第13話:作戦会議
僕たち3人は隠し部屋を出て、資料が散乱している部屋に戻る事にした。
「そう言えば、心臓の模型って量産できないんですか?あれがあれば裁判で生け贄使用者の犯罪も証明できるのでは?」
戻り際に、さも名案の様に提案すると、できる訳が無いだろと一蹴された。
あれがどれ程凄いものなのか理解できないのかと呆れられもした。
魔法を使えない世界から来た身としては何が凄くて何が凄く無いのかが良く掴めない。
聞いてみると人体を作るのは非常に難しいと言うことは分かった。
怪我も一般の治癒魔法の使い手では自然治癒力を高め治りを早くする位で、大ケガなどは治せないらしい。
ミリオンはマイナをこの計画において手駒に加えることを決めた。
そこで僕たちは、グラス兄妹について話を進める前に、マイナを使う為の下準備に苦心していた。
この人は言わばシリアルキラーだ。
そんな人間を使っていたと知れれば傀儡王の名に、ついでにガードの名にも大きな傷がつく。
だが捨てがたい人材だ。頭は多少、いやかなりヤバイ奴だが、生け贄の罪人を見分ける事ができる特別な感性は貴重だ。
ただ、自由にしておくと何をしでかすのか分からないので、近くで監視下に置くことにした。
彼女の評価は、市民の安全を心から願う拷問好きな優しいイカレたガードさん、といった矛盾にまみれた形で定まり、隠し部屋で決めた約束を絶対に破ってはならないと誓わせた。
文字通り命をかけさせて。
当分は一緒に活動してもらうとミリオンが告げると、マイナ自身は凄く喜んだ。
信頼を勝ち取ったが故に一緒に行動させて貰えるとでも思ってるのだろうか、実際は真逆なのだが。
……そのポジティブさが羨ましい、なんでそんな血にまみれた人生でニコニコしていられるか不思議でならない。
しかしながら、信頼できる部分もある。
それはイカレているが故の歪んだ正義感だ。
彼女は犯人保護の為にガードに報告するだとか、ガードが掴んだ情報を隠すだとかは、まず絶対にしないだろう。
むしろ情報を率先して流してくれるまである。
金で動く奴で無いのも良い。
ミリオンが秘密にしろと言ったことは誰にも話さないだろうし、僕たちの活動の裏工作まで頼めそうだ。
こちらが致命的な秘密を握っているという点も合わせて非常に都合が良い。
ミリオンはマイナに、ガード本部へ『鋼に取り入る事に成功したから彼を監視したい』と連絡させた。
熱心に頼み込んで貰い、ガードでのマイナの信頼はかなり厚い事もあり、臨時的な許可が降りた。
正式な許可が降りるのは後日になるのだろう。
ただし条件として、傀儡王には感づかれないように細心の注意を払う事を念押しされていた。もう全部知られてしまっているので意味は無いが。
これが俗に言う二重スパイという奴なのだろうか。本人に全然自覚が無い上に、自然体で出来そうだから何も問題無さそうだけど。
「後は隠し部屋をどうするかだな。あの部屋が知られたら一発でアウトだ」
「ミリオン、今さらですが王様が直接殺人の隠蔽に関与するのどうかと思うんですけど」
「お前がこの世界に来た理由を思い出せよ。本当に今さらだな」
色々と話し合った結果、骸骨達には酷だが傀儡魔法をかけ、昼間の内に隠し部屋を掃除してもらって、夜中に家にあった服を着せて、山の奥に自分で歩いてもらい自分で穴を掘って拷問用具もろともに埋まってもらうことになった。
誰かが掘り返さないことを祈る。
僕らの為にも、まだ見ぬ掘り返す哀れな人の為にも。
一通り段取りが決まると、マイナがもじもじと、嬉し恥ずかしそうにお礼を口にする。
「傀儡王様、恐縮です。私、部屋の掃除が苦手で……中々片付かなかったんです」
「そんな可愛いげのあるものじゃないだろう……あとミリオン様と呼べ。こうして直接話しているんだからな」
「あれ、様付けなんですね。僕は呼び捨てでいいのに」
「貴様は特別なんだよ」
そうこうして少し時間はかかったが、大体のマイナ関連の問題は片付いた。
