第13話 目的地
「「「かんぱーい!」」」
俺達はダダンダさんの実家で、果汁百パーセントのジュースが入ったグラスをぶつけ合った。
「ぷはぁー。生き返るわ!」
「ちょっとティナ、おじさんくさいよ?」
「煩いわね。しょぼいダンジョンだったとはいえ、人生初のダンジョン潰しよ? ここは細かいこと言いっこなしでしょ」
「ふふ。ダンジョン内でのティナ、凄い集中力でしたからね」
「それは確かに。一人で殆どの罠を見つけちゃうし、驚いたよ」
ティナの予想外の活躍によって剣聖様から貰った地図は出番がなかった。
「そうでしょう。そうでしょう。こちとら師匠にこの手のことはさんざん仕込まれてんのよ」
「流石は剣聖様だよね」
「あれ? アンタ私の師匠にあったことあったっけ?」
「家に何度かきたことがあるよ」
「ふーん。まぁ、アンタんとこは歴史だけならかなり長い家だもんね。聖号者がきても不思議はないか」
「アルバ家は聖王国の建国からある家ですからね。本当ならもっと強い影響力を持っていても不思議はないのですが」
「まぁ、家はあまりそういうのに興味ない人達ばっかりだから」
アルバ家は代々歴史の表と裏から聖王国を支えてきた。表の権力がそこそこなのはそちらの方が多くの人間と交流を持ちやすいからであって、
「いや、少しは興味もちなさいよ。権力ばかり追われても困るけど、それでもないよりはあった方がいいでしょうが」
「そうは言うけど、ティナたちの家が名門過ぎるだけで家も結構な名家だよ?」
「そうだけどさ、もっとほしいとは思わないの?」
「そんなにもってどうするのさ」
「どうするって、そりゃ、他の人の婚約者になった幼馴染みを、その、う、奪い返したり……とか?」
「それって……」
「い、いや違うのよ!? 別に私がアンタのモノとかそう言うんじゃなくて、その、あの、ほら、わ、分かるでしょ?」
「…………ティナ、やっぱり第三王子の婚約者になったの嫌だったの?」
だとしたらティナの為に父さんと母さんに直談判するのも考えなければ。
(父さんに頼めばなんとかなるかな? いや、魔将の首を持ち帰れば母さんだって……魔将か)
今日の動きを見るに二人は実戦でも問題なくパフォーマンスを発揮できるタイプのようだ。しかしーー
(母さん、魔将は難易度高すぎるよ)
俺が魔族における師匠達的な立場の強者を、ティナ達を連れた状態で倒せるか考えているとーー
「ふーん」
ティナが凄くなにか言いたそうな目で俺を見ていた。
「な、なに?」
「別に~。ただ私が他の男のモノになるかもしれないってのに、アンタが他人事みたいな顔してるからちょっとムカついただけ」
「え? ティナのことなんだから他人事ってことはあり得ないよ」
「……もういいわよ。色々言いたいことはあるけど、せっかくの祝賀会が台無しになるから今はやめとくわ。でも後で絶対この話はするから覚えておきなさいよ」
「りょ、了解」
俺としては別に今してもいい気がしたけど、妙に覚悟を決めたティナの顔を見て、余計なことを言うのを止めた。
「ティナ、抜け駆けですか? アロスさん、お話なら私もありますので私にも時間作ってくださいね」
「……分かったよ」
サーラは俺のことが好きなようだし、ひょっとしたら告白的な話になるかもしれない。
(サーラと恋人に……考えたことなかったけど、それはそれで悪くない気がするな)
俺は静かに微笑んでいるサーラの顔から少しばかり下にある豊かなものを眺めると、コップにミルクを注いだ。
「まさかこんなに早く解決するとはな。俺の目に狂いはなかったと言うわけだ」
テーブルに新たな料理が追加される。
「ダダンダさん。すみません給仕をやらせてしまって」
「先生らはこの村を救ってくれた英雄だぜ? そんなこと気にせず楽しんでくれや」
「英雄って、それはさすがに大袈裟でしょう」
剣聖様が最初に言ってた通りダンジョンは三階までしかないひどく浅いもので、分類はEで、D判定される要素は殆どなかった。そして危険度Eのダンジョンならば俺達でなくてもある程度の実戦経験を積んだ集団ならば簡単に潰せる。
