不思議な世界で
列車で関西を目指している。
列車と言っても線路の上を走っているわけではない。飛行機のように空を飛んでいるが、翼があるのでもなく、魔法の力が私の常識を全否定しているのだった。
目的地が関西なのは、私の勝手な思い込みかもしれない。母に助言してもらった通りに高校教師から精霊についての知識を得た。地図上で示された場所が、へんてこな日本地図に見えて、そこが関西ぽかったから。
ここは何とも変な世界だ。人と魔法使いと精霊がいる。それぞれが別々の領土を持っている。そこまでは母に教えてもらった通りだった。
変なのは領土だ。
魔族の領土は、陸地しかないらしい。私が食堂から海が見えると主張しても、先生もハジメも海が理解できなかった。食堂の窓から指を差して、海原と海岸の町があると言っても、二人には見えないと答えた。私が差す方向には、原野の地平線が続くだけで、水を湛えた海などどこにもなかった。
無理を言ってどうしても海を確かめたくなって、空を飛んでもらって行った時、私はこの世界の成り立ちを少し分かった気がした。
どこの領土にも行き来できる人族には見えるんだ。言い換えると、他の領土には行けない魔族には、魔族の領土しか見えないんだ。
だから、翼の生えたハジメの背中に乗って海まで飛んで行ってもらった時、私たちは領土の境界線で空間を歪められたんだと思う。
つまり地続きの土地を三者が分け合っていても、魔族は領土の境界線で土地を切り取られ、その端と端を縫い合わされて外に出られないようにされている。
そのために、私は海を目前にして、端と端を縫い合わされた魔族の領土の反対側に飛ばされていた。まるで迷いの森の中を彷徨っているみたいだ。真っ直ぐに歩いていても、また同じ所に戻ってしまうのと似ていた。
ちょっと違うかな。
私とハジメが駅に降り立った。河岸段丘地形の高台から見下ろす精霊の領土には、たくさんの神社の鳥居が見えた。母の魔法によって今の私は目も耳も障害が無くなっている。もうペットボトルを落とす失敗なんてしちゃいけない。
「ハルカ」
「ん?」
「ハルカには、目の前に何が見えているんだい?」
「鳥居がたくさん見えるよ。鳥居って言うのはね、神様の聖域の入り口にある門なの」
「そうか。僕には川沿いに並ぶ列車の工場しか見えないよ」
「川と工場? 違うよ。大きな神社だよ。本当に違って見えているんだね。行こうよ。あの鳥居を潜ればいいんでしょ」
私は簡単に言ったが、魔族は境界を越えられない。ハジメが越えられる筈がない。私だってどうなるのか分からないんだ。でも、やってみるしかないよ。
大きな鳥居の下に立った。高さが二十メートル。もっとある。三十メートルくらい。見上げていると、首が痛くなった。
この先に佐藤がいる。
神社には風の精霊になる佐藤姉妹がいて、私を元の世界に戻してくれると信じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます