第07話:王の権限
「お前!何をしたんだ!!手を挙げろ」
僕は言われるまま手を頭の上に上げる。
「銃は持っていないようです!」
「そんなはずはない!こいつは今発砲したぞ」
「男の胸に空いた穴を見ろ!こんな強力な銃は魔法銃しかあり得ない、それもかなり強力なものだ!違法だぞ!」
「傀儡王の命で来たと聞いていたが、いくら命令とは言え、こんなこと……許される訳が……」
「なんだあのパワーは!こいつも化け物か!!」
ガード達は混乱しながらも、警戒し、一様に僕に向けて銃を構えている。
刺激しないように、落ち着いた雰囲気で話しかける。
「僕は傀儡人形です」
周りが一瞬静かになる。
「証拠を見せます……撃たないで下さいね」
左手を捻り、ブレードを出す。そしてすぐにしまう。
「傀儡人形……?傀儡ならば操っているのは誰だ。傀儡の罪は操っている人間の罪と定められている」
僕は首元をさらけ出し、マークを見せる。ガード達は一層にどよめき立つ。
「見ろ、傀儡王様のマークだぞ!」
「バカな、一体ドコから……いくら王様といえど可能なのか……?」
「鋼鉄性か?こんな重いもの操作なんて出来るのか?」
「それこそあり得ない!そんな重量を、長距離操作なんて」
「だがマークは本物だ!そのマークを傀儡王様以外が使えば呪われる!」
あまりに騒ぐので、恐縮しながら聞く
「あの……?僕はこれからどうなるんですかね……?」
ざわざわしていた声が鳴り止む。
一瞬間を置いた後、ガードの中で一番地位が高そうな男がポツリと言う。
「どうにも、ならんよ」
目を真ん丸に開いて、自分でも言っていることがおかしいと思っている様子で、続きを話し始める
「君は、自分の意思で動いている様に見える……だが傀儡王様の傀儡なのだから君は罪には問われない。そして傀儡王様はこの街の絶対的権力者だ。ガードの法でも罪に問う事はできない」
集まっていたガードたちが道を開ける
「帰ってもらって構わない」
「……そうですか」
僕は歩いてその場を去る。僕をじろじろみるガード達の目線がくすぐったい。
「あ」
そこで、一つ思い出し、ガードに聞く。
「ミリオン……いや、傀儡王様の家ってどっちですか……?」
ガードの一人が呆れた顔で指を指す。指の方向を追うと、回りと比べて古めかしい大きな城が遠目に見えた。
◆
既に太陽は沈み、街は闇に染まっている。大通りだが昼間にあった人の活気は鳴りを潜め、静寂が一帯を包み込んでいる。約10メートル置きに黄色く光る石が嵌め込まれた街灯がポツリポツリとたっているだけだ。
そんな中、僕がとぼとぼと城に向かって歩いていると、ミニミリオンが喋り出す。
「鋼、今日はなかなかだったじゃないか」
「いえいえ、それほどでも」
「ヒヒヒ、当然だ。本当に凄いのはこの私だからなぁ!」
この人は、なんだかんだ言って自慢したいだけのようだ。
「ミリオン、質問があるんですが」
「なんだ?」
僕はこの際だから疑問に思った事は聞いてしまおうと思った。
「ずっと僕と喋ってますけど、王様って暇なんですか?」
「貴様、バカにしているのか……と言いたい所だが、半分は的を得ている」
「え、的を得てるんですか?」
正直、もっと怒られるものだと思っていた。
「私は政治には口を出さんようにしているからな。元老院の議会でこの街の行く末は討論され、決められるんだ」
確かに過激すぎる性格だし、政治には向いていなさそうだ。
「でも、街の象徴として公務とかがあるんじゃないんですか?」
「会食やスピーチか?ああ言うのは、弁の立つ者が話の内容考えているのは分かるだろう?」
「ええまあ、はい」
官僚とか……摂政とかだろうか。
「傀儡を立たせ、影武者にやらせていたら、私の出る幕が無くなった」
僕は内心で呆れたが、その感情はミリオンにも伝わってしまったらしい。
