第08話謁見の間
あれから3日経った、先日の事件はガードが解決した事件と新聞で報道された。
紙面ではイラストの所長が犯人が抵抗した為やむ無く射殺したと答えている。
この世界のメディアは新聞が主で、ネットやテレビ、ラジオすら無い。
映像や音声を通信する魔法はあってもその保存方法が無いため発展していない。
だから、少数の目撃者がいても黙殺できる様だ。
また、魔法についても大まかに知ることが出来た。
魔法は色々できるが、どうやら個人で使える魔法は日常生活で使うくらいが限界であり、生け贄をしていない人間は銃で戦ったほうが強いらしい。
この3日の間、僕は自らに搭載されていた機能を使えるように練習したり、この世界をより知る為に街の散策をしたりしていた。
最初の1日と比べて、平和そのものだったと言っていい。
「ミリオン、見てください。僕ほら!浮けてますよ!スゴくないですか!!」
やっと思い通りに動かせるようになってきたホバー機能で宙に浮きながら話しかける。
他の機能は考えただけで大体使いこなせるようになっていた。
ミリオンは赤く高そうなソファーに寝転びながら、水晶の玉のようなものを浮かべて覗いている。
「そうか、良かったな……くそう。事件がないぞ。おかしいではないか!」
「事件なら有るじゃないですか、ほらガードの通信石板から時々」
「例えばこれとかか?」
通信石板から音が聞こえる。
『刃物を使った障害事件が発生。口論が発展してなった様子。人形のガードを1、2体応援を頼む』
ミリオンはため息をつきながら通信を切る。
「小さいんだよ事件が。それにお前の火力じゃ殺してしまうだろ。何でもかんでも殺せば良いってもんじゃない」
「最初と言ってた事違いません?」
ミリオンが指をクイッと曲げる。
僕の足が見えない何かに引っ張られバランスを崩し、後頭部から机に頭を打ち付けた後、地面に激突した。
「痛くない!」
僕は叫ぶ。3日もすれば人は環境に馴染むと言うが本当みたいだ。
突然の事でも驚かずに適当なことが言えるようになった。
「お前はなんでもかんでもぶっ殺したいのか?」
「そんな、人をイカレ野郎見たいに言わないで下さいよ。ちょっと揚げ足とっただけじゃないですか」
「貴様、この短時間で私への敬意をどこに落としてきたんだ」
ミリオンが舌打ちする。
とは言っても僕の態度にイラついている感じではなく、思っていたように事が運ばない事に対して義憤を感じているようだった。
「ターゲットは生け贄に関わってる奴だけだ。それ以外はガードに任せておけ……ガードの奴等め、情報を私に流さん様にしているんじゃないだろうな……」
そんな当たり障りの無い会話をしていると、水晶玉がパッと光り、金色の長い髪を一本の三つ編みにして前に掛けた20台半ばに見える女性の顔が写る。
ウィズローズだ。
ウィズローズはミリオンの弟子で、傀儡魔法の優秀な使い手だそうだ。
ミリオンが言っていた代わりに公務をしているのが彼女で、傀儡王の影武者とは彼女の事だ。
当然彼女はミリオンの行なっていることも熟知している。
まぁ、僕の製造には反対だった様だが。
ミリオンとは水晶の玉を通し、遠くにある傀儡の視覚でテレビ電話のように話をすることがことができるそうだ。
といってもウィズローズ自身は今は城にいるのだが。
「ウィズローズさん。お疲れさまです」
「お嬢様、それに鋼様、訪問客がいらっしゃいました」
「何?私だけでなく鋼にまでか?」
ウィズローズは視点を変えて、水晶玉にキャラメルブロンドの色をした髪をポニーテールでまとめた女性を写り込ませる。
年は10代後半。前髪は眉に掛かるくらいの長さ、顔立ちは快活そうで、まだあどけなさを残している。
服装はガードの制服に礼服用の緑のジャケットを合わせている。
「この女か?」
ミリオンが聞くとウィズローズは答える。
「どうやら鋼様と面識があるようでして……先日の事件を見て、お嬢様とお話ししたいと謁見を望まれております」
「知りませんね。きっと人違いでしょう」
僕はチラッと見て即座に答える。結構かわいい人だ。
こんな人と話した事があったらまず忘れるはずがない。
故に会ったことが無いと断定した訳だが、ミリオンは横目で僕を呆れた様に見る。
「覚えてないのか?こいつは立てこもり事件の時、お前が最初に話しかけた女ガードだろう」
そうだったのか。
人の記憶と言うのは全く宛てにならないものだと思う。
刑事モノの物語で、3年前の出来事とか覚えている人がいるけど嘘っぱちばっかりだなと思った。
僕なんて4日前の出来事ですら曖昧だというのに。
僕が顔を覚えるのが苦手なだけかもしれないが。
「しかし、なぜ私に話す?謁見など、お前の仕事だろう。その上、一市民の、さらに飛び込みで来た相手など、いつもなら歯牙にもかけんだろうに」
「それが……内容を聞かれたら、きっと驚かれるかと存じます。」
ミリオンが怪訝な顔をする。
「お嬢様の追っていたグラスという人物に関わりある話です」
「何だと……?」
生け贄を斡旋していると言う、眼鏡を掛けた頬のこけた男の事だろう。ミリオンの声に熱がこもる。
「連れてこい。ああ、それと今回は私が直接話す」
「かしこまりました。それでは、謁見の間につれていきます」
僕は不思議に思い、ミリオンに聞く?
