第24話

「なんじゃ? 誰もおらんのか? どうなっとるんじゃ?」

 ガラックに案内される形で、ヴェルクヴェルクに向かうと、思わぬ事態になっていた。

 自分では出来損ないと自虐していたが、そこは王子。王城直通の転移オーブを所有しており、移動はあっけないものだ。

 しかし、転移が終わってすぐに異変に気づいたガラックは、不思議そうに首を捻っていた。

 そりゃ、王侯貴族しか持っていない転移オーブの発着所だ。

 いつ何時、誰が利用するかもわからないとはいえ、そこにことがあり得ない。

「たまたま交代の時間だったのか? まあ、いいか。すぐに会えるかワシにもわからんが、親父殿のところに顔を出さねばなるまい」

 あまり深く考える性格ではないのだろうガラックは、すぐに考えるのをやめ、部屋を出ていく。親父殿とは、つまり、ヴェルクヴェルクの王である。

「静かだな」

 ガラックの後に続いて部屋を出てみて、異様さは益々際立っていた。

 ドワーフの王都、ヴェルクヴェルクは地下にある。自然光は届かない場所なので、天然の発光石に魔力を通し、不夜の空間に作り変えられている……はず、なのだが、妙に暗い。

「なんでこんなに魔力をケチっとるんじゃ?」

 魔力も、人力で注入しているわけではなく、魔石を使ったものなので、魔石の鉱床を押さえているドワーフにとっては貴重品の類ではないのだそうだ。

 何より。

「誰もおらんな?」

 どこに行っても、誰にも出会うことがない。それどころか、人が住んでいる気配がない。どこもかしこも埃っぽく、長年使われた形跡がない。積もった埃で、足跡が残るほどである。

「ドワーフって、移住するものなのか?」

 玉座の間に向かう途中、一度建物から出た所で周囲を見渡す。王城内だけでなく、王都全体が、どことなく薄ぼんやりした光に包まれているのが見えた。魔力のこもっていない、ただの発光石の明かりだけのようだ。

 視線を戻し、要塞のような無骨な城を見上げ、問いかける。

「いやあ。貴重な石が豊富に採れるこの場所から、移り住むはずないんじゃがな。それとも、もっと良い場所が見つかったのかのお? しかし、もともと、ここは神に導かれた場所と聞いておる。ここ以上の場所なんぞ、あるとは思えんがなあ……?」

 この世界の素材は、ゲームと同じで時間経過によってポップする。ただ、ゲームと違って、誰かが先に採取してしまうと、再びポップするまで同じだけの時間を待たなくてはならない。

 ガラックが滞在していた鍛冶場は、ここよりは劣るが豊富な素材が採れ、ここでは採れないレア物が稀に手に入ることから作られた場所らしい。

 一方、ドワーフの王都ヴェルクヴェルクは、神の宣託に導かれ、採取ポイントを求めて岩山をくり抜き、効率的にレア鉱石を採取できるように作られた都市なのだそうだ。

 鉱石を掘りつくすということは起こらないので、拡張することはあっても、移り住む理由がない。というのが、ガラックの見解だった。

 しかし、話はあっけなく解決した。

「ここは地下ですよね? ヴェルクヴェルクは地上にあるはずですが? それと、伝え聞いている外観と、ずいぶん印象が違います」

 渡り廊下に出て、しばらく周囲を観察していたマサユキが、少し遠慮がちに声をかけてきたのだ。

「地上?」

 ガラックが怪訝な表情になっているが、マサユキの話を疑う理由がない。

 そして、おそらく、俺が思っていた以上に、ドワーフの文化は変革してしまっているようだ。

 下手したら、鍛冶を捨ててしまっているかもしれないほどに……。

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