第29話:口裂けジャンク(4)
衝撃を受けたジャンクがのけ反る。
硬い。一撃入れたが、これじゃ全然致命打にならない。
だが、間違いなくダメージは入っている。
ジャンクの操作する傀儡軍勢の動きが一瞬止まる、その隙にミリオンの軍勢が盛り返す。
頭から血を飛び散らせながら、ジャンクはギロリと僕を睨み付ける。
「……お前、人形の癖に、自分の意思で動いているな」
「だったら何だ」
僕はガトリングを構えて、発射する。
炎の弾丸はジャンクの体を捉える。この距離なら避けることはできないはずだ。
ガガガガガガガガガガガガガ!!!
弾がジャンクの体に当たり、黒い血が滲み出る。
だが、弾丸は皮膚の表層を削るだけに留まり、弾かれて内部にダメージを与える事は叶わない。
再びジャンクの傀儡が動き始める。
銃を撃つ僕を見下ろしながら、ジャンクは僕に語りかける。
「傀儡王も酷な事をする。お前も傀儡王に利用されてる哀れな人形か」
かすり傷などまるで意に介さず、銃弾の雨を受けながら、ジャンクは一歩一歩近づいてくる。
気づくとジャンクの回りの土が浮かび上がり、ジャンクにどんどんと張り付いて硬化していく。
「お前は戦争の道具か?それともオレみたいな奴を殺すために作られたのか?……どちらでも構わないが、傀儡王が目標を達成したら、お前は捨てられる。オレの両親の様にな」
「ミリオンはそんな事しない」
「ハハハハハ、するんだよ!オレの両親も同じ様に信じていた。お前も同じ、利用するだけされて最後には捨てられるだけの運命だ。危険分子となる存在は誰一人といかしちゃおかない。そんな奴なんだよ!」
ジャンクの侮辱に反応してミニミリオンが叫ぶ。
「昔の話だ!今は違う!」
会話しながらも、ジャンクに張り付いた土の上に更に土がくっついて、固まっていく。
一回り、二回りと、土で覆われた体がどんどんと巨大になっていく。
土の塊に浮かび上がる顔が、ジャンクの言葉の続きを紡ぐ。
「確かに昔だ、だが100年前は実際そうだっただろう!今のやつらは昔の傀儡王を知らないが、オレは知っている!血も涙もない、残酷で冷酷な王を!100年前の戦争で、お前はどれだけ人を殺した?オレなど足元にも及ばないほど葬ったろう!違うか?」
ジャンクの体は15メートルを越える、巨大な土のゴーレムと化した。
銃弾は全て土で阻まれ、本体まで届かない。
土で出来た巨大な目玉がギョロりと僕の方を向く。
「……まぁ、今さらどうでも良い。邪魔をするならお前も傀儡王のついでに殺してやる。オレの傀儡魔法でな!」
ゴーレムが左腕を振り上げて僕に向かって降り下ろす。
巨大な土の塊が迫る。僕は咄嗟に、銃を手に戻し、攻撃を受け止める。
ズガアアアアン!
