第25話

「なん……じゃ、あの悪趣味な街並みは……」

 マサユキの話に従い、地上に移動する。

 地下都市を移動してだと道のりが複雑な上に、遠いという話だったので、ガラックの鍛冶場から再出発となった。城下町のどこかに、地上に出る転移門があるらしいのだが、王族であるガラックには不要なものだった上に、100年以上も離れていたので覚えていなかった。

 マサユキの転移魔法も、ヴェルクヴェルクを直接訪れたことがなく使えなかったのだ。

 仕方なく、地道に徒歩で向かい、ようやく目的地が見えたところで、ガラックは唖然とした声を上げてしまったわけである。

 うん。気持ちはわかるよ。

 確かに、人によっては悪趣味と表現したくなるな。

「そうですか? 我々、里の者には、豪華絢爛な黄金郷として名高いのですが」

 視線の先にあったのは、モンスター避けの壁もない都市。

 広々とした荒野に場違いなほど輝く黄金の建造物の数々。そのどれもが、他と競い合うように上へ上へと伸びている。

 中でも目立つのは、中央のひときわ高い塔のような城だろう。

 おそらく、城下町の建造物は、王城よりも高い位置まで伸ばすことは認めていないのではなかろうか。しかし、高さで対抗できないぶん、装飾で競い合っているようにも見える。

「まあ、観光地と思えば、見応えはあるか」

「ワシらドワーフは、対抗意識が強いからのお。誰も彼もが意地を張り合っているのが目に浮かぶわい」

 対抗意識が強いから、装飾品や装備品に気を使う。誰もが唸る一級品を身につけることがドワーフのステータスであり、それを自らが作ったとなると羨望の対象となるのだ。

 なっていたはずだった。

 ところが、自分で作るよりも、スゲーもん神様が作ってくれるようになっちゃったんだもんな。どうなってるのか、だいたい予想はつく。


「おう、ガラックではないか! 100年ぶりか?」

 王城にたどり着き、俺とユグドも一緒だったこともあり、王との謁見は早かった。王様相手にどんな態度で接すればいいのか不安だったが、ユグドの話だと普段通りで問題ないとのことだった。王より神が偉いのは、当然か。

 俺とユグドに一通り挨拶を告げた後で、ゴルド王はガラックにも声をかけたが、100年ぶりの親子の再会とは思えないほどアッサリとやり取りは終わってしまった。

 というか、形式的な挨拶だけで終わりだ。親子の会話も何もない。

 

「あれで良かったのか? 100年ぶりなんだろ? 積もる話もあったんじゃないか?」

 生き別れていた親子の、感動の再会というわけでもないのだから、特別気にかける必要もないのだろうが、声をかけずにいられなかった。

「いいんじゃ。あんなに無様な親父殿は、見ておれん」

「無様?」

 ガラックの言葉に、ソロリは首を傾げる。

「無様じゃよ。何じゃ、あの恰好は」

 嫌悪感のこもった声を絞り出す。

「どれもこれも、一級品の衣服に装飾品だったと思うのですが」

「あー。違う、違う。ガラック殿が言いたいのは、そういうことじゃない」

 ガラックの落胆が何を意味するのか、俺にもわかった。

 今まで、追いかけていたはずの背中が、突然消えてしまったのだ。憧れ、追い求めてきた視線の先にいたはずの越えられない壁が、100年見ない内に、溶けて消えてしまっていただけならまだ良かったのに、どこの誰とも知れない神にねじ伏せられ、飼い慣らされてしまっていたのだ。

 嫌にもなる。

「ゴルド王が、自分の腕ではなくて、神の手によって生み出されたガラクタを褒めていたことが、気に入らないんだよ」

 長いことゴルド王が金属と向かい合っていないことは、一目瞭然だった。

 ドワーフといえば、ずんぐりむっくりのタルのような体型。それは、日夜、職人として真摯に仕事に打ち込んでいるからこそ維持される。ガラックのように。

 筋力とSTRは別物だ。筋肉がつけばSTRが上がるわけでもなく、STRが高ければ筋骨隆々というわけでもない。加えて、ゲームと違い、この世界の住人は衰えることがハッキリした。

 確かに、ゴルド王もタルのような体型だった。

 しかし、それは、筋肉によって形作られたものではなく、脂肪のぶよぶよしたものだったのである。

 俺の同僚にもいたなあ。

 俺も、体質的に太りにくかっただけで、食っちゃ寝タイプだから、あんまり責められないけど。

「賢者様よ。ワシは、気が変わったぞい。正直、何が悪いことなのか、さっぱりわかっておらんかった。しかし、ありゃ、いかんわ。荒療治、ワシも手を貸そう!」

 今まで、どことなくぼんやりした表情だったガラックの目に、力強い光が宿ったのが見えた気がした。

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