猫VSヒトデ

「ニャァァーーーー」


『むん!』


 黒猫が吠える。

 俺はそれに対し北東神拳奥義竜の構えで迎え撃つ。

 黒猫は一時も俺から目を離さない。

 俺もまたそれに応える様につぶらな単眼で黒猫をにらみ返す。

 ゆっくり、ゆっくりとお互いが牽制し合い時計回りにその立ち位置が動く。


 そわそわそわ~~


 ――――風が吹いた。

 優しい風に俺のまつげが揺れる。


「ニャァアアーーーーー!!」


 俺から発せられる重圧プレッシャーに耐えかねたのか、黒猫が動いた。

 その鋭い爪で俺を引き裂こうと襲いかかってきた。

 迫り来る爪――――


『ほうわっちゃぁ~!!』


 気合い一閃。

 俺はその爪を事も無げに逸らして躱す。


『甘い――――むっ』


 躱したはずの爪。

 だが俺の頬(胴?)に一筋の傷が付いていた。

 そっとその傷を手でなぞる。

 甘かったのはどうやら俺の方か――――


『それでこそ好敵手ライバル――――今度はこっちから行くぞ!!』


 北東神拳奥義――――ヒトデぱーーーーーーんち!!!

 青と赤、二色の鮮やかな俺の腕から繰り出される拳。

 その拳は只の拳では無い。

 何故なら――――ヒトデの拳だからだ。


「ニャウッ!」


 しかし以外にも黒猫はぬるりと俺の攻撃を躱す。

 優雅に、それでいて素早い身のこなし。

 やはりこの黒猫ただ者では無いな!


『くわっ!』


 ならばと俺は尚も拳を繰り出す。


 ヒトデぱーーーーんち!


 にゅるん。


 ヒトデぱーーーーーーんち!!ぱーーーーんち!!!!


 にゅるん、にゅるんっ。



『はぁ、はぁ、はぁっ、ちょこまかと――――やるな!!』


 じりじりと焼け付く日差しが乾燥肌の俺を責め立てる。

 流れ出る塩分と共に俺のHPを着々と奪っていく。


 そして眼の前には黒猫。


 天空の日差し、前方の猫――――


 正に四面楚歌!!


『どうやらこの俺を本気にさせちまったようだな………後悔してももう遅い!!!』


「にゃぁぁ~~ん」


 ありったけの力を俺は自分の瞳に溜める。


『どうなっても知らんぞぉぉぉおおお!!!!!蠢く、蠢くぞ俺の邪眼が!!!』 


 俺にもどうなるか分らない。

 そう、なぜなら――――スキル使った事無いから。

 初スキル使用。


『俺は人間を辞めるぞぉぉぉぉ!!!』


 何処かで聞いた事のあるような捨て台詞と共に俺はスキル童貞を捨て去る。

 そして邪眼という超中二スキルを惜しげも無く発動。


『スキル邪眼が発動しました。どの邪眼を発動しますか?』


 え?

 どの邪眼?

 何かいきなり女性の声が頭の中で鳴る。


 1、閃光の邪眼

 2、畏怖の邪眼 

 3、ジャ・ガーン


 まさかのコマンドバトル方式!

 閃光の邪眼も畏怖の邪眼も気になるがまず『3』!

 ジャ・ガーンってどうよ!?

 よく分からんけどジャ・ガーン一択よ!!


『邪眼の力を舐めるなよ!!!ジャッ・ガーーーーーーン!!!』


 ふわり。

 途端に俺の身体が宙に浮く。

 大の字に身体が開くとシュィンシュィンシュィンと何かが俺の身体に集まってくる。

 星形の身体がきらりと輝く。


 この時俺は……


『そう言えばジャ・ガーンってどう発音するんだろう?ジャで一度切るんだろうけどガーーンでこう、すっと終わらせるのか、それともジャ・ガァーンと一度にフランス語っぽくガァーンで音程を上げて発音するのか。こういう事ってどうでも良い事なんだけど割と大事な事なんだよなぁ~』


 そんな風に俺は思考を巡らせていた。


 そして思考の海にダイブした俺の中を猛烈に何かが満たしていく。

 その満たされた何かを一気に放出。

 身体の中の溜った物を一気に吐き出す快感に打ち震える俺。


『あふぅぅ~~~』






 からの――――


 ズガガガガガッガッガガガガガッガガガッガがガッガガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!


 不可抗力。


 この時俺はそう思った。

 いや、正確にはそう思う事で逃げたかったんだ。

 自分の目から放たれた極太のレーザー、その威力から目を背けたかったのだ。

 言って無かったけど一応周囲に壊れかけの木造建物とかあったんだ。

 だから俺、ここ廃墟なんだろうなって勝手に思っていたんだ。

 でもね、今ね、その建物、黒猫と一緒に塵になって行ったんだ。

 いや、ホント、まじで。


 邪眼恐るべし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る