やっと本題のグラス兄妹の話に入れる。
マイナが部屋にまとめた資料を吟味する。凄い中身の充実ぶりで、似顔絵のイラストまで用意してあり、彼らが使う魔法の事までもが詳細に書いてある。
兄、ユグノー・グラスは城で最初に見た人形にそっくりの眼鏡をかけた頬のこけた黒髪の男で身長が190cmほど。
妹のユアンダ・グラスはウェーブの掛かった黒髪のロングヘアで、涼しい目をしたきれいなお姉さんで180cm、という感じだ。どちらも生け贄を常習的にやっている危険人物だ。
グラス兄妹の他には、合わせて20名ほどの部下が居るようだ。
だが誰が生け贄魔法しているかはユビウスは把握していなかったようだ。
まぁ、殺さなくて良い時は控えようと軽く思った。人を人とも思わない奴の一味なので、やってしまった場合はそれまでだ。割りきって考えないと仕方がない。
「兄妹のアジトは複数あるんですか?」
壁に貼り付けられた大きな地図を見て質問する。丸が付けられアジトと書かれた建物が5つもある。
「そうなんです。そこが困り所で、10日毎にランダムで場所を移しているみたいなんです。しかも、各々のアジトを部下が常に入念にチェックしているみたいで、自分達のアジトがどこか一つでも攻められたら、姿を眩ます準備をしているとも聞きました」
「そんな準備周到な奴等なら、貴様が弟を捕まえた時に既に逃げ出しているんじゃあないのか?」
ミリオンは、マイナの出したお茶を飲みながら、疑問を口にする。
お茶は透明感のある緑色で、お茶とは呼ばれているが原料は茶葉とは違うものだろう。
僕も生きていれば飲んでみたかった。
「それは大丈夫だと思います。弟のユビウスは2人の兄妹と違い思慮の足りない奴でした。金遣いが荒く、酒癖も悪く、女癖も悪い。まぁ、そこに付け入る隙があったんですが」
「女癖が悪い所につけこんだって、色仕掛けでもしたんですか」
「鋼、貴様、デリカシーが無いな」
マイナは苦々しく微笑みながら首を振る。
「いえ、獣に色仕掛けは生理的に無理です。彼は迂闊にも行きつけのバーが有りまして、そこで薬を飲ませてさらって来たんです……その時は正体を知らなかったんですけどね」
「で、誘拐して一ヶ月も経つのに兄妹が逃げ出してない理由とはなんだ」
「お金です。ユビウスから聞き出した情報には逃走用の資金の情報もありました。兄妹3人しか知らない場所で、絶対に足が付かない様にどこのアジトからも離れ、部下の監視も無い、本当に秘密の金です。それを忍び込んで奪いました。今ごろ兄妹はユビウスが金を持って逃げたと思い探している筈です」
ミリオンがお茶を吹き出しかけて、なんとか飲み込む。
僕も唖然としてしまう。ヤクザの金を盗んで平然としてるようなものだぞ。
「貴様、金を奪ったのか!?今持ってるのか!?」
「はい、ありますよ!この部屋に!そのクローゼットの中です。あ、そんな汚いお金使う気はありませんでしたよ」
「こいつ無敵か」
部屋のクローゼットを開けてみると、パンパンに札束が詰まった革製の大きな鞄が3つ置かれていた。
「少なくとも正気じゃ無いのは確かですね」
「本当にな……マイナ貴様、いい加減にしろよ。他に隠していることは無いのか?」
「えっと、多分無いと思います」
このお金、日本円でどのくらいになるんだろうか、きっと目の眩むような大金なのは間違いない。
ミリオンが驚いていると言うことは、はした金でないのは間違いない。
だがこれは朗報だ。
この金とユビウスを探しているという情報は大いに利用できる。
僕はたった今思い付いた作戦を二人に伝える事にした。
「せっかくなので向こうから来てもらいましょうよ。簡単に説明すると、僕が囮になってユビウスの事を噂するんです。で、僕が拐われて懐に潜り込むって寸法です」
思い付きだがなかなか悪くない戦法だ。
その案を元に3人で詳細を詰め、後日実行に移す事に決定した。
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