第09話:マイナ・オーキッド(1)
謁見の間にしばしの沈黙が流れる。
心臓売りのグラス兄妹……兄妹であることは知らなかったが……これはミリオンにしてみれば直ぐに食いつきたい話だろう。
しかしこのマイナというガードの思惑が読めない。
警察組織の立場にいながら王の私刑を求めているのだから。
「私が代わりに裁く?貴方の仰る悪人をですか?……何故、それを私に頼みに来たのですか」
ミリオンは様子を見ることにしたようだ。
僕も賛成だ。マイナは緊張した面持ちで緊張した少し震えた声で話す。
「私は先日の立てこもり事件の際に、そこにおられます鋼様の活躍を拝見致しました。鋼様のお陰もあり事件は無事解決し、あれだけの相手でしたのにガードが一人たりとも怪我も負うこと無く済みました。相手は生け贄魔法の使い手複数人、きっと鋼様がいなければ、死傷者出て、最悪犯人に逃げられていた可能性もございました」
そう直接誉められるとこそばゆいものがある。だがマイナは喋っている間、僕の方はチラリとも見ず、一直線に傀儡王を見つめている。
「その後、直ぐにガード全員に箝口令が敷かれました。現れた傀儡の事は公にするなと。事件も我々が解決したことになりました。また……正直に申し上げます……重大事件は鋼様の通信石にはいかないようにするようにと徹底されました。その理由は言っておりませんでしたが、あの事件に関わったガードはほぼ全員、その理由に気づいておりました。……またあのような大きな事件があれば鋼様がいらっしゃり、犯人を殺すのであろうと。そしてそれが、傀儡王様の意思なのだろうと」
マイナは声を大きくする。
「ですが!ガードを責めないで頂けませんでしょうか!彼らにも彼らなりの誇りがあり、命を賭けているのです!」
「……いいでしょう……ですが一層の事、わかりかねます。なぜ私に頼みに来たのですか?」
ミリオンの優しい声色に少し怒りが混じっているのが感じ取れる。内心ガードに約束を反故にされたことにムカついているのは簡単に想像できる。
「私は独自に生け贄魔法の事件を調査しておりました。そして掴んだのです。3名の兄妹が行う、生け贄魔法の為の人身売買組織を。ですが調べれば調べるほど相手がいかに危険かが分かってきました。……これはまだガードに報告していない情報になります。ガードが事件解決に乗り出すとなると、間違いなく大きな作戦となることでしょう。相手は生け贄魔法の斡旋組織で、何名もの生け贄を使用している者が相手となります。ご存じでおられます様に、生け贄魔法の使用者と通常の人間では戦力には埋めようも無い差がございます」
マイナの目が泳ぐ。体も小刻みに震えている。自らが如何にとんでもないことを直訴しているのかを、ちゃんとわかっているのだろう。
「戦いになれば、大人数のガードが犠牲になります。それだけは、それだけは避けたいのです。そんな折に傀儡王様のなさっていることが分かったのです。もし、お力添え頂ければ、ガードの犠牲を無くすことができます!」
傀儡王はしばらく口を閉ざし、何かを思案し、ウィズローズに話を振った
「ウィズローズ、マイナはどういった人間ですか?」
ウィズローズはピンと立った姿勢のまま話し始める。
王と謁見させる前にこのマイナというガードの素性は急速に調べていたようだ。
「ガード内での評判は非常に良いです。遅刻や欠勤は一度もなく規範となるような職員と評価されております。経歴によりますと、年齢は18歳。15の時にガードに入り3年間の間にいくつもの事件に携わり、名を挙げております。また、この経歴に嘘はないかと」
傀儡王は次に僕に顔を向ける。
もしかして僕に話を振るのだろうか、何も考えていないぞ。
「鋼、あなたはどう思いますか?」
「そうですね……」
僕は鉄の詰まった頭を回転させる。
「マイナの言う事は尤もですが、まずは彼女の捜査資料を調べるべきです。それが確かだとはっきりさせてから動いた方が賢明かと。また、ガードの内部に協力者がいれば情報を回して貰えるので僕も動きやすくなります……私を彼女に同行させてくれれば調べて来ます」
ミリオンの意図を考えて、話がスムーズに進むように進言する。
「分かりました……」
傀儡王は考える仕草のあと、杖をついて立ち上がった。
「鋼、この件は貴方に任せます。マイナに同行し私に報告してください」
傀儡王は胸の上辺りに手を置きながら言った。ミニミリオンを胸ポケットに入れていけと言うことだろう。なんだ、僕に任せると言っておきながら、自分も関わる気満々じゃないか。
「はい。承知致しました」
後で自分の部屋からミニミリオンを取ってこよう。
傀儡王の傍らの男が大声でしゃべる。
「これにて謁見を終わりとする!!」
傀儡王は男達を引き連れて謁見の間の奥へと戻っていく。
その間。しばしの沈黙が流れる。
傀儡王が居なくなると青白い顔をしたマイナが大きく息を吐いたのが微かに聞こえた。
ウィズローズが歩き出し、マイナに手を差しのべる
「マイナさん、お立ち上がり下さい。……鋼様、それでいつから動き始めますか?」
「そうですね、今すぐにでも始めましょうか」
どうせ他に手がかりはないし……。ウィズローズが反応する。
「分かりました。では外にゲートを開いておきます。マイナ様も宜しいですか」
「は、はい!なにも問題ありません!」
「じゃあちょっと、僕は準備してきますので、マイナさんは外で待っていて下さい」
謁見室から出ると、僕はウィズローズとマイナと別れ自分の部屋へと向かった。
自分の部屋に入ると、ミリオンが待っていた。
「鋼、よく話を上手く持っていってくれた。何か他に気になる事はあったか?」
僕は最初に頭に思い付いたことを隠さず答える。
「ミリオンの威厳と神々しさが凄かったです。でも怖すぎるので僕はいつものミリオンの方が好きです」
ミリオンはちょっと驚いた後、ため息をつく。
「貴様、そういうの気軽に言うの、やめろ」
ミリオンがミニミリオンを放り投げて寄越す。
「何かあったら気軽に言え。頼りにしてるぞ」
「わかりました……それじゃ、行ってきます」
「おう、行ってこい」
僕は部屋を後にした。
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