第15話 ギルドへ

「さぁ、さっそくギルドで傭兵登録よ」


 火街に入るなりティナが高らかに宣言した。


「着いたばかりなんだし、そんなに急がなくても一日くらい休んだら?」

「何? アンタ疲れてんの?」

「いや、俺は大丈夫だけど」


 ティナと一緒にサーラを見る。


「私も平気です」


 三人でリラザイアさんを見る。


「私も、ハァハァ……ぜんぜん……ゼェゼェ……へ、平気ですわ」

「タイム! 二人とも集合」

「フレンズ来たよ」

「フレンズ集合しました」

「……アンタらって意外としつこいわよね」


 ジトッとした視線を向けてくるティナに、俺とサーラは苦笑を返した。


「まぁ、いいわ。それよりもアレ、どう思う?」


 アレとは当然大きな荷物を持ってゼェゼェ言ってるリラザイアさんのことだ。


「無理させたら可哀想だよ。ギルドは逃げないんだし、取り敢えず宿を取らない?」

「そうですね。リラザイアさんのお陰で街にもすんなり入れましたし。急ぐ必要は何もないかと」


 魔族の侵入を警戒して大きな街に入るときには通行許可証が必要な場合がある。一応俺達は聖王国の身分を証明できるので、リラザイアさんがいなくても街に入ることは出来たけど、それに要する時間はきっと今の倍はかかっただろう。


「仕方ないわね。それじゃギルドに行くのは後回しにしてーー」

「あの、よろしいですか?」

「ぬわぁ!? び、びっくりした。アンタいつからそこに?」


 いつの間にか隣に立っていたメイドさんにティナが飛び退く。


「私がお嬢様を宿にお連れします。ついでに皆様方のお部屋も取っておきますので、私達に構わずギルドへどうぞ。後、荷物もお預かりしますね」


 リリラさんは俺達から丁寧に、それでいて有無を言わさずに装備を除いた荷物を奪い取った。


「そ、それはいいんだけどさ、もっとちゃんと会話しない?」

「それでは失礼します」

「華麗なスルーですね」


 リラザイアさんを連れて去っていくメイドさんの後ろ姿をサーラが感心したように眺める。


「ま、まぁいいわ。それじゃあギルドにいきましょうか」

「ティナ、お願いだからギルドで問題起こさないでよ」

「だから何でアンタは私にばっかり言うのよ」

「ティナが幼馴染みだからさ」

「あの、アロスさん。それだと私が幼馴染みではないことになってしまうのですが」

「え? いや、そういうつもりで言ったわけでは……」

「てかさ、野盗の仲間になりに行くわけではあるまいし、普通にしてれば問題なんて起こるわけないでしょうが」

「それは……まぁそうだよね」


 ギルドは戦闘を生業とする人達が集まると言うだけで、別に無法者の集まりではないんだ。


(心配しすぎだよね)


 幼馴染みとの初めての旅で神経質になっているのかもしれない。……などと考えてたらギルドに到着した。


「うわっ、大きいな。貴族のお屋敷みたいだね」

「ギルドに登録してる傭兵と職員は宿泊施設としても使えるって話よ」

「そう言えばギルドに登録した傭兵をハンターって呼んだりするんだよね」

「何でハンターなのかしら」

「それはあれですよ。きっと魔族やダンジョンを探して潰すところが、狩人にそっくりだからです」

「なるほど。確かに似てるよね」


 ティナが掌でパンっと音を出した。


「よし。それじゃあ行くわよ」

「はいはい」

「何かいい武器でも販売してるといいのですが」


 ギルドという屋敷の前にいた門番さんに用件を話して中に入れてもらう。無駄に広い庭では多くの人が己の技量を磨いていた。


「なんか、思ってたよりも大したことなさそうね」


 訓練場として開放されているらしい庭園を眺めながらティナがポツリと呟いた。


「ティナ、そういうことは人前で言っちゃだめだよ」

「……アンタは私のお母さんでも目指してるわけ?」

「それでは私がお父さんに立候補します」

「せんでいいわ! まったくアンタ達はーー」


「だからどこのどいつだと聞いている?」


 ティナが屋敷の扉を開いた途端、中から大声が響き渡った。


「何事?」

「さぁ、何かもめてるみたいだね」


 受付と思われるカウンターに何人もの人が詰め寄っている。


「登録は今度にしますか?」

「そうね……食堂も兼ねてるみたいだし、何か食べない? その間に問題が終わるかもしれないわよ」

「そんなことしなくてもあの端っこの方が開いてるよ」


 人が殺到しているのは主に横に長いカウンターの中心あたりで、端っこの受付は空いていた。


「よし。それじゃあもしかしたら今日は登録できないかもしれないけど、聞くだけ聞いときましょうか」


 そんな訳で受付へ。


「私達ギルドに登録したいんですけど、今大丈夫ですか?」


 ティナが他所行きの多少柔らかな笑みを浮かべれば、受付のギルド職員さんが接客のプロらしい微笑みを返してきた。


「ええ、大丈夫ですよ。ご登録ですね。身分書はお持ちですか? 出身が他国の場合はそれ以外に通行証明書の提出をお願いします」

「通行証明書って、私達持ってないんだけど」


 便利な顔パスのまさかの弊害。


「いつからこの国にお住まいで?」

「今日が初めてよ。中にはうちの奴隷の口利きで入ったの」

「随伴でしたか。……奴隷?」


 気のせいか、奴隷の一言で店中の視線が俺達へと集まり始めた気がする。


「ねぇ、サーラ。火王国では奴隷は合法なんだよね?」

「そのはず……なのですが」


 ギルド内の変化に俺とサーラは首を傾げる。


「その、よろしければ奴隷のお名前を伺っても?」

「リラザイアよ」


 ガタッ、ガタッ。とテーブルに腰掛けていた傭兵達が腰を上げ、ギルド職員に詰め寄っていた男達がこっちにきて俺達を取り囲んだ。


「嫌な予感的中だね」

「しかし何故こうなるのでしょうか?」

「不思議だよね」


 ティナは勿論俺もサーラも特にトラブルを生むようなことはしていない。


「何よ、何か私達に用でもあるわけ?」


 大勢の傭兵に取り囲まれてもティナは全く怯まない。


 その他大勢の中から初老に差し掛かった男が歩み出てきた。


「お前らか、リラザイアちゃんを奴隷にしたとかいうふざけた奴らは」

「「ああ、なるほど」」


 ようやく呑み込めた事態に俺とサーラは顔を見合わせると苦笑を交わし合った。

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