第14話 火王国の首都へ
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですわこれくらい」
大量の荷物を背負い額に脂汗を掻いたリラザイアさんがぎこちのない笑みを浮かべる。
「放っておきないよ。と、言いたいところだけど、確かに荷物増えたわね」
初めは全員合わせて装備と大きなバックパックが三つだけだったのに、いつの間にか荷物量が三倍近くまで膨れ上がってしまった。
「皆さんとても感謝してくださいましたからね。断るに断れませんでした」
「うん。リラザイアさんとリリラさんがいなければ大変なことになってたかも」
「オホホホ! ようやく私の凄さが分かりましたの? そうです、私は凄い奴なのですわ! 使える奴なのですわ! オホホホ」
壊れたように笑うリラザイアさんだが、実際二人がいなければ俺達三人であの荷物を運ぶはめになっていたので、非常に助かっている。
(やっぱりダンジョンの危険性はどんな小さな村にも伝わってるんだな)
依頼を受けてダンジョンを一つ潰す度に依頼料の他に感謝の気持ちと言う名の謝礼を受け取ってきたが、関わったのは俺達のような駆け出しをありがたがるお世辞にも豊かとは言えぬ村だ。財布よりもお腹に貯まる物を頂く度に、倍々的に荷物が増えてしまった。
「とにかく疲れたら言ってくださいね。重かったら荷物ももっと持ちますよ」
「お構い無く。それにアロス様方は戦闘も担当されるのですから、出来るだけ身軽な状態でいた方がよろしいかと思いますわ」
「そう思うならアンタは戦闘中前に出てこようとするのを止めなさいよね」
「オホホホ! 私、何事も自分の有能さを証明しないと気がすまないたちですので」
「奴隷になっても懲りない奴ね」
呆れたような物言いだが、ティナの表情は明るい。ダダンダさんの村を出てから首都を目指す道すがら、三つのダンジョンを問題なく潰せたことで機嫌が良いのだろう。
「でも実際リラザイアさんは非常に優秀な方だと思いますよ。なんなら一生私の奴隷をやってみませんか?」
「サーラ、その発言怖いから。ほら、リラザイアさんも返答に困ってる」
「オ、オホホホ! こうなった以上誠心誠意お仕えしますが、一生奴隷は困りますわ。というか、止めてくださいまし~」
「な、泣かないでくださいよ。村を出るときも言いましたが、奴隷契約はこの旅が終わるまででいいですから」
直ぐにでも解放してあげたい気持ちもあるにはあるが、旅に慣れたリラザイアさんがサポートしてくれるこの状況は心強く、ティナとサーラと話し合った結果、旅の間は身の回りの世話をお願いすることになった。
(それにリリラさんが付いて来てくれるから、多少目を離しても大丈夫なのが大きいよね)
黒髪ショートカットの
(それとなくダダンダさんに聞いてみたけど正体は分からなかったな。まぁシュウ商会みたいな大きな商会に専用の腕利きボディーガードがいても不思議はないけど……)
それにしてはちょっと強すぎる気がする。
「何か?」
「え? あ、その、ゴメンなさい。綺麗だなと思って」
ジロジロ見過ぎたせいで変な奴だと思われたようだ。
「コホン、コホン。あ~喉の調子が悪いわね」
「そうですね。コホン、コホン。私もちょっと」
「え? 大丈夫なの?」
鍛えられたティナや強い魔力を持つサーラが二人同時に体調を崩すなんて只事ではない。
「人造精霊を出すからそれで街まで急ごう」
「いや、咳はわざとだから平気よ。コホン、コホン」
「ええ、すみません。わざとなんです。コホン、コホン」
「あっ、そうなんだ。………………え? いや、意味分かんないんだけど」
「「コホン、コホン」」
ジッと俺を見つめる二人。
(これは……察しなさいよ的な感じなのかな? でも、咳? ということは風? つまり……ティナとサーラは心配されたがってる?)
「あ~……二人とも、その、頭は……じゃなかった。体は大丈夫?」
「「コホン、コホン」
「あ、違うのね。えーと、それじゃあ……」
二人が突然始めたゲームの正解が分からずに首を捻ってると、リラザイアさんが近付いてきた。
「アロス様、恐らくお二人は容姿を褒めて欲しいのですわ」
「ええっ!? そんなまさか……」
とは思ったものの、サーラには俺が好きなんじゃないか疑惑が浮上しているし、ものは試しだ。
「二人とも凄い綺麗だね」
「「うーん」」
「あれ? やっぱり違った?」
「言葉に工夫が足りないわね。40点」
「私は簡潔な言葉って好きですよ。でも自分で気付いて欲しかったので50点です」
「二人の理不尽さなら100点なんだけど」
なんて感じに話してると遠くに街が見えた。
「聖王国を出てから一番大きな街ね。あれが……」
「火王国の首都『火街』ですね」
「リラザイアさんは火街には行ったことがあるんですか?」
「勿論、何度もありますわ。ですので案内ならお任せあれですわ」
「流石です。お嬢様」
そんなこんなで俺達は人生初となる他国の首都へと到着したんだ。
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