ウェポン・オブ・ナカムラ ~世界一危険なスーパーマーケット~

情熱大楽

 ピリリリリリリ……

 

 装着していたインカムに、緊急用アラームが鳴り響いた。間髪入れずに、店長の怒鳴り声がインカムを通じて聞こえてくる。


「てめぇら、出番だぞ! であえぇ、であぇぇ!」

「ちょっと店長、店員が混乱するから黙ってて下さい!」

「べらんめい、ワシは店長だぞ! お? コ、コラ離せ、コ……ザザ……」

「……失礼しました。緊急事態です。午後17時1分、2階の文房具売り場にてスティールが発生しました」


 いつもこの言葉を聞いた瞬間、体が軽く震える。


「スティールされた売り物は、アバレンジャーキャラクターカードつきぬりえちょうが1点、ジャポニカ学習帳が1点、マッキー極細8本入りが1点です。現在賊は、正面玄関に向かって逃走中。タイムカード番号が偶数の人間は、正面玄関に急行してください! 繰り返します、タイムカード番号が偶数の人間は、正面玄関に急行してください!」


 ショッピングセンターナカムラの、精肉売り場。


 夕方5時過ぎだとあって、精肉売り場コーナーには、大勢の主婦がつめかけていた。


 僕は、まさに今、牛サイコロステーキ(冷凍のオーストラリア産だ)をお客から受け取って、値段を言い渡そうとしていたところだった。

 けど、緊急事態だ、肉を売ってる場合じゃない。あわててお客にバツサインを出すと、慣れたもので、お客もすぐに理解し、離れていってくれた。


 偶数の人間。僕のタイムカード番号は1002番、偶数だ。……偶数だよな?


「落ち着け優介。1002番は偶数だよ。そら、ウェポンだ」


 優介っていうのは僕で、本名は古川優介。エージ先輩はそういうと、僕の両手の中に鉄製の銃器を押し付けた。

 ナカムランチャー。正式名称、中村式43mm砲。店長である中村が、グレネードランチャーを模して作った、ショッピングセンターナカムラ最強のウェポンだ。大きさは774ミリ、重さは弾丸を装填してない状態で4kg。46mmの模擬弾を撃ちだして、その打撃で賊を気絶させるのが基本的な使い方だ。


「エージ先輩、僕、ランチャーはあんまり自信無いんですけど……」


「毎日一応練習してるじゃないか? 自信持てよ」


 自信持てよといわれて、自信が沸いた試しはない。


「だいたい優介。お前さん、今日は1人も賊を撃退してないだろ? もう夕方だ、そろそろ撃退しておかないとヤバイんじゃないの?」


「じゃあ、せめて電磁モップに持ち替えさせて下さい。あれならまだ」


「おいおい、今逃げてる賊は、超強襲型、バリバリの肉体派だぜ? 接近戦挑んで、木っ端微塵になりたいのか?」


 木っ端微塵。すぐさま僕は、先月強襲型に足を踏み潰された社員のレントゲン写真を思い出した。粉々も粉々、足の骨は踏んで割れたポテトチップスのようになっていた。


「うぅ、分かりました、ランチャーでいいです」


 自分で思い出して、自分でゾッとした僕は、先輩の意見を素直に聞くことにした。


「OK。ここで頑張って、歩ちゃんにいいところ見せろよ」


「たたた? 滝川さんは関係ないでしょ!」


 僕は断固否定したが、悔しいことに顔は熱くなっていた。


「関係ない? そうでもないぜ。大物を捕らえて、勢いづいたところで告白だ。どう?」

 

 大物を捕らえて、勢いづいたところで告白……。


「そ、そんな勢いなんて借りなくても、僕は気持ちを明かしますよ。そんなことより、先輩、そろそろ正面玄関に行きましょうよ。賊が撃退されますよ?」 


「ん、それもそうだな。んじゃ、そろそろ行きますか」


「ハイ」


僕達は、ようやく正面玄関に向かって走りだした。しかし走りながらふと思う。


(勢いをつけて告白か、悪くないな)


 ハッキリいって僕は、エージ先輩の言葉を、おもいっきり真に受けていた。

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