「ミリオンが直接話すんですか?その姿で?」
「直接私が傀儡を操作して話すという事だよ。お前は私の側に控えて神妙な顔をしとけ。アホ面さらすなよ。先に行っとけ」
「僕の顔作ったのミリオンなのに……」
「黙って行ってろ!」
これ以上何か言うと薮蛇なので、大人しく謁見の間に移動する事にした。
廊下ですれ違ったメイドが会釈する。
城の中には、衛兵や世話係の者が大勢いる。
しかしながらその中の殆どが傀儡人形で、殆ど同じルーチンワークで動いている。
喋りかけても軽く会釈をするだけで会話もできない。
一部例外としてウィズローズ直属の部下が十数名いるくらいだ。
いくつかの扉をくぐり、謁見の間にたどりついたがまだ誰もいなかった。
この部屋は城の中でパーティを催す部屋に続いて2番目に大きい部屋だ。
背もたれが異様に大きくゴテゴテした豪華な装飾がついた椅子が置いてあり、その前に金の刺繍が施された長い長い絨毯が引いてある。
他にはなにもない部屋だ。
大抵の謁見は事前に予定を取る。
その殆どが元老院と呼ばれる政治を任されている者が、何らかの街の施策の決定を伺いに来るものだ。
この3日の間にも1回あった。
とは言ってもミリオン自身は施策に目を通すことも無く、そのまま素通りで許可が降りる。
その為ウィズローズが傀儡を使い謁見の対応をしている。
ウィズローズ自身は施策にしっかりと目を通すみたいだが、元老院は信頼できるそうなのでまずそこで止まることは無いそうだ。
そんな事を考えながら、絨毯の脇に神妙な顔を作って立っていると、ウィズローズがガードの女性を連れて入ってきた。
「傀儡王様がもう直にいらっしゃる。この場でひざ膝まづいて待つように」
「はい!」
ガードの女性が立ち膝でしゃがみこみ俯く。
ウィズローズはそれを確認すると、僕の隣に並び立った。
ガードの女性は俯いたまま微動だにしない。だが顔は少し汗ばんでおり、緊張してるのが目にみてわかる。
一般市民が謁見の間に通される事は、殆ど無い。それこそなにか勲章でも貰う時くらいだろう。
たぶん面接の何倍もの緊張感なんだろうなと想像にかたくない。
こういう空気は苦手だ。何か言ってリラックスさせてあげた方が良いのだろうか。
でも余計なことをしてミリオンに叱られるのも御免だ。
ここでの後悔しない選択は、『触らぬ神に祟りなし』だ。
余計なことしてこの娘が処罰されでもしたらたまったものじゃない。
ムスッっとした顔をして待つこと3分弱、しゃなりしゃなりと豪華なドレスを来た、真っ赤な燃えるような髪の女性が謁見の間の奥から出て歩いてきた。その傍らには守るようにキッチリとした王室風の服を着た男が2人付き従っている。
街で見たミリオンの銅像そのままの姿だ。ミリオンが15歳程成長した様な姿で、優しい笑みを作っている。
まるで慈愛を司る女神のようだ。
青く輝く宝玉を嵌めた金の杖を携え、その風格は自然と頭を下げたくなる程の、底知れないオーラを感じる。
あと、胸が大きい。
ミリオン人形は椅子にふわりと腰かけ、ガードの女性に声をかけた。
「よくいらっしゃいました。面を上げてください」
なんだその全てを包み込むような優しい声色と喋り方は。
これが世間一般のミリオンのイメージなのだろうか。
おかしいな、僕のとかけ離れているぞ。
ガードの女性が顔を上げる。
傀儡王の傍らの男が口を開く。多分横のあいつらは謁見用の傀儡人形だろう。倉庫で転がってるのを見たことある。
「傀儡王様の御前であるぞ!名と、用件を言え!」
ガードの女性の頬を汗が伝う。彼女は深く息を吸い込んだ後、ハキハキと喋り始める。
「お目通り頂けましたことを深く感謝いたします!私はマイナ・オーキッドと申します!心臓売りのグラス兄弟を、人形王様の権限において裁いて頂けませんでしょうか!」
ガランとした謁見の間に、マイナの透き通る声が反響した。
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