第12話

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「別にいいですけど……いきおいよく開けないでください。扉が痛みます」

「痛むのは咲っちの膝じゃない?」

「わ、分かっているのならやめてくださいよ! ……まったく、今日も無駄に元気ですね」

「当たり前じゃん! 月曜日くらいは元気にしていかないとね!」


 ぐっと親指を立てた真由美に苦笑を返しながら咲が廊下を歩いていると、真由美が首を傾げた。


「あれ、咲っち? なんだかご機嫌いい?」

「え? どうしてですか?」


 特に思い当たる節はなく、きょとんと首を傾げた。


「いや、だって咲っちが生徒会室にいるときってだいたいいつも疲れているからね。今日は違う感じだから」

「……そんなことありませんよ」


 真由美の言う通り、一人になりたいときに生徒会室に足を運ぶ。

 しかし、今日は自由に本を楽しみたいという理由からだった。

 本をこっそりとカバンにしまいながら、咲は真由美を見た。真由美は、そんな咲の顔を覗きこんだ。


「な、なんですか?」

「咲っち、さてはこの土日で何かいいことあったね?」

「い、いいことって……別に何もありませんよ。普通です、普通」


 咲の脳裏に、治の笑顔が浮かび慌ててそれを追い払うように首を振る。

 そっぽを向いたが、真由美がつんつんと頬をつついてきた。


「絶対何かあったね? ……何か好きなものを食べたとか」

「ひ、人を食いしん坊みたいに言わないでください……っ」

「食いしん坊じゃん」

「じゃ、ないです!」」


 確かに日曜日には前から行きたかった食べ放題の店に足を運んでいた。

 脳裏に浮かんだその時の光景を、咲は必死に追い出していた。


「あるいは、何か気に入ったものを手に入れた、とか……」

「別に、そういうこともありませんよ」


 それに対しても咲は図星だった。土曜日、治と別れてからは彼の小説を食い入るように読んでいたからだ。

 書店で発売されている現在二巻までの小説も、両方とも購入し、WEB版との違いを楽しむ程度にはファンになっていたからだ。


「……あるいは……男?」

「違います! そういうのではありません! 断じて!」


 ちょうど、治の姿を思い浮かべてしまっていた咲がこれまで以上の否定をした。

 その反応に、真由美のほうが驚いていた。しまった、と咲は唇をぎゅっと結び逃げるように視線をそらした。


 それらの態度で、真由美は確信したようだった。


「……ほ、本当に男なの!? や、やっと彼氏できたの!? 彼氏いない歴=年齢だった咲っちに!?」

 

 目を輝かせ、咲に絡む真由美。咲はそんな真由美をじっと睨んだ。


「ちょ、ちょっと! 大きな声で恥ずかしいこと言わないでくれますか……っ。そもそも、彼氏、とかではありませんから……!」

「でも、誰か気になる男性と出会ったってことだよね?」


 咲は治との土曜日を思い出していた。あれほど話しやすい男性と出会ったの初めてだった。聞き上手であり、話し上手であるとその時には思ったものだ。

 しかし咲は、そんな思いを認めるのは恥ずかしく、そっぽを向いて否定する。


「……き、気になるとかでもありません。助けて、頂いただけですから……」

「助けて? あー、もしかしてあれ? ナンパされているところを助けてもらったとか? 乙女なところあるねぇ!」


 ぐいぐい、と真由美が肘で咲をつついた。咲はそうからかわれたのが恥ずかしく、むっと真由美を睨んだ。


「そ、そういうのとは違います。……お金が払えないところを代わりに払っていただいたんです」


 咲は金曜日に起こった事件について黙秘したかったが、変に誤解されたくもなく正直に話をした。

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