「ヒヒヒ。そう呆れてくれるな、私は災いなのさ。昔からな。私が関わると何を成そうとしても決まって血が流れる……無垢な民が私のせいで死ぬのはもう沢山だ。自分が暗君の類いなのは自覚している、だがこの気性は直らない。国の運営に私の様な人間が関わるべきではないのさ。」
ミニミリオンは夜の町並みを見る。水晶で出来た目が、街灯の光を受けてキラキラ光る。
「それでも魔法が根幹を為すこの世界において、私は無二の魔法の祖の一人で在ることには変わりない。傀儡魔法はこの街の礎だ。街を造り上げた私が王を引くことは許されない、ならばいっそ手を出さず見守る事にしたんだよ」
「でも、それだと僕は……?」
ミニミリオンは振り替えると、ビシッと僕を指差した。
「一線を引いた私にも我慢できん事はある!それが生け贄絡みの犯罪だ!これだけはどうにもはらわたが煮えくり返って仕方がない!……止められはしたが、私は断行する事にした!」
なるほど、血の気が多い。居ても立ってもいられなくなってこの計画を始めたと言う事か。
「とは言え私が直接殺して回る訳にもいかなくてな、計画の助けとなる傀儡を作る事にした。疑似魂を扱う傀儡魔法は離れた距離になればなるほど難しいし、また対象が重いほど操るのに大きな魔力が必要となる。それを解決するのが人間の魂を人形自身に入れて自身で動かす傀儡……つまり貴様だ」
「でも、ガードの人達の驚き様から見て、僕の武装は、いくらなんでもオーバースペック過ぎませんか?」
「貴様一人に城が立つほどの金をつぎ込んだからな……それに、貴様は地球人の強力な魂を使ってるから動けるんだ。元は普通の人間の魂を入れて、問題なく動ける範囲まで武装や装甲を減らして調節するつもりだったんだよ」
「へー、ちなみに僕は他にはどんなことが出来るんですか」
「積めるだけ詰め込んだからな……ちょっと待てよ、設計図はどこだ!設計図を探せ傀儡ども」
ミリオン人形からガタゴトと、なにかを探す音が聞こえた。
「えーと、左目の位置観測と温度探知、左手のブレード、右手の魔法弾、魔法ガトリング、声帯模写は使ったよな」
我ながらなんて物騒な人形だ。
「他には左手をワイヤーで発射できる。また、右手の人差し指以外から広範囲に雷を放射でき、両足にはホバー機能が付いていて縦移動なら何処までも飛べる。逆にアンカー機能で地面に留まることもできる。思いきり大声を出せば辺り一帯を音量で無効化できるな。体は具現王が作った魔法合金製で服も同じ金属繊維で作られている。、両膝にロケット弾が合計1発づつ入っている!まぁ、ざっとそんな所だ」
「何がざっとですか!まるで破壊兵器じゃないですか!!」
「何言ってんだ。だからこそいいんじゃないか。これからもどんどん増やしていこう。あ、そういえば各機能は念じるだけでも使えるぞ。少し慣れは必要だがな」
そうこう話しているうちに城についた。大きく巨大な鉄格子の門とそれに見合う灰色の建造物だ。並び立っていた門番の鎧人形が門を開け、僕を中に誘う。庭園はよく手入れされており、庭職人と思われる傀儡がハサミを持って固まっていた。
城の扉を潜り、エントランスに入ると広すぎてどこにいけばいいのか分からなくなってしまった。
「ミリオン、どこに向かえばいいの?」
ミニミリオンは答えない、ぐったりして動かなくなっていた。
「ミリオン!、どうしたんだ、ミリオン!?」
「なーにをやっとるんだ、貴様は」
エントランス横の階段から本物のミリオンが降りてきた
「ミリオンが動かなくなっちゃったんですよ!ミリオン」
「アホ言ってないで、私についてこい、お前の部屋を用意しておいた」
「ええ……せっかく可愛かったのに、いや、本人の方が可愛いから問題ないか」
ミリオンは少し顔を赤くしたように見えた。
「それ以上ぬかすと口を縫い合わすからな……!寝る必要は無いが休眠状態にはなれる。気疲れしただろうから一応寝とけ」
こうして僕の異世界での初めての日は終わりを告げた。
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