「まぁ、それくらい感謝してるってことだ。ダンジョンは放っておくと国が滅ぶくらいやべぇ。かといって焦って突入すれば死体の山。結果的に今回のダンジョンはそれほどヤバイものじゃなかったようだが、それでもそこの馬鹿を一人で送り込まなくてよかったと安堵してるぜ」
ダダンダさんが苦虫を噛み殺したような顔で、テーブルの上に突っ伏しているリラザイアさんを見下ろした。
「あり得ませんわ。この私が、この私が、あ、あんな罠にぃいいい~」
リラザイアさんは特大のジョッキを満たすビールを一気に胃へと流し込んでいく。
ダンッ、と空のジャッキがテーブルを揺らした。
「うう。ちくしょう。ちくしょうですわ」
「あの、大丈夫ですか?」
「放っておいてやりなさいよ」
「いや、でも、流石に飲みすぎなんじゃ」
「………………平気ですわ」
テーブルに突っ伏した酔っぱらいがポツリと呟いた。
「まったくドジよね。ダンジョン主を見つけたからって、焦って突撃かましたあげく落とし穴に引っ掛かるなんて」
「…………返す言葉もありませんわ」
「ですがリリラさんはスゴかったですね。あのタイミングでリラザイアさんを助けるなんて」
「恐縮です」
「……ふふ。メイドにも劣る私って何? ああ、奴隷でしたわね。ふふ。この私が奴隷。ドジな奴隷。うふ、うふふふふ」
リラザイアさんは再び特大ジャッキを満たすビールをあおぐ。
「あの、その辺でお酒はやめた方が」
「ぷはぁー! ……なんですの? 奴隷にはお酒を飲む権利もありませんの? そうなんですの?」
間近に近付いた綺麗な顔にドキッとすると同時、メッチャ酒くさい息が頬に当たる。
「い、いえ。好きなだけ飲んじゃってください」
「当然ですわ。……ヒック、とうひぅんでずわ~~」
人目も憚らず泣き出すリラザイアさん。うん。触れないでおこう。
「それでティナ、今後の方針は?」
「そうね。あと何個かD判定までのダンジョンを潰してみましょう。それで問題なければCとBに挑む。そこで課題が見つからなければより上のダンジョンに挑みながら二つ名持ちの魔族情報を集める……って感じでどう?」
「うん。良いと思うよ」
「はい。私も異論ありません」
旅に出てからの新発見。ティナって実戦に関しては普段の性格からは想像もできないくらい慎重だ。
(きっと剣聖様にしごかれたんだろうな)
氷で出来た人形のように美しい剣士様に俺は心から感謝した。
「何だ、先生方は二つ名を持つ魔族を探してんのか?」
「探す予定よ。……何? 何か情報でも持ってるの?」
「そりゃ俺は商人だからな。だが名持ちの魔族はマジでヤベェのが多い。先生方は確かに強いが、だからこそ今は無理してほしくねぇな。……人類の為にもよ」
箸を置いたサーラはお茶の入ったコップに手を伸ばす。
「やはり旗色は悪いですか?」
「聖王国の出身でまだ若い先生方にはピンと来ない話かも知れないがな、商人の中には百年以内に人類が魔族に滅ぼされるんじゃないかって本気で心配してる奴が結構いる」
「ダダンダさんはどう考えているんですか?」
「大袈裟……とは言えねーな。だからここから西に向かうなら中王国までで止めとけ。これは忠告というよりも俺からのお願いだ」
聖王国が位置するのは大陸のかなり東。中王国があるのは大陸の大体真中辺りで、ここから向かうなら西に真っ直ぐ進んで大きな国を三つくらい通った先にあるはずだ。
「私達も無理をする気はないわ。ダンジョンについて情報は?」
「そうだな。最近この国でも魔族が暗躍し始めているってのは有名な話だ。だからか、ここに出来たようなダンジョンが火王国のあちらこちらに作られてるって話をよく聞く。経験を積むのが先生方の目的なら
サーラが空になった茶碗を置いた。
「出来たてのダンジョンが多いなら、私達にとっては丁度良いかもしれませんね」
俺達は顔を見合わせると頷きあった。
「決まり……ね」
そうして一先ずの目的地が決まったんだ。
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