第41話
真由美は咲を部屋まで押しやってから、にやりと口元を緩める。
その獲物を狩るような目つきに咲がびくり、と肩をあげた。
「真由美、わざわざお見舞いありがとうございます」
真由美に自由な発言を許せばやられる。そう考えた咲が先制攻撃を放った。
「それはいいんだ。だけど、なんで島崎くんいたのかな?」
先制攻撃はあっさりとはじき返される。
「……べ、別にその、呼んだわけではないんですよ!? それは、本当ですから!」
「じゃあ、なんでいるの?」
「……島崎さんがどうやら私の体調不良を察知してきてくれたんですよ。ちょっとメッセージ送っただけですのに……」
咲がそういってスマホの画面を真由美に見せた。
そこを覗きこんだ真由美がくすくすと笑った。
「なるほどね。でも、こんな風にメッセージ来たら、察しの良い人ならわかるんじゃないかな?」
「……うぅ、そうですかね?」
「だって、咲っちが逆の立場だったら、ちょっと疑うでしょ? そこから行動するかどうかは、相手次第だと思うけどね」
咲は真由美の言葉が気になって、すぐに顔をあげた。
「相手次第、とは?」
「つまり、そこそこに島崎くんは咲っちのことを気にかけていたってこと。じゃないと、来ないでしょ普通?」
「……っ」
咲はそれを聞いて、耳まで焼けるように熱くなった。期待が、過剰なまでに膨れ上がっていく。嬉しさがぶわりと沸き上がり、咲は自然と口元が緩んでいく。
それから真由美は咲の着替えとタオルをカゴから探していく。洗濯籠にまとめられているため、どれも皺だらけだ。
「もう、ちゃんと片づけしてね」
「……別にそこにあるのは部屋着だけですし」
「だからって、島崎くんには見せることだって増えるかもだよ?」
「……気を付けます」
「うん、気を付けてね」
と、そんな話をしていると、部屋の扉がノックされた。
「大丈夫だよー、入って」
扉が開き、治がプラスチック製の桶とともに現れた。
「お湯の準備できたんだが……」
「ありがとね、そのテーブルに置いてもらっていいかな?」
「分かった」
真由美が言ったとおりに治は桶を置いた。真由美はすぐにタオルを取り出し、その桶に軽くつけた。
「それじゃあ、俺はそろそろ帰るよ」
「……すみません、島崎さん。色々と助けてもらって」
もっと早く帰していれば、二人の邂逅もなかっただろう。咲がひそかに反省していると、真由美が口を挟む。
「あれ、何か用事あったのかな?」
「いや、別にそういうわけじゃないが……友達同士二人きりのほうがいいと思ってな」
「大丈夫だよ! それに、私も色々とお話ししたかったしね! それに、まだまだ男手も必要かもしれないしね」
真由美がそういうと、治は考えるようなそぶりを見せた後、小さく頷いた。
「……わかった、それじゃあリビングにいるから何かあったら呼んでくれ」
「りょーかーい! すぐ終わらせて向かいます!」
真由美はびしっと敬礼をする。
真由美が何かを企んでいるのは明白で、咲はじっとそんな彼女を睨んだ。
「……何を企んでいるのですか? 島崎さんに変なことをしたら、怒りますからね」
「別に変なことはしないよ? ただ、咲っちのことをどう思っているのかとか聞きたいだけだからね」
「へ、変なことしようとしているじゃないですか! そ、それで変なこと言われたらどうするんですか……っ」
「その時は私の胸に秘めておきましょう!」
「それって、私に何も言ってくれなかったら評価最悪ってことじゃないですか!!」
咲が頭をかきむしって声をあげる。
真由美はそんな咲を無視して、タオルの準備をしていく。
じーっと彼女を見ながら、咲はパジャマのボタンに手をかけていった。
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