僕の足を中心に地面が凹み、クレーターができる。
そのまま、受け止めた腕を、両手で思いきり抱き締める。
瞬間、ゴーレムの左腕にヒビが入り砕け散る。ゴーレムが体のバランスを崩して一歩下がる。
「おっと……思ったよりお前強いな、嘗めて悪かったよ。これは生身で行っちゃあヤバかったな」
ゴーレムの左腕があっと言う間に再生する。ジャンクは余裕をかましている。
ゴーレムの中にいられる限り、僕の攻撃が届かない。どうにかして中から引きずり出さないとダメージを与えられない。
そうしているうちに、ジャンクの傀儡軍団が勢いを増していく。
ジャンクのゴーレムの鎧は確かに厄介だが、大きさに応じて動きは遅くなっている。
……今ならミリオンの火炎のブレスを、当てることができるかもしれない。
「ミリオン!炎で奴を焼けますか!」
「やってみよう」
グオオオオオオ……
辺り一面に空気が大きく移動する音が聞こえる。聖獸ミリオンが息を吸い込み始めた。
「そんなの当たるかよ!」
ジャンクを包み込んだゴーレムが走り出す。やはり魔獸といえどもあの炎は嫌な様だ。
土の鎧と化したゴーレムでもあの温度に耐えられるかは分からない。だが、当てる為にも、奴をここから逃がしてはいけない。
僕は左腕を横に振りながらに射出する。同時に足の裏からアンカーで自身を地面に固定する。
ゴーレムはジャンク本人と比べて大きく鈍い。炎の範囲から逃れる程度には速くても僕の攻撃で捕らえるのは容易い。
左腕のワイヤーがゴーレムの足に絡まる。ワイヤーがピンと張り、ゴーレムの身動きを止める。
いくら巨大なゴーレムだろうと、力負けはしない。力で負けては、傀儡王の最強の人形の名が廃る。
「なんだこれは……お前ぇっ」
僕はワイヤーを引いてゴーレムを引きずりよせる。
「くそっ!なんて力だ……」
「燃え尽きろ!ジャンク!」
僕が言うか早いか、僕の背後から津波のように炎の渦が迫り、辺り一体を飲み込んだ。
一瞬で視界が真っ赤な光に包まれ何も見えなくなる。
足元がドロドロする、地面が溶岩と化している。
数秒経ち、炎が辺りから消えていく。
立ち上る湯気の中、土のゴーレムは、立っていた。
だがすぐに、ボロボロと崩れ始め、前のめりに倒れた。
崩れた中からジャンクが姿を表す。
「ハハ、ハハハハハ……やってくれたな……傀儡王ォォ!!」
体の節々から煙を出しながら、ジャンクは嗤う。なんてしぶとい奴だ。
体が一部溶け、4本ある腕のうち、肩から生えた1本が溶けている。
よし、追い込んでいる。僕の存在が奴の計算を狂わしている。
奴の魔法を見てる限り、ジャンクは生身じゃ僕に勝てない。僕と戦うには土のゴーレムで身を包むか、雑魚で僕をがんじがらめにするしかない。
だが黒い兵隊はミリオンの赤い兵士に足止めされて僕にたどり着くことは叶わないし、巨大ゴーレムで身を包めば、僕に阻まれミリオンの炎を避けられない。
ジャンクが僕を睨む。
「作戦変更だ……人形野郎。もうお前の相手はしねぇ。一緒に火だるまになるのはもうゴメンだ。傀儡王を殺しゃあお前も死ぬんだろ……!!」
……正解だ。だが何をする気だ?がむしゃらにミリオンに突っ込む気か?そんなの僕が許さない。
だが、さっさと仕留めないとまた何をしでかすか分からない。こちらから攻める。
僕はジャンク目掛けて走り出す。
「だからお前の相手は!しないって!言ってんだろうがァ!!!!!」
ジャンクが3本の腕を地面に叩きつける。
瞬間、地面が盛り上がり、ジャンクを包み込む。またゴーレムか。何度やっても同じだ。
的が大きくなれば腕のワイヤーで捕らえるのも容易い。焼き払うだけだ。
「鋼!違う!何か様子がおかしい!」
ミニミリオンが叫ぶ。
ジャンクの遠く後ろにいた、黒い兵隊が崩れ去るのが見えた。
ジャンクのゴーレムはどんどんと膨れ上がる、既に先程の15メートルを優に越えている。
「こいつ、自分の周りを覆うのに、全ての魔力を注ぎ込むつもりだ!」
辺りにいた黒い兵隊達が全て崩れ去る。新たに生まれもしない。
全魔力を込めたジャンクのゴーレムが立ち上がる。30メートル。それだけはある。でかい。でかすぎる。
僕は思いきって足をぶん殴った。
ゴーレムの足の一部を吹き飛ばすが、すぐに埋まっていく。殴っても攻撃が当たった場所が削れるだけで足全体が崩れるわけではない。
僕の小さな体では、バランスを崩せるような範囲にダメージは入れられそうにない。
上空を見上げる。土の巨大なゴーレムとドラゴンが睨みあっている。
「人形野郎はそこで見ていな!オレが傀儡王を殺す様をな!」
上空から巨大な声が降ってくる。
ゴーレムがゆっくりと、パンチを振りかぶりながら、一歩踏み込む。
その1歩だけで優に20メートルは進む。
くそ、スケールが違いすぎる。僕では奴に追い付くだけでも難しい。
「ふん、嘗められたものだな」
ミニミリオンが呟く。
轟音と共に迫る拳を、聖獸ミリオンは体を傾けて避ける。
「いくら私がノロマになったとは言え、土人形の愚鈍な攻撃など当たるものか」
ズガアアアアアアアン!!
