第22話:二人の訪問者

「これで9人……残りは6人か。こいつも口避け男じゃなかった」


僕は呟きながら、たった今殺した生け贄使用者の家から出る。


もう、捜査を開始してから1ヶ月が経った。


僕達は口が右耳まで裂けた男が書かれた帳簿に書かれていた名前をしらみ潰しに周り、既に8人を仕留めていた。

いや、たった今、ベグノット・アールノアという男を始末したから9人か。


仕留めた9人は全員生け贄をやっており、全員が心臓模型に反応を示した。

そう言えば、心臓模型を生け贄をやっていない人に二度見せて反応を試したが、普通にすごい気持ち悪がられた。

どうやら地球と同じ感性だ。反応するのは確かに生け贄をやった人間だけだ。


しかしながら、仕留めた9人は、人を食べていたのは間違いなかったが、口裂け男ではなかった。

捜査は、難航していると考えて間違いない。


僕はベグノットの家を出ると、少し離れた喫茶店で待機していたマイナと合流する。

マイナのいるテーブルに着くと、ミニミリオンを机に置き、2人に話しかける。


「ミリオン、マイナ。ベグノットは片付けました。ですが口避け男じゃなかった。次はどうしましょう」


捜査をしていて感じたことだが、標的を見つけるのはなかなか大変だ。

この町は広く、地区毎の住民帳だけでもかなりの数だ。調べるだけでかなり時間がかかる。

同姓同名もなかなか多く、当たってはみたが身辺調査で全然関係ない人と分かるパターンも少なくなかった。


しかも、住民帳に名前が乗っていない可能性もある。


一人片付いたのでどうするか相談しようと思った矢先にミリオンが話を切り出す。


「すまないが鋼、今すぐ戻れるか。急用ができてな。マイナは悪いが帰ってくれ。また明日呼ぶ」


「ミリオン様、何かあったんですか?」


「突然想定外の客が来てな…………何というか……鋼を紹介しろと言うんだ。会食の間に来てくれ。急いでな」


一体誰だろう。ミリオンの覇気が微妙にない。

僕を紹介したい人って言うのは誰だろう。親族だろうか、いや親族はかなり前に死んだと言っていた気がする。となると……見当もつかない。


「はぁ、分かりました」


とりあえず、行ってみないと分からない。

僕は会計を済ませると、その場でマイナと別れた。


とりあえず近くのゲートまで走って行き、城から開けて貰おう。


僕は人にぶつからないよう注意しながら、勢い良く走り出しだ。


綺麗な町並みが、風のように過ぎ去っていく。

ゲートはこの通りをまっすぐ進み、突き当たりの通りを右に曲がった所だ。



「君、少しいいかい?」



急いでいたら突然、曲がり角の前で初老の男性に話しかけられた。

道でも聞くつもりだろうか、だが今は間が悪い。


「すみません!」


僕はその男の問いかけに答えれない事を謝って通り過ぎ、突き当たりの曲がり角を曲がる。

すると、今走っていた道がそこにはあった。さっき曲がったはずの曲がり道が先に見える。

進んでいた筈なのに、戻っている。


「あれ?なんだこれ……」


僕は再び男性を追い越して曲がり角を曲がる。

すると、また同じ道に出た。

一体どうなっているんだ。


僕が曲がり角まで再度近づくと、改めて初老の男性が僕に話しかけてきた。



「君が鋼君だろう?急く気持ちは分かるが、少し落ち着きたまえ」



僕は初老の男を見る。後ろに撫で付けたシルバーブロンドの髪。高い鼻の周りに深くシワが刻まれている。

険しい眉間の下には夜の海のように暗く青い目が輝いており、左手首に巻いた年期の入った金の腕時計が眩しい。

背はピンとしながらも金の杖を持ち、黒いダブルのスーツに白いマフラーを掛けた、まるでマフィアの首領の様な出で立ちで、底知れない威厳を感じる。


僕が状況を飲み込めずに戸惑っていると、ミニミリオンがポケットから這い出してきた。


「……トゥエルブ、こんな所で何をやってる。鋼をからかわないでくれ」


「すまないね、ミリィ。待っていても時間が無駄なのでね。迎えに来たんだよ」


トゥエルブと呼ばれた男が僕の肩に手をポンとのせる。


一瞬で景色が変わり、いつの間にか城の会食の間……ミリオンが来いと言った部屋に移動していた。

ワープした…………のか?ゲートも潜らずに。


辺りを見回すと、長いテーブルがあり、その右側中央の席にミリオンが座っていた。


その向かいの席には女性が座っている。

青く長い髪に美しくおしとやかな顔、二重の瞼に緑の目、年齢は20台後半くらいの年齢に見える。

金の花をあしらった白い鍔広帽に、ほんのりと蒼い白いドレスを着ている。

しかし……大きな胸だ。あまりじろじろ観るのはよそう。


その女性の左の席には、先程のトゥエルブと呼ばれた男が歩みより、静かに座った。


「鋼、私の隣に座れ。彼らに貴様を紹介する」


僕は言われるまま席につく。


「彼が貴様らが会いたいと言っていた鋼だ。私が作り上げた、意思を持つ傀儡だ」


「どうも、よろしくお願いします。白鐘 鋼です」


相手が誰か分からないが、取り合えずお辞儀をして挨拶する。


「ふふ。やっぱりミリオンちゃん好みの顔じゃない」


なにかの会話の続きか、青い髪の女性がミリオンに笑いかける。


「スフィア。適当な事を言うのはやめてくれ」


この青い髪の綺麗な女性はスフィアと言うのか。だが、ミリオンにちゃん付けとは、この人は一体何者だろう?


