くんの前に出てたんだね?」

「うひゃ!? そ、そういえば……そうでした……うぅ」


 指摘されるまで、そんなことに意識は回らなかった。

 真由美がげらげらと笑うと、咲の目がきっと鋭くなる。

 しかし、真由美からすれば、そんな睨みつける攻撃は大した効果はなかった。


「そんなに心許しているんだね? それとも、ただ抜けているだけかな?」

「……心、許しているんです」


 真由美に究極の二択を迫られ、咲は前者を選択した。

 服を脱ぎ終えた咲はすっと真由美に体を向けた。下着姿になった彼女の汗を真由美は丁寧にふき取っていく。


「……ひゃっ!? つ、冷たいですよ!?」

「大丈夫だって、人並み程度はあるからね」


 真由美が丁寧に汗をぬぐっていく。咲は必死に声を押し殺していく。


「咲っち、風邪ひいたのっていつぶりなの?」

「……そうですね。確か去年も一度風邪自体はひきましたね。……まあ、微熱程度でしたので気にはしていませんでしたが」

「そうなんだね。それにしても、島崎くんは紳士だね?」

「……そう、ですね。優しい方だと思いますよ。でも、急にどうしたんですか?」


 真由美の突然の質問に、咲が首をかしげる。と、咲は真由美に抱き着かれた。


「い、いきなり何するんですか!」

「だ、だって! こんな弱り切った咲っち可愛すぎて襲いたくなるもん!」

「そ、それは真由美だけじゃないですか!」

「いやいや、世の男の大半はきっと同じ心境だよ! なのに、咲っち何もされてないんだよね? だから、紳士だってことだよ!」

「な、ななななにもされていないとは、何ですか!?」

「さあ、何かな? なんだと思う?」

「そ、それは、え、えっちなことですか……って何をいわせるんですか!」

「あはは、別にそこまではいってないのに、咲っちはえっちだなー。あっ、だから咲っちって言うんだね!」

「いや、それは真由美が勝手にそう呼んでるだけです!」


 好き勝手なことを言う真由美に咲は全力で声をあげてから、腕を組む。


「ていうか……風邪をひいているというのに襲うってどんな外道ですか!」

「そういう可能性もあるって話。……もしかして島崎くん、咲っちに興味ないとか?」

「……」


 『興味がない』。

 それまでの明るい感情が一瞬で吹き飛ぶ程度には、その言葉の破壊力はすさまじかった。

 

「私……魅力ないのでしょうか?」

「いやいや、ばりばりあるよ! もしも、咲っちに興味がない男性がいたら、きっとその人は特殊性癖なんだよ!」

「……島崎さんが、その可能性ということは?」

「そ、そのときは……望みの姿になるしかないね!」

「現実的には無理なものも多いのではありませんかぁ!? 私にロリっ子とかは無理です!」


 咲は涙ぐんで声を荒らげる。


「冗談だって! そういえば、昨日のデートについて結局詳しく聞けなかったけど、どうだったの?」

「で、デートとは言わないでください。た、ただ出かけただけですからっ」

「そこはきっちりと否定するんだね? それでどこまでしたの? ちゅーくらいしちゃった?」

「そ、そんなわけないでしょう!」


 興味津々の真由美を、じっと睨む。相変わらず、真由美の発想は吹っ飛んでいる。


「それじゃあ、何したの?」

「……ふふん、聞いて驚かないでくださいね?」

「うんうん」


 咲はにやり、と口元を緩め、


「て、手を……繋ぐくらいは……しちゃいました!」

「……あっ、そうなんだ」


 真由美はとたんに、興味なさそうな顔になった。

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