聖獸ミリオンはそのまま、体を捻り、一回転しながら尻尾をゴーレムに叩きつけた。
ゴーレムの両足がまとめてくだけ散る。
……グオオオオオオ……
その直後、息を吸い込む音が聞こえた。ゴーレムが倒れた所に上から炎を吐きかけて畳み掛ける気だ。
「ハハハハハ!!作戦通りなんだよ!!!!」
ジャンクの楽しそうな声が上空から聞こえたと思った瞬間、ゴーレムは倒れながら上半身でミリオンに思いきり抱きついた。
「なんだと……」
ミニミリオンの声色が変わる。
砕けた巨大なゴーレムは聖獸ミリオンに抱きついたまま、全身が砕け始めた。
「予告通り、お前の目玉をくり貫いて、脳みそを掻き出してやるっ!!!」
よく見ると、抱きついたゴーレムが分解して、小さな兵士に変わっていくのが見えた。あの黒い兵隊だ。
散らばった兵隊は、像に群がる蟻の様に、聖獸ミリオンの体の上を這い回り始めた。
聖獸ミリオンは体を振ったり、炎を吐いたりして振り落とそうとしているが、離れない。
砕けたゴーレムから生まれた数百の兵隊達は我先にとミリオンの頭目掛けてよじ登り始めている。
「鋼、マズい!やられた!」
ミニミリオンの声には既に余裕がない。
僕は目を凝らす、どこかに、どこかにジャンクはいるはずだ。
……見つけた、ミリオンの足元で、崩れて地面に落ちた土の中からジャンクが立ち上がるのが見えた。
「これで傀儡王が死ぬのは時間の問題だ……これで、復讐が終わる……ハハハ!ハハハハハ!!!」
ジャンクの笑い声がこだまする。
僕は駆け出す。一刻も早くジャンクを倒さないと、ミリオンが危ない。
「おお?人形野郎がかかってくるのか?早くオレを殺さないとお前の飼い主様が死ぬぞ?ハハハハハ!」
ジャンクの前に、数十体の黒い兵隊が地面から現れる。
僕が数に弱いのを理解している。
だが、瞬時に同じ場所に赤い兵士が地面から這い出てくる。
「……傀儡王ォ!!まだそんな悪あがきを!」
ジャンクと同時にミニミリオンが僕に叫ぶ。
「やはり、切り札は貴様しかいない、鋼!雑魚に囚われるな!あのクズを殺せるのは、貴様だけだ!」
ジャンクは3本の腕を地面に叩きつける。
また、ゴーレムの鎧か。だが、ミリオンの炎はもう期待できない。
体を土が覆っていく。だが、先程魔力を大きく使った為か、聖獸ミリオンによじ登る兵隊を残す為か、作られたゴーレムは大きさは15メートルクラスのものだ。
この巨大な怪物を、僕一人で何とかするしかない。
「指輪の力を使え!鋼!!」
ミリオンの声に僕は左手を見て思い出す。
ここに来る直前に託された、秘密兵器の存在を。
「ああ!やってやりますよ!!ミリオン!!」
僕は左手を握りしめ、念じる。
僕に力を貸してください!ミリオン!!
指輪が、紅い炎を纏い輝きだした。
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