第4話衝撃の初めて
「いいわけないでしょ。何なの? どうして私の可愛い弟君はたまにすっごいお馬鹿さんになっちゃうの?」
「…………………ごめんなさい」
聖王国を出発して二日、家の者に捕まって連れ戻されないよう最短の日程で聖王国と火王国との国境までやってきた俺達は、国境を超えるにあたって一番利用する人が少ない山越えを選んだ……んだけども、登山中、俺は追いかけてきたルル姉さんに捕まってしまった。
(二人にはトイレと言って抜けてきたけど、大丈夫かな?)
いくら親友と言えども二人は女の子だ。男として地面に正座をさせられている今の姿はあまり見られたくなかった。
(ティナは絶対指さして笑うだろうし、サーラはサーラで反応が読めないところがあるんだよな)
だから早く終わってくれと願うものの、ルル姉さんの怒りは中々収まってくれない。
「弟君? お姉ちゃんの話聞いてる?」
「は、はい。聞いてます」
「まさか普段何の為に私の弟って設定にしてるか忘れた訳じゃないわよね?」
「勿論です」
「じゃあ、どうして? どうしてこんなお馬鹿さんなことが出来ちゃうのかな?」
「…………面目次第もございません」
とにかく平身低頭で謝り続ける。今の姉さんはいつものセクシーなドレス姿じゃなくて、サーラと同じく魔術師のロープを纏った旅姿。よほど急いで追い付いてきたのか、いつも腰まで真っ直ぐに伸びた紅い髪は所々ボサボサで、魔力を帯びた紅い瞳は感情に合わせて明滅を繰り返していた。……うん。もしもここで何か言い返そうものなら絶対バーニングされちゃうね。
(まぁ言い返すもなにも、完全に俺が悪いんだけどさ)
「はぁ。とにかくちゃんと反省してよね? お姉ちゃん、すっごく心配したんだから」
「うん、ごめんなさい。…………それと旅についてなんだけど、あの、このまま続けるのって、だ、ダメかな?」
「…………それについては聖王様、聖王妃様、第一王子様、第二王子様よりありがたいお言葉を賜ってるわ」
「え!? み、皆から? い、いや当然か」
何せ勝手に国を飛び出そうとしてるんだ。皆が怒るのも無理はない話だろう。
ルル姉さんが封書から取り出した手紙を広げた。
「それじゃあ読むわよ」
「う、うん」
普段優しい皆からどんな厳しい言葉が飛び出すのだろうか?
(うう。メチャクチャ不安だ)
「えっと先ずは聖王様のお言葉ね。…………ワロタ」
「父さんがそこまで怒る……えっ? 今なんて?」
「ワロタ」
「……あ、うん。聞き間違いじゃないんだ」
「次は聖王妃様からのお言葉ね。『魔将の首を二つくらいお願い。首はどれでも構わないわよ』だそうよ」
「いや、そんなお使い感覚で言われても困るんだけど」
魔将と言えば魔族を統べる魔王の次に強いと言われている奴らで、単騎で軍隊とだってやりあえるという話だ。冒険初心者な俺達には荷が重い相手だろう。
「次は第一王子ね。『やぁ、アロス、元気かい? ティナちゃん達と旅に出たんだって? アロスがこんな無茶をするなんて二人の影響かな? とにかく兄さんは嬉しいよ。アロスは昔から真面目すぎるところがあったから、これを機に自分の人生を積極的に楽しめるようになってほしい。何、役目のことなら気にしないでいいよ。父さんは勿論私達は決して魔族などに負けはしないのだから。だからお前は気兼ねすることなく好きなことをしなさい。お前の永遠の味方より』
「アーラ兄さん」
ヤバイ、なんかちょっとウルッと来てしまった。
「それじゃあ最後の第二王子様ね。『よう、アロス。旅に出たんだって? やるじゃねぇか、それでこそ親父の血を引く男だ。くそ真面目なお前は何でも一人でやりたがるだろうが、もしも困ったことになったら遠慮なく言えよ。聖王国総出で助けにいってやるからよ。それと婚約者云々でお前も女に興味が出てくる年だろ。何人女を侍らせてもいいが嫌がる女を無理矢理ってのだけは無しだぞ。それさえしなければ俺はお前の味方だ。追伸 ガキが生まれた。双子だ」
「えっ!? ロ、ロイド兄さん子供できたの? 凄い!」
「まだこの情報は伏せてるので言っちゃ駄目よ。手紙、どうする?」
「うっ、欲しいけど……燃やして」
僕のせいで兄さんの子供が危険に晒されることだけは防がなくては。
微笑を浮かべたルル姉さんの手の中で手紙は炎に包まれた。
「はい、これで全部燃えました。さて、次に部隊の紹介ね」
「部隊って?」
「勿論、君の護衛のことさ弟君」
「こ、この声は……」
覚えのある声に振り向けば、そこには襟詰めの軍服にちょっと短めなスカートを穿いたボーイッシュな美女が一人。
「アリアさん?」
「久しぶりだね、弟君。いや、旦那様」
「……旦那様?」
(突然何言ってるんだ? この人は)
首をかしげる俺の横でルル姉さんがこれ見よがしのため息をついた。
「アリアの奴、今回の護衛任務の報酬として、アンタと子供を作る権利を要求したのよ」
「ど、どうしてそんなことを?」
「低いながらも一応僕にも適正が出てたからね」
「いや、そうじゃなくてですね。アリアさんが好きなのは、その……」
俺の視線にルル姉さんは関わりたくないとばかりにそっぽを向いた。
「勿論ルルさ。ルルと結ばれたい。その気持ちは今も変わらないよ? でもルルはいつになっても僕のこの熱い気持ちに応えてくれないばかりか、男と子供を作るとまで言い出す始末」
「私にはアロスがいるからね」
ルル姉さんは僕の腕を取ると胸を押し付けてきた。
「そう、だから僕は考え方を変えたんだよ。ルルが僕のものにならないなら、僕がルルの好きな男性のモノになって、それでルルとも結ばれればいいとね。……つまりはヒモ理論だね」
「なんか爛れたヒモですけど……え? アリアさん、ついに最後の常識まで何処かに落としてきたんですか?」
「ふふ。愛を常識に当てはめようだなんて、旦那様もまだまだだね」
近づいてきたアリアさんの人差し指が僕の顎下に入る。そしてそのままーー
「私の弟君に何すんのよ!?」
ルル姉さんに突き飛ばされた。
「おっと、乱暴だね。ふふ。そんな君も好きだけど。何って? もちろんナニさ。正直、男なんて僕の好みじゃないんだけど、自分から言い出した手前、仕事は果たさないとね」
そう言ってアリアさんは軍服のボタンをーー
「こんな所でストリップすな」
ルル姉さんの手刀がアリアさんの頭に落ちる。
「……ふっ。今日のルルはいつになく激しいね。勿論そんな君も大好きだけど、仕事の邪魔をするのはどうかと思うよ?」
「私の弟君とのエッチを仕事って言うのやめてくれる? 大体弟君の初めてがこんな森の中とかありえないでしょ」
「そんなものかい? 場所なんてどうでもいいからサクッと終わらせたいんだけど」
「ちょっ!? 止めて止めて! パンツ下ろさないで」
この人俺に興味がないぶん事務的に進めようとしてきてメチャクチャ怖いんだけど。
ルル姉さんが何度目かとなる大きなため息をついた。
「とにかく、私が弟君の護衛部隊の隊長でこいつが副隊長。もしも私に何かあった場合はーー」
「ないよ」
「え?」
「ルル姉さんにもしもなんて絶対ない。そんなこと、俺が許さない」
「……アロス」
姉さんが身を寄せてきたので頭を撫でて貰えると思ってたらーー
チュッ、と唇に柔かなモノが当たった。
「へっ!? お、お姉ちゃん!?」
「えへへ。私の初めて。アロスにとっては?」
「お、俺も初めてです」
「そう。ふふ。嬉しい」
ルル姉さんは真っ赤になった顔に満面の笑みを浮かべた。
(な、なんだろ? この気持ち)
今までも姉さんを綺麗と思うことは何度もあったけれど、こんな気持ちを覚えるのは初めてだった。
(ま、まさか僕ーー)
「弟君」
「えっ!?」
呼ばれるままにアリアさんの方へと顔を向ければ。
ムチュウウウウウ~!!
と口に何かが吸い付いてきた。
「ん、んんっ~~!?」
「チュッ、チュッ。ハァハァ……これが、チュッ、チュッ。ルルとのチュッ、チュッ。間接ファーストキスか。萌えるぅううううう!!」
ムチュウううううう!!
「んぎゅううううう!?」
「ちょっと!? もう、この変態!」
チュッポ! と、ルル姉さんの手によって柔かな
「弟君との素敵な思いをディープなモノで上書きするんじゃないわよ!」
「ふっ。妬いてるのかい?」
俺の唾液でベトベトになった自身の唇を、アリアさんはチロリと伸ばした舌で綺麗にしていく。
(あ、あれが、あれがさっき僕のな、なかに?)
「焼いて欲しいなら焼いてあげましょうか?」
「字が違うよ? 大体、これからこういうことは増えていくんだから、こんなことで怒っていて護衛隊長が務まるのかい?」
「それは……はぁ、確かにアンタの言う通りね。とにかく旅の途中での接触は基本的に私かコイツがするから、それ以外の奴から連絡があっても信用しないように」
「うん。魔族には人間に化けるのもいるからね」
「そういうこと。もしも私とアリアが同時に動けない場合、連絡員にはこの符丁を使わせるわ」
ルル姉さんが文字の書かれた紙を僕にチラリと見せる。
「覚えた?」
「うん。大丈夫」
「よし。いい子」
ボッ、と紙が燃えた。
「最後に護衛部隊とは独立して動く最強の助っ人達を紹介するわね」
「助っ人?」
「そう。彼らよ」
ルル姉さんの視線を追った先にはーー
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