「隠したって無駄よ。長い付き合いなんだから。ミリオンちゃんの好みは知り尽くしているんですからね」


ミリオンの顔が少し赤くなる。

僕の顔って本当はミリオンの趣味だったのか。という事は前言っていた適当に選んで作ったというのは嘘だったのか。

まぁ好きにキャラエディットできるなら、自分の好みの顔にするよな。はは、少し嬉しい。


「鋼!二人を紹介する」


ミリオンが強制的に話を切る。


「封印王スフィアと時空王トゥエルブだ。私とは別の魔法都市を納めている。魔法の祖である王達だ」


スフィアは軽く手を振りながら、トゥエルブは指を組みながら僕を見て挨拶を返す。


「鋼ちゃん。よろしくね」


「宜しく」


僕は何でそんな人達が来ているのか分からず内心驚く。

そんな僕の気持ちを察してかスフィアが事情を話し始める。


「鋼ちゃん、ごめんね。急にお邪魔しちゃって。元々はトゥエルブと話していたんだけど……トゥエルブがね、ミリオンちゃんがとんでもない事を始めたって言うものだから、つい、どうしても気になっちゃって。トゥエルブに頼んでここに連れてきてもらっちゃったの。ミリオンちゃん、どうせ暇だと思って」


トゥエルブ、確か、時空王と言っていた。という事は多分、時空魔法の祖だ。

ここ1ヶ月で魔法について少しは学んだ。時空魔法といえばゲートでのワープや、自らの時間の流れの速度を変える魔法があった。

時空魔法の祖という事は、時空魔法が使い放題。つまり好きな時に好きな場所に自由に行き放題という訳か。

もしかしてタイムトラベルもできるのだろうか。


……と言う事は何だ?この二人はミリオンがたまたま話題に上がったから遙々街の彼方からワープして来たってことか。

この世界の王様はどいつもこいつも揃ってやりたい放題か。


「二人共、鋼を見るのが目的だったなら、もう見ただろ。満足したなら帰ってくれ」


「そんな!ミリオンちゃん冷たーい」


うんざりした感じのミリオンにスフィアが笑いながら返答する。どうやら帰る気は無さそうだ

一方、トゥエルブは顎に手を当てながら、僕をジロジロみている。


「……素晴らしい。確かに自分で考えて動いている様に見える。ミリィ、こいつの量産は本当に無理なのか?」


量産?僕を?……いや僕みたいな魂を持つ傀儡人形をっていう事か。

というかこの人はミリオンの事をミリィと呼ぶのか、かなり親しい間柄なのだろうか。


「いや、無理だな。こいつのコアには魔晶石を使っているが、かなり純度の高い希少なものだ。それに人間の魂は魔晶石に入れる際に崩れてしまう。耐えれるのは地球人の強固な魂ぐらいだ。こいつは本当に偶然迷い混んだ魂が入ったんだ。あんな奇跡二度と起こせん」


「地球人!?鋼ちゃんって異世界人なの?」


「あ、はい。そうです。地球の、日本という国から来ました」


「量産は無理か。……だが、地球人とは面白い」


二人は僕が地球人だと知ると、面白がり、テンションが上がったのかおしゃべりを始めた。


「じゃあ鋼ちゃんは魔法が無い世界から来たのね。いきなりで戸惑ったでしょう?ミリオンちゃんも癇癪持ちだし、大変じゃなかった?」


「日本か。以前来たアメリカ人から聞いた国名だ。風土の話を聞けば、金に繋がるかもしれんな」


「トゥエルブったら、口を開けばお金お金。そんなのだから孫同然だったミリオンちゃんに愛想をつかされるのよ?」


「経済を発展させる事の何が悪い。それにミリィと疎遠になったのは彼女が政治から退いたからだ。嫌われてなどおらん」


「ふふ、強がっちゃって。本当は、ミリオンちゃんに会いたかった癖に。ミリオンちゃんが政治下手くそなのを言い訳にしないの」



ばんっ!



ミリオンは勢い良く立ち上がりながら、机を勢い良く叩いて会話を中断させる。耳が真っ赤だ。


「二人とも何しに来たんだ!好き放題言いやがって!いきなり来るなり、鋼を見せろだの!大体どこでこいつの事を知ったんだ!何が目的だ!」


ミリオンもこの2人が突然来た理由を知らないようだ。僕と同じく、突然来られて困惑している様だった。

スフィアはトゥエルブの顔を伺い、トゥエルブが軽く頷いたのを見ると、さっきとはうって変わって神妙に話し始めた。


「実はね、私、ミリオンちゃんの始めた事に興味が沸いてね。取引したいと思って来たの」


「お前が鋼君を使って生け贄使いを狩り始めた事は知っている。私に隠し事はできんのは知っているだろう、ミリィ?」


「……相変わらずの地獄耳だな。それに、取引だと?」


ミリオンは椅子に座り直し、話を聞く体勢に移る。

スフィアがミリオンと僕を交互に見る。


「鋼ちゃんもいるから最初から説明するわね。私は十王の一人で第六の王。封印魔法の祖。封印王スフィア・ロックハート。私の封印魔法でこの街の生け贄魔法を全て封じ込めてあげるわ。私のお願いを聞いてくれたらね」


ミリオンと僕は顔を見合わせる。

詳しく聞く必要がありそうだ。

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