第16話:グラス兄妹(2)

「やるのか、鋼」


僕が行動を開始したのを見てミニミリオンが久しぶりに喋る。


「ああ、やってやるとも!」


そう答え、温度探知をONにする。

この部屋にいる6人以外の十数人手下の場所が壁越しに見える。

先程腐りかけた女を食べた奴等だ。

他には離れた部屋で、地面に倒れているのが4人いる。彼らは〈商品〉だろう。

この〈商品〉を残し、一人残らず倒してやる。


僕は体を縛る縄を引きちぎると、立ち上がる。

僕を殴り続けていた男が咄嗟にこん棒で殴りかろうとしてきたので、左腕で思いきり殴り払う。

こん棒がへし折れ、そのままの勢いで腕と肋骨をへし折りつつ壁まで吹き飛ばす。


兄妹へと向き直り右腕を持ち上げて狙いを定める。シリンダーはもう高速で回転している。


異常事態を察知したユグノーは咄嗟に声を挙げる。



「そいつを殺せェ!!」



叫びながら、ユグノーは妹の手を咄嗟に引いて部屋から飛び出す。

部屋の残り3人が僕に向かって銃を抜く。


その瞬間、僕の右手から炎の弾が吹き出す。爆音と共に全てを破壊し始める。



ガガガガガガガガガガガガガガガ!!



放たれた弾丸は、一つ一つが当たれば致命傷になり得る威力をもって、敵に飛びかかる。


「なんだコイツはァァァッ!!」


手下の男の一人が叫ぶ。


瓦礫の破片を撒き散らしながら、銃となった腕を振り回す。

僕を取り囲む三人の体に穴が開き、吹き飛んで動かなくなる。

新たに一人部屋に入ってきたが、その人間も瞬く間に蜂の巣となり、崩れ落ちる。


グラス兄妹にはすんでの所で部屋から逃げられた。

反応が速い勘のいい奴等だ。ここで見失う訳には行かない。


僕は死体を踏み越えて、腕部の銃を乱射しながら部屋の外に出る。ここは何かの格納庫だろうか、広い部屋だ。



「殺せ殺せ殺せェ!!」



ガガガガガガガガガガガガ!!ダダダン!ダダン!



