第14話



 放課後になり、咲と真由美は並んで廊下を歩いていた。


「……今日も飛野さんは凛々しく美しいなぁ」

「……本当にな。そういえば聞いたか? この前行われた小テストも相変わらず満点だったみたいだぞ?」

「さすがだよな……、そういえば飛野さん、体育でも大活躍だったみたいだぞ?」

「文武両道で、あの容姿かぁ……さすがだよなぁ」


 廊下を歩けば、そんな声が耳に届く。

 ちらと咲が真由美を見ると、彼女は笑いをくすくすとこらえていた。


「何を笑っているんですか」

「い、いやだって……普段の咲っちを知っているとギャップが、凄くて……ぷっ」

「ぷっじゃありませんよ。ギャップなんてありません」

「いやいや。だって小テストはともかく、体育の時は結構情けなかったじゃない?」

「い、言わないでくれますか」


 咲は隠すように人差し指をさっと握った。

 そこには湿布が貼られていた。体育のバレーで華麗にスパイクを決め、周りに称賛される中、咲は突き指をしていたのだ。


「それに、未だにメッセージも送れてないみたいだしね」

「い、今は推敲中なんです。は、初めてのメールで無礼がないようにですね……っ」


 もっともな言い訳とともにまくしたてるが、真由美はそれを両断する。


「いやいや、そんな友達とのメッセージで。なんなら、わざと間違えて指摘してもらってそこから会話を広げることだってできるんだからいいじゃん。メッセージに突っ込みどころを残しておかないと相手も返信しづらいでしょ?」

「……それは失礼にあたりますよーだ」


 咲はぶすっと言ってから、生徒用玄関で靴を履き替えた。

 それから並んでマンションへと向かう。


「それじゃあ今日は咲っちの家の大掃除をしないとね」

「とてもありがたいのですが……べ、別にそんなに汚れてはいませんよ?」

「そうなの? でも、ほら、今後彼氏を連れ込むことだってあるかもしれないんだから、女の子としては部屋くらい綺麗にしておかないとドン引きされちゃうかもしれないしね。やっぱり、最低限そのくらいできないとって思っている男子は多いからね!」

「…………」


 真由美の言葉に咲は頬を引きつらせていた。その反応に真由美が首を傾げた。


「どうしたの? もしかして、部屋に連れ込むことはないとかそういう話?」

「い、いえ……その……もう、手遅れ、です」

「……へ? で、出会ったその日に連れ込んだの!?」

「言い方に語弊があります! つ、連れ込んだというわけではありません! 家に戻ればお金があるから、返そうと思っただけです。……そして、中々財布が見つからず、島崎さんに部屋で待っていただいただけです」


 実はカバンの中にあったという部分は黙っておいたが、すでに真由美はドン引きしていた。


「う、うわぁ……あのゴミ屋敷に連れ込むなんて変なところは勇気あるんだね」

「べ、別にそういう意味ではなくてですね……っ! だから、すでに……私が多少、多少ですよ? 掃除を少しだけ、苦手としていることは知られていますね」

「……あー、うん。まあ、そのこれから頑張っていこうぜ!」


 真由美がとんと肩を叩き微笑んだ。


「……別に何かあるわけでもないですから、気にはしていませんよ」

「そうはいうけど、なんだかちょっと元気ないね?」

「別に、そういうわけではありません。叫びすぎて疲れてしまっただけです」


 マンションにつき、真由美とともに部屋へと入る。

 入ってすぐに真由美が苦笑し、掃除を開始する。咲もその補助を行っていく。

 しばらくして、部屋が綺麗になったところで、真由美が額をぬぐった。


「よし、掃除終わり! それじゃあ、次はメッセージだね!」

「メッセージ?」

「うん、いい加減送らないと。その島崎くんって別の高校の人なんだよね? 会うのなら休日くらいしかないんだし、今のうちに予定とか聞いておかないと!」

「あ、会う!? べ、別にそういうつもりはまったくなくてですね……っ!」


 真由美の突拍子もない発言に声を荒らげて返す。


「でも、自分から連絡先交換するくらいには気になったんだよね?」

「……そ、それは、その……たまたま、ちょっとお話をしたいと思っただけでして」

「咲っちはもう素直じゃないんだから」

「……素直な方ですよ私は」

「素直じゃないよー。まあ、そこが可愛いんだけど、ほら、早くメッセージ送ってみてよ。別に挨拶しておくくらいでもいいんじゃないの?」

「……わかりました」


 咲はソファに腰掛けてから、スマホを取り出した。

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