第28話

「まさかの収穫なし……か。いや、この都市を丸ごとゲットできたと思えば、上々か? まあ、ガラック殿を仲間にできただけで、大収穫だから、上出来だと思った方が良いか」

 書庫から出て、独り言ちる。

 ガラックは、少しひとりにして欲しいと、中に残ったままだ。

 この時間を使って、今後の予定を考える。

 ドワーフの知識をここで得る算段だったのだが、元々あるのかも不明なものだったので、痛手はない。期待はしていたが、情報そのものに対してというよりも、王家の秘宝的なものを見られるかもしれないというミーハーなノリだ。そういう意味では、大変満足している。

 むしろ、この都市を今後活用できることになった方が重要だ。

 それに、ガラックも話していたが、人間族の国には、どこにも王立図書館が作られていたはずなので、そのうち巡ってみればいいだろう。

「とはいえ、このままだと、上が魔物に襲われて住人が避難してきても、すぐには暮らしが成り立たないな」

「物流は、転移魔法を使える者がいれば、何とかなるでしょうが、ライフラインが機能していないみたいですものね」

 誰にともなく呟いたものだったが、ユグドが答えてくれた。

 上下水道、電気、ガス。

 電気とガスに代わるエネルギーは、魔石で賄っているはずだが、魔石の在庫が残っている様子はない。採取から始めるとして、上で増えたドワーフを支えられるだけの数を確保するのは、かなり大変だろう。

 上下水道も、メンテナンスから始めなければならないはずだ。こういった分野も、職人のレシピやスキルでどうにかできるのかは、わからない。ゲームの場合は、そんなの無視して問題ないからだ。プランナーやデザイナーが、趣味で設定を用意してくれることもあれば、イメージボードだけで済ませる場合もある。正直、そこは俺の管轄外であるため、覚えていない。

「転移魔法を使える者がいればと簡単におっしゃいますが、どうですかね? 私どもは必要に迫られて修得しておりますが……。聞き及んだ限りだと、人も物も移動する必要がない暮らしをしているみたいなのですが、各地に、必要な人材が残っているのでしょうか? あのドワーフが、物作りを辞めてしまっているほどなのですよ?」

「あ……」

 俺が考え事をしていると、ソロリがユグドに問いかけていた。彼も、少なからず、ドワーフの変化にショックを受けていたらしい。

 エルフとドワーフは仲が悪いという設定であることが多いが、この世界ではそうでもない。そのため、頻度は低いものの交流はあり、ドワーフにかんする知識も持っていた。

 ソロリも、見た目は少年にしか見えないが、200歳を超えている。

 長年、物作りならドワーフと教わってきたのだ。

 その、職人の一族と信じて疑わなかったドワーフが、ただの脂肪の塊に変化して、自堕落な生活を送っている事実を目の当たりにして、俺の言葉の重みを実感しているようだ。

 同じエルフが、森の管理を辞め、乳の形にこだわったフィギュア造りに励んでいると聞くよりも、実際に見た衝撃の方が大きかったみたいである。

「何にせよ。せっかく優秀な職人がいるのに、人手が足らないな」

 転移魔法の使い手確保は後回しにするとしても、都市全体のメンテナンスをガラックひとりに任せるのは、さすがに酷と言うものだ。そんなに悠長に待ってもいられないだろう。

「それでしたら、一度、ハナレに戻りますか? まだ結論は出ていないかもしれませんが、里の者に報告もしたいのですが」

「うん。そうだな。ガラック殿に仕事を始めてもらう前に、顔合わせをしてもらうのも良いかもしれん」

 こうして、マサユキの提案を飲む形で、俺達は一度ハナレに戻ることにした。


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