爆音の中、ユグノーの怒声が飛ぶ。

部屋の外に待ち構えていた十数人の人間が一斉に僕に向かって銃を乱射し始める。

焦っている為か狙いがまばらで殆どは外れるが、いくつかの弾は僕に当たりひしゃげて地面に落ちる。


僕には温度探知で、敵の居場所が分かる。

倒した机の裏や障害物に隠れている者も、物陰に潜んでいる者も、逃げ惑う者も、正面から挑む者も。

僕は彼らに向かって秒間何十発も乱射しながら右腕の照準を確実に合わせていく。

反動で多少ぶれるが構いやしない。とにかく数を撃ちまくる。


盾にした障害物は数秒も持たない。炎の弾丸は机を、壁を粉々にして、その裏にいる人間を粉々に打ち砕いていく。



粉塵が舞い塵り、物陰に隠れたり、人が入り乱れる事で誰がグラス兄妹か分からなくなった。温度探知だけでは区別がつかない。

だが気にすることはない、最終的に〈商品〉以外は一人も残さないのだから。

僕は火を吹く右腕を振り回しつづける。



「くそったれ!どうなってんだ!!銃が効かねぇ!!!」


「なら魔法を使いなさいよ!!」



ユアンダの声が響いた次の瞬間、炎の弾が飛んで来た、緑のもやが立ち込め、浮いた瓦礫が飛んで来て、空間に突如出現した光る杭が降ってくる。

誰がどれを使っているのかは分からないが、全て魔法の攻撃だろう。


炎も瓦礫も杭も直撃するが、対した事じゃない。

僕に当たったものは全て砕け散り、僕の前にバラバラと山になって重なり積もる。

蹴りあげて吹き飛ばせるので移動の邪魔にすらならない。

残った緑のもやは毒だろうか、当然僕には効かないが。



「あいつ、固いだけじゃねぇ!生死魔法と精神魔法にかからねぇ!生き物ですらねぇぞ!」


「傀儡王……あいつ!人形か!」



今更ながら正体がばれる。分かった所でどうすることもできないだろうが。


突如地面から土の腕が飛び出して僕の足が捕まれる。


「捕まえた!やれ!」


一人の男が、僕の背後へワープして抱きつく、右手のナイフを顔……僕の目に向かって降り下ろす。

僕はナイフの刃を左腕で掴むとべきりと折り、首をグルンと180度回転させて背後の男と目を合わせる。男は驚愕で顔が凍りつく。

腕も合わせて回転させて男の体に何度も突き刺す。

傀儡となった僕の体の可動域は人間より遥かに広い、組みつきなど意味はない。


へばりついた男を引き剥がすと、二人の男女が煙の中から飛び出してきた。

どこからか巨大な鉄の扉を剥がして盾代わりにしている。

男の方は筋骨粒々で扉を持ち、女の方は薪割りに使う様な斧を持っている。

この状況で飛び出して来たとなると、肉体強化を行っている者達だろう。


僕は右腕を手の形へ戻して扉を思いきり手のひらで叩きつけて押さえつける。

かなりの勢いで突っ込まれたので少しのけぞり、ドアが歪む。

それを見て女が扉の裏から飛び出して僕の背後に回る。


僕はそのまま鉄の扉を握って指を食い込ませ、高圧電流を目一杯流す。

扉を伝い、男が感電死する。


また、斧は左腕のブレードを出して受け止め、高速振動させて、斧の刃ごと切り裂いて女を上半身と下半身に分断する。



女が崩れ散るのを確認すると、足をつかむ邪魔な土の腕を蹴って砕く動作に移る。

なおも幾つもの腕が出てきて足を掴もうとしてきたので、僕はホバー機能で空中に浮き上がる。

遮蔽物に隠れた敵が、信じられない物を見るように僕を見上げる。

上空から見下ろす事であらわになった敵に人差し指を向け、一人づつ、狙いを定めて、頭を撃ち抜いていく。


一人、二人、三人、四人。


五人目に狙いを定めると、その人物は手を上げた。ユグノーだ。



「降参だ!降参する!助けて、助けてくれ!」



僕は構わず、指先から魔法弾を放つ。


「クソがァァァァッッ!!」


ユグノーはその瞬間両手をつき出して構える。

黒い煙が放出されたかと思うと、魔法弾が腐るようにドロドロに溶けて地に落ちる。


「へ、へへ……た、大したことねぇじゃねえか。そうだよ……俺達が負ける訳ねェんだ!俺は10人や20人食っただけの雑魚とは格が違げェんだよ!…………見せてやるよ!人間から進化した姿を!!」


ユグノーの体が不自然に盛り上がる。様子がおかしい。

戦闘中沈黙を保っていたミニミリオンが面白そうに声を出す。


「ほう。こいつ完全に人ですら無くなっていたのか。鋼、目ん玉ひんむいてよーく見とけ。これが生け贄使用者の末路……人を数え切れないほど食い続け、身も心も獣へと堕ちた者、膨大な魔力で肉体を変化した元人間。魔獸ルーガルーだ」



ユグノーの骨格がべきべきと音を立てて変わり始めた。

変形して尖った骨が体の所々を突き破り、肩や腕、背中から角のように飛び出て固まる。

体色が黒ずみ、元の白かった肌と合わさって灰色に染まる。

目が赤く変色し、爪が延びて鋭利なナイフの様に尖り、190cmほどだった身長も250cmほどまで延びている。



「ユアンダ!お前も手伝え!!二人がかりでこの化けもんを始末するぞォッ!」



振り向くとそこにも灰色の肌をした怪物が宙に浮いていた。

兄とは違い、武骨な骨が飛び出ていない代わりにコウモリを思わせる羽を持ち、顔や体は女性らしい姿を保ったまま怪物となっている。

ただし目は赤く、髪は針の様に尖り、こちらも250cmほどまで背が伸びて腕も2メートルはある長さになっている。

僕の感覚じゃ美しいとはとても言えない。


牙の生えた口から、耳をつんざくノイズ混じり怒声が響く。


「糞野郎が!!ぶっ潰してやるわ!!」




危機的状況だが、ミニミリオンからは笑い声が聞こえた。


「ヒヒヒ!鋼、ビビるなよ……。私は対魔獸を想定してお前を作ったんだ。お前のやりたいようにやれ」


僕は軽く相づちを打つと、喉をならす二匹の怪物に、冷たく視線を送った。

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