2

「ギャオース!」

 正面玄関で暴れ狂っている賊は、想像を超える化物だった。

 

 身長は……2m半ぐらいだろか? 自動ドア前の小さなスペースはこいつ1人でほぼ埋まっていた。顔は角刈りのコワモテ、全身筋肉の固まりで、フランケンシュタインってこんなのか? と思わせる。

 店員は30人近く集まっていたらしいが、今立っているのは10人程度だった。あとは全員気絶して床に寝転がっている。


「せ、先輩! あんなモンスター君が相手なんですか?」


「みたいだな。マンガ並だぞ、ありゃ」


「ぜ、絶対勝てないですよ、あんなの。僕達の手に負える相手じゃない……」


「ギャアァオース!」

 

 残っていた社員を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げるフランケン。


「クソ、優介撃て! このままじゃ店から出ちまう!」


「えぇ? なら、先輩も撃って下さいよ!」


「オレはウェポン持ってきてねぇんだ! あんな化物だなんて予想外だった。いいから撃て、マジでやばいぞ!」


「苦手なのに。でぇぇ、当たれ!」


 バシュゥゥゥ! ナカムランチャーから模擬弾が発射された。模擬弾といっても、ヘビー級パンチの2乗の威力がある(店長曰く)、くらえば即気絶の代物だ。


 ガウンッ! 模擬弾は、フランケンの頭上を越えて、入り口の自動ドアの上、コンクリート部分にめり込んだ。パラパラと破片が落ちる。


「あぁ……やっぱり当たらない……」


 何度もいうが、僕はナカムランチャーが苦手だった。練習じゃ結構当たるんだけど、実戦じゃ頭が真っ白になって、どこを狙えばいいか分からなくなる。


「いいからどんどん撃て!」


「うりゃ、うりゃ、うりゃぁ!」


 ガウン! ガウン! ガウン!

 

 1発目は天井に、2発目は自動ドア横の植木鉢に、3発目は、すでに気絶して横たわっている社員の尻に直撃した。社員は当たった瞬間「ウッ」と喘いだが、再びすぐに気絶した。


「だ、誰がやったか憶えてないよね?」


「そんな悠長なこといってる場合じゃない、来たぞぉ!」


 明らかに自分が狙われている事に気づいたフランケンは、僕に向かって突進してきた! ドォン、ドォンと一歩踏み出すごとに、軽い地震が起こる。


「ギャギャォォォォン!」


「う。わぁぁぁぁ、どうします、どうします!」


 もはや完全にパニック状態になった僕は、とにかくエージ先輩に指示を仰いだ。


「撃て、的がでかくなってチャンスだろうが!」


「僕には無理です、先輩、交代して下さい!」


「バカヤロー、撃て!」


「当たらないんですよぉ! やっぱり僕は」


「優介ぇ、後ろだぁ!」


「え? く―――」


 ガウン! ゴッ! 


 振り向きざまに、反射的に撃った僕の弾丸は、床に当たり、そのまま跳ね返ってフランケンの顎を直撃した。


 ウ~ア~、と怪物そのものの叫びをあげると、フランケンはそのまま床に、大の字になって崩れ落ちた。


「た、助かった」


 半ば放心状態で、僕は床に座り込んだ。ほどなく、インカムに場違いな、さっきのオペレーターの、どこか間の抜けた声が響いた。


「皆さん、お疲れ様でした~。17時6分、賊は撃退されました。撃退したのは……タイムカード番号1002番、精肉売り場担当の、古川優介さんですね。すぐ報告のため、社長室に来てください。それでは各自、通常業務に戻ってください」


 こうして、僕は久々に賊を撃退した。しかも結構、大物を。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る