食堂で
昼食は、とりあえず助かった。お弁当も持っていないので、どうなるのかなと悩んでいると、この学校は全校生徒が無料で食事できるビュッフェだった。しかし午前を乗り切って、くたくたな私の身の上には、更なる試練が待っていた。
学校が終わった後は、私はどうすればいいの?
大問題じゃないの。一大事じゃないの。私の家は何処にあるの。ここは何処なの。
「どうしょう」
食堂の窓からも緑の地平線が広がっている。左側の彼方には、海が見える。海岸辺りに大きな街があるけれど、歩いて行ったら何日もかかる距離だった。しかもその手前は森みたいになっている。たぶんあそこで迷ってしまい、私には一生抜け出せない気がした。
「高橋に相談するしかないのかなぁ」
それとも先生に? 悩んでもどうすることも出来ないのに、私は悩むしかなかった。あの家に帰ることが出来ても、中にいる母は私の母ではない。と思う。私が私じゃないんだから、母も私のお母さんじゃない。と思う。
しかし、そこしか行くところがない。パステル色の家に帰るしかなかった。そこで母に相談しょうか・・・ 決められない。決まらない。決めようがない。私はどうすればいいのだろうか。どうしてこうなったのだろうか。
!
「佐藤は、どうしてるの?」
私をこんな所に来させた佐藤の妹を思い出した。すぐに探して、元に戻してもらえばいい。それが結論になった。
食堂で佐藤を探した。姉の佐藤翠のほうだ。たぶんクラスメイトだと思ったので、探しやすいと推測したに過ぎない。でも、この食堂にはいなかった。午前の記憶をたどると、教室にもいなかった気がする。
「高橋、高橋ーーっ」
男子グループで騒いでいる高橋を見つけて、強引に引きずり出した。少し乱暴になったが、私はそれどころじゃなくなっているので、驚いている高橋を気遣う余裕を失くしていた。
「佐藤は何処にいる?」
「佐藤?」
「佐藤翠。何処?」
「誰?」
「佐藤、翠!」
「だから、誰?」
高橋が大袈裟に首を振っている。嘘だ。
「じゃ、佐藤、藍は?」
更に大きく首を振っている。嘘だ。嘘。
佐藤の妹は、私を探してくれと言って、魔法を掛けたのに。そんなの話が違うじゃないの。こちらにいないのにどうやって探せばいいのよ。
私のただならぬ様子に、高橋は引いてしまっている。彼だけではない。食堂にいる皆の目が、奇異なものを見る目つきをしていた。
「大丈夫か、ゲン? 顔色が悪いぞ」
言われなくても気分が悪い。先程食べた物を吐きそうだった。
「帰った方がいいぞ。無理をするな」
そう言われても帰りようがない。帰れるものなら、とっくに帰っている。だって私は飛べないのよ。泣きたくなった。あぁ、女の子の姿だったら泣けるのに。男の子なんて嫌だ。何で私は男の子なのよ。あぁ・・・・・
高橋が年配の先生を連れて来て、何やら説明している。私を指差したり、ちらちら見ながら体調不良を説明してくれているみたいだった。
「清水くん。帰宅を許可します」
「でも、、」
帰る手段がないと言おうとした時、私は奈落の底に落とされた気分を味わった。真っ逆さまに転落して行く。
人の手を翼に変えられない私は、落ちて行くしかない。どんな魔法も使えない只の人間なのだ。
もう私は駄目だ。このまま死んでしまうんだ。意識が薄れていった。
それは幸いなのかもしれない。死の恐怖に脅えなくて済む。
さようなら――せめて元の世界で死にたかったなぁ――
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