第34話

「おい、ユグド。こいつが大精霊なのか?」

 ユグドに案内され、向かった森の中にあったのは、小さな社だった。

 小さい。祀られているというよりも、誰かが趣味で設置した鳥の巣箱くらいのサイズ感だ。

 屋根も壁も朽ちかけ、苔むしている。

 いや、まあ、そこは問題じゃない。

「こちらが、この辺りでは一番の古株の大精霊ですね」

「猫じゃん」

 招き猫とか、猫又とか、そんなんじゃない。ただのキジ柄の猫だ。その猫が、小さな社に体を押し込め、こちらを不思議そうな目で見上げている。その姿は、ぴったりサイズの段ボール箱に体をねじ込んで満足している猫と変わらない。

「何ですかニャ? いきなり来たかと思ったら、猫を侮辱するのですかニャ?」

「いやー。猫は大好きなので、大歓迎なんだけどな。どんな変わり種の大精霊に会えるのかと思ってたら、見慣れた姿だったんで、びっくりしただけだよ」

 ある意味、変わり種かもしれんが。

「この姿をしている大精霊は多いですよ? 町中をうろついても、人家に居ついても違和感ないですからね。大精霊から神化するものもいるほどです」

「もしかして、神化すると、尻尾が増えたりする?」

「ほー。よく知っているのニャ。猫に限らず、狐やイタチなんかも、神化すると尻尾が増えるのニャ。犬や狸なんかだと、違った神化をするみたいニャ」

 そのうち、猫又や九尾の狐、犬神や刑部狸といった連中とも会うのかもしれん。風の大陸の風の精霊だったら、カマイタチもいるだろう。

 動物好きとしては、ぜひとも会ってみたい。

 神化した相手を動物と同じ扱いにするのもどうかと思うが、それはそれだ。

 それはそれと言ったら。

「もっと色々聞きたいことがあるが、本題が先だ」

「ニャ?」

「えーと、あなたは確か、オロさんでしたね。折り入って頼みがあるのです。こちらのコウ様を、バアリール様に紹介してはいただけないでしょうか?」

「バアリール様にですかニャ? 他ならぬユグド様の頼みですので、かまわないニャ?」

「マジか!? 助かる」

「そりゃ、ユグド様は、世界樹の精霊神様ですからニャ。精霊の中でも飛び抜けて偉い方ですニャ。断れるはずないニャ。でも、付き添いの人間は何なのニャ? ずいぶん、偉そうなのニャ」

「ああ。紹介が遅れましたね。こちらは、知恵と知識の神として招かれた方で、コウ様と言います。立場的には、バアリール様よりも上の方と思っていただいてかまいません」

 そうなの? と、思ったが、正式に最高神の右腕認定されているのだから、そうなるのか。場合によっちゃ、アマトよりも偉いのかもしれない。

 緑山さん、スゲーな。と、今さらながら思ったが、仕事中以外のいい加減な姿を見慣れているせいか、素直に尊敬できないという本音は、心に仕舞っておこう。

「ほえー。そんなにスゴイ人、神様だったのニャ。それは、失礼しましたニャ」

「ああ、イイ、イイ。かしこまらないでくれ。それよりも、バアリールの所まで、頼む。知恵と知識の神だなんて大層な肩書を押し付けられたが、この世界に来たばかりで、神通力みたいな能力は持ってないからな」


 こうして、どうにかこうにか、風の大陸の守護神である、バアリールに話しをつけに行くことができることになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る