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「ギャオース!」
正面玄関で暴れ狂っている賊は、想像を超える化物だった。
身長は……2m半ぐらいだろか? 自動ドア前の小さなスペースはこいつ1人でほぼ埋まっていた。顔は角刈りのコワモテ、全身筋肉の固まりで、フランケンシュタインってこんなのか? と思わせる。
店員は30人近く集まっていたらしいが、今立っているのは10人程度だった。あとは全員気絶して床に寝転がっている。
「せ、先輩! あんなモンスター君が相手なんですか?」
「みたいだな。マンガ並だぞ、ありゃ」
「ぜ、絶対勝てないですよ、あんなの。僕達の手に負える相手じゃない……」
「ギャアァオース!」
残っていた社員を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げるフランケン。
「クソ、優介撃て! このままじゃ店から出ちまう!」
「えぇ? なら、先輩も撃って下さいよ!」
「オレはウェポン持ってきてねぇんだ! あんな化物だなんて予想外だった。いいから撃て、マジでやばいぞ!」
「苦手なのに。でぇぇ、当たれ!」
バシュゥゥゥ! ナカムランチャーから模擬弾が発射された。模擬弾といっても、ヘビー級パンチの2乗の威力がある(店長曰く)、くらえば即気絶の代物だ。
ガウンッ! 模擬弾は、フランケンの頭上を越えて、入り口の自動ドアの上、コンクリート部分にめり込んだ。パラパラと破片が落ちる。
「あぁ……やっぱり当たらない……」
何度もいうが、僕はナカムランチャーが苦手だった。練習じゃ結構当たるんだけど、実戦じゃ頭が真っ白になって、どこを狙えばいいか分からなくなる。
「いいからどんどん撃て!」
「うりゃ、うりゃ、うりゃぁ!」
ガウン! ガウン! ガウン!
1発目は天井に、2発目は自動ドア横の植木鉢に、3発目は、すでに気絶して横たわっている社員の尻に直撃した。社員は当たった瞬間「ウッ」と喘いだが、再びすぐに気絶した。
「だ、誰がやったか憶えてないよね?」
「そんな悠長なこといってる場合じゃない、来たぞぉ!」
明らかに自分が狙われている事に気づいたフランケンは、僕に向かって突進してきた! ドォン、ドォンと一歩踏み出すごとに、軽い地震が起こる。
「ギャギャォォォォン!」
「う。わぁぁぁぁ、どうします、どうします!」
もはや完全にパニック状態になった僕は、とにかくエージ先輩に指示を仰いだ。
「撃て、的がでかくなってチャンスだろうが!」
「僕には無理です、先輩、交代して下さい!」
「バカヤロー、撃て!」
「当たらないんですよぉ! やっぱり僕は」
「優介ぇ、後ろだぁ!」
「え? く―――」
ガウン! ゴッ!
振り向きざまに、反射的に撃った僕の弾丸は、床に当たり、そのまま跳ね返ってフランケンの顎を直撃した。
ウ~ア~、と怪物そのものの叫びをあげると、フランケンはそのまま床に、大の字になって崩れ落ちた。
「た、助かった」
半ば放心状態で、僕は床に座り込んだ。ほどなく、インカムに場違いな、さっきのオペレーターの、どこか間の抜けた声が響いた。
「皆さん、お疲れ様でした~。17時6分、賊は撃退されました。撃退したのは……タイムカード番号1002番、精肉売り場担当の、古川優介さんですね。すぐ報告のため、社長室に来てください。それでは各自、通常業務に戻ってください」
こうして、僕は久々に賊を撃退した。しかも結構、大物を。
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